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4.換金

「とりあえず、何かアイテムを換金しよう」


 微妙な空気になった場を和ませるために、俺から提案をする。


「換金って、何も持ってないように見えるけど? あ、その刀を換金するとか?」


 前島さんが俺の腰に挿してある刀を指してそう言う。


「おっま、ふざけんなよ! これ高かったんだぞ! 売るわけにはいくか!」


 流石に30万もした刀を売るわけにはいかなかった。現代刀工の作でもこんなに高いのかとビビったものだ。まぁ、凶器としてではなく美術品として売ってるわけだから、これでも安い方なのかもしれんが。


「売るのはこいつだ。テレッテー。お塩ー」


 セルフ効果音と共に木製の容器に入れられた塩をアイテムボックスから取り出す。現代で売ってるビニール製の袋じゃないのは、向こうで詰め替えたからだ。流石にビニール袋でそのまま持ってきたら色々と問題がありそうだからな。


「ど、どっから取り出したの!? ま、まさかアイテムボックス持ち!?」


「その通りー。しかも、俺は神様転生だが、転移前に準備期間があったからその間に売れそうなものを仕入れていたのだ」


「ず、ずるい! そんなのズルイ! アイテムボックスだけじゃなくて準備期間もあるなんて! あたしなんて下校中にいきなりさらわれたのに!!」


 前島さんのその境遇には同情するが、俺は依頼されて来てるからな、その分色々と便宜を図ってもらってるのだ。


「まぁ、このおかげで君も助かるわけだからいいだろう。と言うわけでこれを売りに行くぞ。商業ギルドへ」


 道端の人たちに聞き込みをしながら、商業ギルドへとたどり着く。

 中は、普通に地球の銀行といった感じだった。窓口があり待合がありまんま見た目は銀行だ。窓口は複数あり、奥で職員が忙しそうにしている。


 俺はその中の一つの窓口に行く。すると女性の職員がすぐに対応してくる。


「ようこそ、商業ギルドへ。御用はなんでしょうか?」


「商品の買取ってここでやってますかね?」


「ギルド自体は商品の買取はしておりません。ですが、買取をする商人を仲介することは可能です。どのような商品でしょうか?」


 ふむ、売買したかったら商業ギルドに登録しろとか言われるかと思ったがそんなことはないのか。まぁ、俺にとっては都合が良くて助かるが。


「あぁ、これだ」


 そう言って脇に抱えていた塩をカウンターに置く。


「こちらは?」


「塩だ」


「こ、これが塩でございますか!?」


 塩の現物を見て目の色を変える職員さん。そりゃ地球の、日本の塩は品質がこっちとは比べものにならないだろうな。昔の塩ってもっと黒っぽかったんだっけか。こんなにサラサラで真っ白な塩などないだろう。


「しょ、少々お待ちください」


 職員さんは慌てたように立ち上がり、奥の階段を駆け上がる。その慌てようを見て俺は一筋の汗を流した。

 だ、大丈夫かな。「俺、何かやっちゃいました?」案件じゃないだろうな。いや、ここは動揺しないでおこう。ここには商談に来ているわけだからな。弱みを出したら負けだ。


 しばらくして、職員さんが恰幅の良さそうなおっさんと一緒に降りてきた。おっさんは俺の方を一瞥すると、ニコニコと人好きの良さそうな顔を浮かべる。


「ようこそいらっしゃいました。ガロの商業ギルドのギルドマスターをしておりますポックルと申します。よろしくお願いします」


「あ、あぁ。よろしくお願いする」


 うぎゃあ。ギルドマスターが出張ってきたよおい。やっぱりちょっとやり過ぎだったか? 塩じゃなくてパワーストーンの方を売ればよかったかも。


「これが塩でございますか。少し舐めてみても?」


「あぁ、構わない」


 俺が許可を出すと少し塩をすくって舐めると、ギルドマスターが難しい顔をする。


「お客様はこれをお売りにきた。そう伺っておりますが?」


「あぁ。でも商業ギルドでは買取はしてないみたいなんで、商人の紹介をお願いしたいんだが──」


「いえいえ、買取をしていないと言うのは建前でしてね。買取をしているとなると、店も持たずにここで売り出して出店料を払わず小金を稼ごうとする商人が出かねないもので。それのための対策であって、全く買取をしていないと言うわけではないのですよ」


 そう言って、ギラリと目を光らせるギルドマスター。微妙に早口なのは焦っているのか。

 なるほど、塩の品質が高すぎてこの機会を逃したくないってことか。


「なるほどわかった。だが、買取にあたって一つ条件がある」


 このギルドマスターの態度を見て、一つ付け加えておくことがあると思い口を出す。


「なんでございましょう?」


「この塩の仕入れ先を聞くことは許さない。それを認めてくれれば売ろう」


「そ、それは……」


 やはり聞きたがったか。まぁ、商人としては正常な反応だしな。だが、教えることは絶対にできない。と言うか、教えたところで仕入れは絶対に不可能というか。


「い、いえ。分かりました。これだけ高品質の塩です。秘密にしたがるのも納得です。この量でしたら、金貨1枚で買取させていただけないでしょうか?」


「あぁ。ちなみに同じのが後4つあると言ったらどうする? 買取金額は下がるか?」


 後出しジャンケンみたいだが、これもまた交渉のうちだ。金貨の価値は分からないが、大体のファンタジー世界では最上位硬貨だ。それとこんな安物の塩を交換できるなら悪くない。どうせ、次の世界に行く時はまた仕入れることができるんだ、ここで全部吐き出してしまおう。懐から出すふりをして、アイテムボックスから塩を取り出す。


「よ、四つですか!? い、いえ大丈夫です。同じ値段で買い取らせていただきます。合計で金貨5枚となりますが、よろしいですか?」


「あぁそれでいい。うち一枚は崩した状態で頼む」


 崩した状態で受け取れば、他の硬貨についても知ることができるし、何より買い物するときに便利だ。


「分かりました、すぐにご用意いたします」


 しばらくして、革袋に入った状態で金が運ばれてきてそれを受け取る。


 今更だけど、塩が専売対象じゃなくてよかった。そう考えると危ない橋渡ってたのかも。

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