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2.いざ異世界へ……の前に

「異世界へ、って話だよな」


「そうだ.それに関して何か聞いておきたいこととかないかい?」


これに関しては事前に考えておいた質問がいくつかある。


「じゃあまず第一に。異世界に行って、俺は本当に元の世界に戻れるんだろうな?」


 以前戻してくれるとは聞いているが、それでももう一度確認しておきたかった。姉ちゃんや冬美を残して異世界で骨を埋めるつもりは毛頭ない。


「もちろんだとも、と言うかすでにそう言ったはずだったんだがな。そんなに信用できないかね? 先も言ったが私は君しか頼るものがもう存在してない。君に裏切られたりしたら私は身の破滅だ。ゆえに、可能な限り君の要望には応えたいと思っているし、出来る範囲でなら何でもするつもりだ。ゆえに、君が帰りたいと思っているなら帰らせてあげるよ」


 見た感じ嘘やごまかしを言っている雰囲気はないが……。


「できる範囲で何でもする……ね。なら、異世界送りを今すぐやめろ、と言ったらどうなる?」


 そう言うと、アドミンはティーカップを口につけた姿勢のまま固まり動かなくなる。


「それは……困るな。すごく困る。それに脅すようになるから言いたくなかったんだが、異世界送りを中止するとなると君にも悪影響が出るぞ?」


「は?」


 悪影響? 受けないことによるメリットはあれどデメリットなんて存在しないと思っていたんだが。適当なこと言ってるんじゃないだろうな。


「それは違うぞ。真宮寺勇人君。異世界送りをしなければ、世界の破滅が待っている。そしてだな、世界の破滅というのはな伝染するんだ。一つや二つぐらい破滅しても世界群全体に影響はない。だがそれが数十数百と増えていくと影響を無視できなくなる。連鎖的に世界が破滅していってしまう。君の世界、現代Ⅰ型も例外じゃない。現代Ⅰ型の破滅は先ほど救ったが、それで未来永劫破滅しないというわけじゃないんだ。

世界群の世界がどんどん破滅してしまったら、もはや私ではどうすることも出来なくなる。世界群全ての世界が破滅して、ジ・エンドだ。もちろん君も君の友人家族もだ」


 俺の驚愕の表情を見ながら、だから言いたくなかったんだ、とアドミンは小さくつぶやく。

 つまりあれか、最初から俺にも選択肢は残されてなかったってことか。


「誠に遺憾ながらそういうことになる。出来れば君の自由意志で受けて欲しかった。だから、言わずに置いたのだが。すまない……」


 そう言って、アドミンは沈痛な表情を浮かべる。その顔は本当にすまなさそうで──、


「そんな顔するんじゃねぇよ。分かったよ、異世界行き。正式に受けてやろうじゃないか。チートスキル貰える以外に、俺がやるメリットをイマイチ見出せなかったが、そういうことなら仕方ない。俺しかいないんだろう? だったら俺が世界を救ってやるよ。ガラじゃないけどな」


「すまない、ありがとう……」


 そう言ってこちらに対して頭を下げるアドミン。


「あー……。とりあえず、だ。他に質問はないかな?」


「あぁ、まだあるぞ。異世界に俺以外の存在を連れて行くことは出来るのか?」


「それは君の使い魔のことかな? それなら問題ないと言っておこう。だが、逆に言うなら君の使い魔以外の存在を連れて行くことはできない。下位世界の存在に今の私はロクに干渉ができないからね」


