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2.異世界言語と日本語と

「見えてきましたね」


 あれからしばらく歩くと、俺の目にも城塞都市とやらが見えてきた。なるほど、確かに城壁の素材を見る感じ中世っぽいな。その城塞都市だが、中に入る人たちで列をなしていた。ここに並べばいいのだろうか。


「これ、並べばいいのかな?」


「ですね、列の先頭は門に通じてるみたいです。ですが、大丈夫でしょうか?」


「何が?」


「いえ、列が出来ているということは、門で検問のようなことをしているということでは? 通行証が必要だったり、身分証が必要だったりするのではないですか?」


「うっ」


 言われてみればその通りである。というか異世界ものではお約束の展開である。他にもお約束の展開といえば、犯罪歴を調べれる不思議アイテムがあったり、一時金を払えば門の中に入れるとかあったりするが。この異世界はどういうタイプなのか。できれば、パワーストーンの賄賂が通じるといいのだが。


「まぁ、最悪何か必要だった場合は私が催眠術で切り抜けましょうか?」


「それは最後の手段にしたいな。とりあえず賄賂が通じるか試してみる。それでダメなら頼む」


「では、口裏合わせをしておきましょうか。私たちの身分はどうします?」


「親子で二人旅とか──、いえナンデモナイデス」


 親子で、と言った瞬間、青龍から凄まじい圧が飛んできてすぐさま言葉を撤回する。

 親扱いは嫌なのか。それは、私程度では勇人様の親代わりなど、という意味なのか、親という年齢に見られるのが嫌なのか。

 若い外見で人間形態取ってるし後者な気がするなぁ。少なくともうん千年は生きてるはずなのに、今更年齢を気にするのか。


「夫婦で旅行ということにいたしましょう」


「いや、流石にそれは無理が──」


「夫婦で旅行ということにいたしましょう」


「はい、それでいいです……」



 一歩も引く様子のない青龍に俺が折れた形だ。普段は一歩引いてこっちを立てる感じなのに、今回はやたら押してくるな。そんなに俺と夫婦を演じたいのか。


「では、あなた。よろしくお願いしますね」


「うっ……、ああ」


 いきなり、あなたなんて呼ばれて思わず赤面する。くそっ、俺を恥ずかしがらせたいだけじゃないのか、こいつは。



   ※ ※ ※ ※ ※



「マズい。マズすぎる」


 俺は都市に入る列に並んでいたのだが、そこで致命的な見落としをしていたことに気づいた。


「周りの言葉がわからない……」


 そうなのだ、前に並んでる人後ろに並んでる人が話している言葉が一切理解できないのだ。考えてみれば当然で、明らかな異世界のココで日本語が話されているわけもない。

 くそっ、アドミンの奴。何が翻訳のチートは取らないほうがいい、だ。バッチリ必要じゃねーか、どうしてくれる!


「あなた? こういう時につかえる魔法を教えたはずですよ」


「えっ? あ、そうか!」


 青龍にそう言われて、俺はすぐにその魔法を思いつく。第六位階魔法の『トランスレイト』だ。言われなきゃ思いつかないのか、と言われそうだが、テンパってたのもあるし、何より魔法は詰め込まれまくったせいで、すぐに効果と魔法が一致しないのだ。

 あ、アドミン。前言撤回するわ。やっぱ翻訳のチートいらなかったわ。


「『トランスレイト』」


 俺はすぐさまその魔法を唱える。すると、周りの会話がちゃんと意味を持った言葉として聞こえてくる。しかし、言葉はちゃんと音として聞こえるのに、ちゃんとその意味を理解して聴いている。なんというか不思議な感覚だった。


「よかった、これで安心だな」


 一体どういう原理で未知の言語を翻訳してるのか気になるが、魔法に整合性を求めてはいけないだろう。


 俺が安心したと同時に、そろそろ列の先頭に辿り着きそうというところで、列のスピードが落ちる。というか止まった。しかも、それが結構長い。


「うん? どうしたんだ?」


 気になって前方を見やると、一人の少女(と言っても俺と同じぐらいか)と門番が何やら揉めていた。

 黒髪ロングで黒目の見るからに東洋人って感じの少女だ。顔立ちは割ときつめの美人って感じだ。服装も制服みたいでどっかの学園に通ってる子に見える。


『えっと、だからあたしは観光でここに来てて……、うぅ、さっきまで通じてたのになんで急に通じなくなるのよ』


「えーっと、だからお嬢ちゃん。俺にもわかる言葉で喋ってくれないかな?」


 会話内容聞いたら別に揉めてる内容じゃなかった。両方とも普通に喋ってるだけ。しかし、それはわかるのは俺だけで。

 何より、今少女が話している言葉は──、


「日本語……?」


「ですね、いかがします、あなた?」


 俺は意を決すると、「ちょっと失礼しますよ」と前の人を抜いて件の少女に近づく。


『おー、こんなところにいたか。はぐれた時はどうなることかと思ったぞ』


『え?』


 少女が俺の方を振り返る。今のは意識して日本語で喋ったから少女も反応したのだろう。しかし、魔法を甘く見てはいけない。


「このお嬢ちゃんの知り合いか? 頼む少年、言葉が通じなくて困ってたんだ」


 この通り、門番に対してもちゃんと通じるのである。まぁ、俺の言葉が門番に対して通じているのは少女にはわからないだろうが。


『すいませんね、迷惑かけて。ほら、さっさと手続きするぞ』


「あぁ、じゃあ三人ともこの水晶に手をかざしてくれないか」


『水晶に手をかざせってさ。まず俺からやるぞ』


 門番の人の言葉を通訳してやると、まず俺から水晶に手をかざす。淡く一瞬光ったかと思ったら、それだけだった。それだけでいいのか、門番は特に何も言わない。促されるまま、青龍、少女と続いて水晶に手をかざす。


「三人とも犯罪歴はなし、と。街に入る目的は?」


 どうやら、お決まりパターンの犯罪歴を調べる不思議水晶らしい。これってどういう基準で犯罪歴とか調べてるんだろうな。いつも疑問に思う。


『俺たちは三人で旅をしてるんだ。あと、街の中でちょっとだけ商売したいけど可能か?』


「露店ぐらいの規模のをやるなら商業ギルドに許可をもらってくれ。商店への買取ぐらいなら許可は特にいらない」


『教えてくれてありがとう。もう行っていいか?』


「あぁ。いや、ちょっと待った」


 そう言って、声をかけられてぎくりとした。うやむやにして通過しようとしたがダメだったか。


「ようこそ、城塞都市ガロへ!」


 どうやら、門番はそのセリフが言いたいだけだったようだ。


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