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9.ソースくださいよソース

「待っていましたよ、真宮寺勇人さん。今日は是非とも教えてもらいますからね」


 翌日、学校から冬美と帰ろうとしていると、校門前でバッタリとレンさんと出くわす。つーか、出待ちしてたなコイツ。


「勇人、この人だれ?」


 横にいる冬美が訝しげな視線を向けながら訪ねてくる。


「『こちら側』の人間だよ。俺に師事しにきてる」


 場所が場所なので、本当のことを全部言えず周囲に聞かれても問題ない範囲の内容を言って紹介する。


「師事? 勇人いつの間にそんな偉い存在になってたの?」


「俺は偉くなったつもりはないが」


「ご謙遜を。その分野において権威と成れるだけの実力をあなたは持っていますよ」


「ともかく、ここでこれ以上話するわけにもいかんだろ。ついてこい」


 俺は嘆息しながら、顎で前方をしゃくると先導して歩き出す。まぁ、昨日と同じく家でいいか。と思ったら何故か冬美も付いてきた。


「なんでお前もついてくるんだよ」


「いや、なんか面白そうだから」


「まぁ、いいけどよ」


 だが、冬美がついてくるのには不満があるのか、レンさんは満足がいってないかのような表情を浮かべる。だが、俺の機嫌を損ねるわけにはいかないので言葉には出さないと言ったところか。

 自宅に帰ってきたところで、冬美とレンさんを応接間で待たせてる間に私服に着替えると、すぐに応接間に戻る。男はこういう時身だしなみとかすぐにできて便利だな。


「しかし、一応俺の家に招いたわけだが、言えることは前回と変わらんぞ? わざわざ招いたのは、無視しても家に突撃されることは目に見えてるからだ」


 まず、レンさんに牽制球ですらない火の玉ストレートを投げる。これだけ直接的に言っても諦めはしないだろうが、ちゃんと言っておかないと勘違いされかねん。


「ところで、師事ってなんに関しての師事なの?」


 冬美の言葉に、レンさんは答えずにちらと俺の方に視線をやる。そうか、そういえばコイツが一般人だとすると、魔法に関しては喋ることができない、か。このまま無視して相手が喋れない状況を作り出してもいいが、ここは教えてやるか。


「クロムウェルさん。コイツはこっち側の人間だ。魔法とかを使うことは出来ないが、知識はある人間だ。堂々と喋って問題ないぞ」

「あ、そう言えば。私この人の名前すら知らないわ。なんていう名前なの? 私は塔馬冬美よ」


「わかりました……。あ、私はレン・クロムウェルと申します。魔導協会でトパーズの階位をいただいている、古代魔法の研究者です」


 俺と冬美でほぼ同時に喋ってしまったので、順番に答えるレンさん。この人あんまり階位は高くないんだな。まぁ、古代魔法の研究って変わり者がやるものらしいし、そんなもんだろう。


「古代魔法……そういや神社で戦ってた時、勇人が第七位階を使えたとかなんとかひとみちゃんが言ってたっけ。てことは勇人には古代魔法の師事をしにきたってこと?」


「そういうことです。その対価はどんな物でも、私で出来ることならなんでもする、と言っているのですが、首を縦に振ってくれないのですよ」


「お、おう……」


 レンさんのその口調と目に本気を感じたのか、ドン引きする冬美。そうなんだよなー、この人第七の壁を越えるためなら、マジでなんでもやりそうなんだよな。俺の奴隷になれ、でも「喜んで」とか言いそうな雰囲気がある。


「ったく、分かったよ。取り敢えずだな、俺が確認したところ古代魔法の第七の壁を越えるには魔術を鍛えるのがいいって話だぞ」


「一応は、魔導協会の末席に身を置いているものです。私も魔術は使うことができます。できますが、魔術と古代魔法に何の関係が? 全く違う技術体系でしょう」


「あー、それなんだが。古代魔法とはどういう技法だと理解してる? 多分そこに齟齬が発生してると思う」


「古代魔法は、発動体を装備した状態で、古代語で決まったフレーズを詠唱し、発動させる技法です。特徴としては発動体さえあれば、詠唱を間違えなければ誰でも使える技法ということです」


「じゃあ、第七位階の詠唱知ってるのに発動させれないのはどういう理屈何ですか?」


 意地悪く聞いてみたが、別に俺は意地悪がしたいわけじゃない。そこを突っ込まないと、向こうさんの疑問の解消にならないからだ。


「そ、それは、いわゆる第七の壁という奴で未だ謎に包まれている現象でして……」


「あと人によって最大で使える位階が違ってたりするよな? あれ〜

誰でも使える技法じゃなかったっけ?」


「……て、定説ではそうなっているだけで実際は古代魔法には色々な謎が……」


 まぁ、いじめるのはこれぐらいにしておこう。というか、やっぱり詠唱に付随してる補助機能でオドの放出がされていると言うのは知られていないようだ。まぁ、俺も昨日白虎に聞くまで知らなかったので偉そうなことは言えないが。