 それなら安心した。流石に一人ぼっちで異世界へ行くのは難易度が高すぎる。青龍も一緒ならどうにでもなるだろう。


「だが、そのままではダメだ。君の使い魔たちは次元跳躍が出来る様にできていない。一手間加える必要がある。ちょっといいかい?」


 アドミンはそう言うと、テーブルを乗り出してきて俺の肩に手を置く。


「ちょっと、ユーザー権限でログインを……、こっちもこうして、よしこれでいい」


 アドミンは乗り出した体を元の位置に戻すと、伸ばしてきた手とは反対に球体の水晶のようなものが握られていた。


「こいつは──、特に名前はないが、君の使い魔たちを次元跳躍させるための装置と思ってくれればいい。

異世界に行った時、まず最初にこれを使ってくれ。これを使わないと君の使い魔たちを呼び寄せることはできない。

だが、使うのは最初だけでいい。最初に一回使えば後は自由に呼び出すことができる。君のアイテムボックスに入れておくので異世界に行ったら確認しておいてくれ」


 そう言って、水晶を軽く上に放り投げると、水晶が唐突に消える。アイテムボックスにしまったと言うことだろうか。いや、その前に。


「アイテムボックスっていつの間に……。あれ、それって異世界の滅びを回避した報酬でもらえるんじゃなかったか?」


「回避したじゃないか、すでに。君にとっては現実世界かもしれないが、私にとっては数多ある異世界のうちの一つだよ。だから、君にはすでに与えてある」


「そ、そうか……。じゃあ、次行く異世界を救ったらまた別のチートスキルもらえるのか?」


「それはもちろん。約束しよう。次何が欲しいかまた考えておくといい。今回みたいに後払いにはなるがね」


 正直、今回のことは自分の尻拭いみたいに思ってたから、もらえるとは思ってはいなかった。でも、前払いにはならんかー。そっちの方が攻略楽になりそうなのにな。


「他に質問は?」


「異世界に行ってる時って、現代世界は時間経過するのか? 異世界に行って1年過ごしてたら現代世界では100年経ってたとか、浦島太郎は嫌だぞ」


「君が異世界に行っている間は現代世界の時間は経過しない。その辺りは心配しなくていいさ。時空間の処理がそれぞれ違うために発生するズレがあるため、正確に言えば時間は経過するのだが誤差のレベルでしかない。浦島太郎も逆浦島太郎も発生しないさ」


 時間経過はしないのか、でも異世界に行ってる間、俺の肉体の時間は経過するから、肉体だけ年取っていきそうな気がするんだが。


「それが心配なら、不老のギフトでも取るかい? それぐらいなら今の私の権限でも可能だぞ?」


「いや、止めておく。流石に人間は辞めたくないしな……」


「そうか、他に質問は?」


「そう言えば、俺──世界端末──を青龍が魔力吸収のために使ってるってことだが、上位世界のアイテムなのに自由に使っちゃっていいのか?」


 これは異世界転移とは直接関係ないが、気になったことだ。これがダメになったら青龍がどうなるかわからない。

 俺に誠心誠意仕えているとは言っていたが、それでも先立つものが必要だろう。俺の力量では青龍の活動に必要な魔力を補えるか分からないし。


「あぁ、それに関しては問題ないよ。と言うより、世界端末は上位世界の存在とは言え、実態は単なるアイテムに過ぎない。権限の有無で使用を制限されることはあれど、権限の範囲内であるなら、その使用を掣肘する権利は私にはない。存分に使ってくれ。先も言ったが同様の使い魔達が100体集まって魔力補給をしたところで小ゆるぎもしないレベルだからね。平行世界の影響に関しても考える必要はないさ」


 そうか、それなら安心だな。青龍と、一応檮杌(とうこつ)もちゃんと魔力補給ができそうで何よりだ。


「で、他の質問はあるかい?」


「いや、もないな。聞くべきことは大体聞いた」


「そうか、ではいよいよ異世界へ……、といきたいところだが君にも準備があるだろう。折角手に入れたアイテムボックスだ。現代世界の品物を入れるも良し、今のうちに鍛錬するもよし。準備ができたら、この笛を吹いて寝床についてくれ。寝ている間に夢を介して、異世界へとご招待する」


 そう言って、ロケット型をした笛を俺のほうに差し出してきた。

 なんかマ○マ大使の笛みたいだな。ちと古すぎるか。


「ていうか、準備させてくれるのか」


「それぐらいは当然の権利だと思うけどね。君は私の唯一の協力者だ。できるだけ便宜を図るのは当然さ。あ、準備期間だけど長くても1ヶ月ぐらいにしておいてくれ。それ以上長いとちょっと困る」


「わかった。じゃあ準備してからこの笛を吹けばいいんだな?」


「あぁ、そうだ。じゃあおはよう、真宮寺勇人君」


 アドミンがそう言うと、俺の意識は急速に覚醒していった。

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