10.イケ魂
「おや、妹さんですか? お邪魔しております」
白虎のことを妹とでも思ったのか、そう挨拶するレンさん。いや、妹ってそいつ何千歳だぞ? まぁ、一箇所を除いて見た目はロリロリしいし、妹と勘違いするのも無理はないが。
「妹? コイツの家族はお姉さんだけよ。勇人、あの子誰よ?」
アレ? 白虎の存在コイツに教えてなかったっけ? ……そういえば、教えたことなかったような。
「お前に紹介したことなかったっけか? あいつは──」
「どうも、初めまして皆様。わたくし、白金よつばと申すものです。仕事としては漫画家をやっております。勇人さんには色々とお世話になっておりまして、この家に間借させていただいてる身でございます。以後お見知り置きを」
誰テメェ。もう一度言うぞ、誰テメェ。なんか背後に薔薇でも背負ってそうなそれはもう優雅な一礼をして挨拶をする白虎。ていうか、お前の偽名初めて聞いたわ。そんな名前だったのな。
「ど、どうも。私は塔馬冬美。勇人の幼馴染です。ていうか、間借りって……」
「ご丁寧なご挨拶痛み入ります。私はレン・クロムウェルと申します。イギリスでシスターをやっております」
以前宗教関係の服が似合いそうだな、とか思ってたらこの人ガチで宗教関係者だったのか。ていうか、俺との自己紹介の時に言わなかったのはなぜなのか。
「して、本日は勇人さんにどんなご用件でしょうか? わたくし勇人さんに用事があるのですが、ここで待たせてもらっても良いでしょうか?」
そして、誰も何も言わないことを良いことに、その場に居座る白虎。白虎の体からとっとと帰れオーラが発されてるのが見える気がする。
「い、いえ、それは……。きょ、今日のところは失礼させていただきます!」
白虎の謎オーラに気圧されたか、慌てて帰るレンさん。とりあえず、当面の問題は去ったか。問題の先送りとも言うが。
「白虎、もういいぞ。その気持ち悪いよそ行き態度をやめろ。冬美に関してはバラして問題ない相手だ」
「あ、そう? このモードしんどいんだよねー。まぁ、単にお嬢様キャラのエミュしてるだけなんだけどね」
ころっと態度を変える白虎に目を丸くして見る冬美。これがコイツの素だぞ。
「説明してほしいんだけど……」
「コイツは四神が一柱、白虎だ。青龍に引き続き、2体目の四神だな」
さらに3体目の玄武がいるのだが、あいつに関しては別に紹介しなくていいだろう。なんか、よそでマンション買ってそこに住んでるみたいだし。
「よろろー。白虎だよー。一応人間界の偽名は白金よつばで通ってるから、外ではそう呼んでほしいな」
「よ、よろしく。ていうか、2体目の四神って……。青龍さんだけじゃ満足できないの?」
「その言い方は誤解を招くから辞めるんだ。ていうか、コイツは俺に対しての愛情なんてないぞ」
俺がビシッと白虎を指差してやると、白虎は心外なようで反論してくる。
「失敬な、親愛の情ぐらいはあるよ。なんせご主人はイケメンだしね」
「お前初めて会った時もそれ言ってたけど、俺そんな言うほどイケメンか? ぶっちゃけお前に初めて言われたぐらいなんだが」
「そうよねぇ。勇人はイケメンって感じではないわよね」
冬美もそれに関しては同意するようだ。悔しくなんてないぞ。ないんだからな!
「違う違う。顔の話じゃないよ。魂がイケメンだって言うこと。私たちは精神生命体だからね。肉体の美醜ではなく、魂の美醜に惹かれるのさ。その点ではご主人の魂は輝かしいばかりのイケメンなんだよ。いや、魂だからイケコンになるのかな? まぁ、どっちでもいいけど、ともかくご主人の魂はとっても綺麗ってことさ。今後それだけで落ちるようなやつも出るかもだよ」
「そうなのか……」
魂がイケメンと言われてもいまいちピンとこない。というか、魂が綺麗より顔が綺麗になりたかったわ。いや、そんなに言うほど不細工でもないけどさ。
「で、さっきのお客さんは誰なのさ?」
「前にお前に第七の壁について聞いただろ? それの突破方法を教えてほしいって俺に付き纏ってる古代魔法の研究者だよ」
「ほーん。で、教えてあげたの?」
白虎は知識を開帳されることに特に興味はなさそうだ。自分がわざわざ教える気はないが、俺が教えるなら問題ないというスタンスか。
「教えたんだが、それの出典はどこですかってしつこく聞かれてな。ろくに信用してもらえなかった」
「ありゃりゃ。まぁ、それは確かにソース教えるのは厳しいよね。私自身が見聞きしたものがソースだから、私の存在明かすことなく教えることはできないし、私の存在明かしたところで、私が私であることの証明も難しいし」
俺が軽く話しただけで、俺が思ったことを全部当ててくる白虎。そうなんだよな、それがこの件の問題なんだよな。どこまで行っても確かな証拠が存在しないのが問題だ。
「ていうか、白虎であることの証明は難しいだけで不可能とは言わないんだな」
「んー、確かに難しいけどさ。霊獣の形態になればいやでも信用するんじゃないかなって」
「霊獣形態? お前の場合は白い虎、になるのか?」
「そそ。ある程度魔力を感じることができる魔法使いなら、霊獣形態を解放してやればいやでも気づくだろうってね。やる気はないけど。ご主人の頼みでもそればっかりは対価を貰わないとやる気出ないねー」
「まぁ、俺ですらまだ見せてもらってない形態を他人に先に見せるとか俺も嫌だけども。でも、証拠を提示してやらない限り、あいつは何回でも来そうなんだよなぁー。なんとかならんか、白虎?」
「じゃあ、今度原稿手伝って。それでいいよ」
「おれ漫画描いたことないんだが……。ていうか、それが対価ってそれでいいのかお前」
「大丈夫大丈夫。背景書けとかのガチなやつは要求しないから、ベタ塗りとかトーン貼りとかなら少々やれば出来るようになるって。デジ絵がメインだけど、紙の原稿も描かないわけじゃないからね。そっちの手伝いよろしくー」
「まぁ、お前がそれでいいならいいけどよ」
「じゃ、あの人も帰ったことだし、私はこれで失礼するけど、まだ私に紹介してない人とかいないでしょうね?」
冬美がギロリと音がしそうな程目玉を動かしこちらを見てくる。
「あー……、一人いるわ。と言ってもハーレムの面子が増えたわけじゃなく純粋に仲間って括りだが」
「その言い方からするとまた女の子なのね……。何、玄武? 朱雀?」
「四神じゃない。異世界人、と表現すべきか。そういう人種だ」
玄武はすでにいるのだが、見た目は男の老人なので特に紹介はいらないだろう。というか、紹介のためにわざわざ玄武を呼びつけるわけにもいかない。
「ふーん。じゃ、紹介してよ。仲間なんだったら紹介するのは訳ないわよね?」
「あぁ、いいぞ。多分こっちだ」
俺が何の気負いもなく先に歩き始めると、後ろから「この反応だと言ってることは本当のようね」という冬美の小声が聞こえる。
聞こえてるぞ、こら。俺が節操無くハーレムメンバーを増やすとでも思ってるのか。いや、そもそも俺はハーレムは容認してないぞ。
とりあえず、アーミンの紹介はなんの問題もなく済んだとは言っておこう。「わざわざ、恋人でもない仲間を紹介しないとダメなんて、束縛されてるのね勇人クン」というアーミンのセリフには完全同意だが、口には出せなかった。