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1.いざ、異世界

 目を覚ますとまず目に飛び込んできたのは目に眩しいほどのグリーンだった。というか、なんか背中が痛い。ゆっくり起き上がると今まで地面に直接寝ていたのがわかる。そりゃ痛いわけだわ。

 落ち着いて辺りを見渡す。周りはどうやら森のようで草木が生い茂ってるのが見て取れる。近くに獣道すら見当たらないところから、本当に森のど真ん中に放置されたのだろう。


「もうちょっと気の利いた場所に転移させてくれてもいいのに……」


 そう言いながら、ゆっくりと立ち上がり土埃を払い落とす俺。この後はどうするか。おっと、まずは青龍を呼び出すのが先だな。

 俺はアイテムボックスから呼晶を取り出すと強く念じた。使い方なんてわからないがそう難しい使い方は要求されないだろうと予測していた。


「来い! 青龍!!」


 俺がそう叫ぶと、目の前に二つの光の柱が立ち上り、光が収まった後には青龍とトウコツが立っていた。


「トウコツは呼んだ覚えはないんだが」


「んなこと言われてもよー。呼んだのはそっちだろうが。大体、テメェについてこなきゃ俺は魔力欠乏でおっ死ぬんだからよ。ていうか、ここどこだ?」


「ここは……、空気の魔力の質も精霊の数も明らかに違う。本当に異世界なのですね」


「異世界だぁ~?」


 そういやトウコツには言ってなかったっけ。


「まぁ、軽く説明すると、管理者って奴にそういう使命を与えられたんだよ、異世界を救えってな」


「ふ~ん。ま、どうでもいいか」


 聞いてきたくせにその態度はどうかと思う。が、こういう奴だと思えばそう腹も立たない。


「ま、俺はこいつと違って、常時実体化なんてしてる趣味はねぇ。引っ込んどくぜ。あ、でも戦闘になったら呼べよな。俺が蹂躙してやるからよ」


 トウコツはそれだけ言うと、霊体化したのか目の前から消える。

 まぁ、あいつが常時実体化してるとそれはそれはウザそうだし、どう考えてもトラブルの原因になりそうなので、自分から姿を消してくれるのは正直助かる。


「で、今後の方針なんだけどどうする? 一応俺の目的はこの世界に生じた破滅の原因を取り除くことなんだが」


 とりあえず、青龍と二人になったので作戦会議を始める。青龍は物珍しそうに辺りをキョロキョロしていたが、俺が話しかけるとキョロキョロをやめて俺の方に向き直る。


「破滅の原因、ですか。それは何かわかりやすい指針などはあるのでしょうか?」


「アドミンがいうには、俺が俺らしく過ごすことで破滅の原因を取り除けるらしい」


「でしたら、話は簡単ですね。勇人様は今どうしたいですか?」


「とりあえず、人里に向かいたいかな」


「ではそのように。しばしお待ちください、勇人様」


 青龍はそういうと空高くジャンプする。すげー、人間ってあんなに高く跳べるのか。いや、青龍は人間じゃなかったか。

 ていうか、スリット付きの服着てるから上見たら見えそ──、


「あちらの方に街道が見えました、そちらの方に向かいましょう」


 ていうか、思いっきり見えたな。青龍は見えたの全く気にしてないみたいだが。俺だからいいのか?


「あ、あぁ。案内頼む」


「では、行きましょうか、勇人様」


 そう言って先導する青龍。

 そういや、トウコツは姿消すほうが好きらしいが、青龍はどうなんだろうか。姿消してくれって言ったらどういう反応するのか。

 多分だが、すごい悲しそうな顔しそうだな。どうも、俺に仕える俺に仕えることを至上の喜びとしているみたいだし。


「あぁ、行こう」


 俺はアイテムボックスからマチェットを取り出すと青龍に渡す。今いるのは獣道ですらないから、ツタやら木の枝やらが進路上にかなりある。素手では中々通りにくいだろう。


「ありがとうございます、勇人様」


 ついでに、日本刀も取り出してベルトに刺しておく。いまだ満足に使えない刀ではあるが、下げておけば抑止にもなるし、相手がこちらを剣士と誤認してくれる効果もあるだろう。まぁ、それが通じるのは人間相手なのだが。


 青龍用の預かった武器も取り出そうと思ったのだが、「しばらくは素手でも大丈夫ですよ。私、これでも素手格闘も嗜んでおりますので」と言われたので青龍の武器は出していない。

 しかし、人間相手ならともかくモンスター相手でも素手で殴る気かこいつ? 俺だったら格闘技の心得あってもゴブリンを素手で殴るって嫌だけどな。


 その後、青龍の先導で何事もなく街道にでた。

 いや、何事も起きないってのは良いことなんだが、ほら少しあるだろう? ゴブリンに遭遇して初戦闘したり、女性の悲鳴が聞こえて助けに入ったり。そういう定番イベントが一切起きないのはどうだろうと思うわけだが。


「とりあえず街道に出ましたね。もう一度辺りを偵察しますのでお待ちください」


 そう言って、またしても大きくジャンプする青龍。いや、偵察ってのはそうじゃないと思うんだが。もっと偵察に使える魔法とかそういう便利スキルはないのか?

 まぁ、ひょっとしたら魔力消費しないからこっちの方がいいのかもしれないが。

 俺がそんなふうに考えていると、青龍がすたっと着地する。


「あちらの方に城塞都市が見えました。反対側には特に何も見えませんでしたね。どちらに行かれます?」


「当然、城塞都市の方で。で、遠くから見た感じ時代設定はいつぐらいだと思う?」


 剣と魔法の世界と言っても、時代設定はわりとマチマチだったりする。火縄銃レベルの銃はあったり、剣と魔法の世界だけど、魔法が発展してるから現代社会と遜色ない世界を築いてたりとだ。城塞都市の規模からそれが少しは推し量れるのではないか。


「遠目だけではなんとも。ただ、火砲があれば簡単に破壊される城壁に見えましたので、火砲の存在はまだないのではないでしょうか。そう考えるとやはり中世ぐらいの時代と推測しますが」


「中世か、お決まりのパターンだな」


「とりあえず、塩や砂糖が売れそうでよかったですね。では、ここからは街道を歩きますので私の武器を出していただけますか? 槍でお願いします」


「オッケー」


 アイテムボックスから槍を取り出し、青龍に渡すと青龍は背中に槍を背負う。うん、服装以外は俺も青龍も異世界の住人に見えるな。

 というか、今考えると服装が地球の奴そのままなのはマズかったかな。こりゃこっちで通用するような服を買うのが急務だな。

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