「第七の壁の正体は、オドの放出が出来ていないからだ。人によって使える位階が違うと言うのもそれに起因する。低位の魔法の詠唱には付随機能としてオドの自動放出が組み込まれている。高位の術ほど、そのオドの自動放出の割合が減り、第七位階になると完全にゼロになる。それが第七の壁の正体だ」


「いえ、それはおかしいです。過去の文献には大昔の人類は確かに詠唱のみで他の技法を使うことなく第七以上の位階の魔法を使っていました。それなら、大昔と現代の人間の魔力の放出の仕方が違う、などという理由の方が納得がいきます」


 俺が親切にも第七の壁の正体を教えてやると、すぐさま反論してくるレンさん。いやまぁすぐに鵜呑みにせず反証から入るのは研究者っぽいが、こっちは嘘なんてついてないぞ。まぁ、白虎が嘘ついてる可能性はなきにしもあらずだが、白虎が解説に関して嘘を挟む理由がないので、全部事実だろう。


「大昔の人間は、オドの放出をそれこそ呼吸するのと同じように行っていたという話だ。それこそ低位の魔法でも、詠唱の補助に頼らず自らでオドの放出をしてたんじゃねーかな。だから、第七の壁なんてなく、それこそ詠唱するだけで古代魔法を使えていた。そう言うことなんだろう」


「その話の出どころはどこですか? ちゃんとした出典もなしに言われても信じることはできません。確かにあなたの言っていることに矛盾はない。辻褄は合います。ですが、それだけです。明確な出典もない伝聞だけの情報を鵜呑みにするわけにはいきません」


 こ、コイツめんどくせぇ! 俺が対価も求めず正直に話してやってるのに、なんでこんなに疑うんだ! そもそも、こんな話してやる義理は俺にはないんだぞ! そこらへんわかってるのかこの女は!


「出典は……、あー言っていいものか」


 流石に、ほぼ初対面に近い相手に青龍や白虎のことを教えるのは色々とリスクが高いし、何より面倒ごとの予感しかしない。青龍ですら、人間世界では偽名を使って魔導協会に登録してるし、やはり自分の正体を明かすと言うのは青龍であっても面倒なことなのだろう。

 白虎の方はどうなんだろうか。聞いたことないけどあいつも偽名持ってるのだろうか? まぁ、持ってたとしてもあいつの場合ペンネームの方が自分の名前になりつつあるような感じだろうけどな。


「教えていただいてるのに、こんなことを言うのは失礼ですが、出典を示せないなら、あなたの言はただの妄言でしかありません。ちゃんと論拠を示してください」


 ムカ。今カッチーンと来たぞ。俺が親切に教えてやってるのに、その言を妄言と言ったかこの女。ちょっと痛めつける必要があるようだ──、


「勇人ストップ。女の人に対してしちゃいけない顔してるわよ」


 横から冬美に制止されて我に帰る。ていうか、そうかコイツいたの忘れてた。だが、正直いてくれて助かった。一人だと何してたか分からんかった。


「す、すまん冬美。ちょっと我を忘れるところだった」


「ま、元に戻ったならそれでいいわよ。レンさんもレンさんよ。勇人は本当は教えてあげる必要なんて一切ないのに誠実にレンさんに対応してあげてるのよ? それを妄言なんてちょっと言い過ぎじゃないかしら」


「そ、そうですね言い過ぎました。申し訳ありませんでした、勇人さん。ですが、一研究者としてはどうしてもエビデンスの確認はしておかなければならないことでして……」


 謝罪はしたが、出典の有無に関してはどうしても譲る気は無いようだ。

 しかしなぁ、出典を提示しろって言うんなら、これが出典です、って白虎を差し出すことになるんだよな。白虎はガチで数千年は生きてる霊獣だからな。昔の人間についても知ってる文字通り生き字引だ。

 だが、白虎を差し出すにしてもそこでも問題が発生する。アレを白虎だと証明する手段がないと言うことだ。俺は青龍が、「コイツが白虎です」と言ったので白虎だと信じてるが、それだって元を辿れば青龍が青龍であることの証明を俺はしてもらってない。

 つまるところ、出典の明記はどこまでいってもマトリョーシカのように出典の出典を要求され続けると言うことだ。

 このままでは堂々巡りするしかない、どうしたものか──、


「アレ? お客さん? いらはーい」


 俺が悩んでいると、白虎がラフな部屋着で応接間に姿を現した。このタイミングでくるとは空気が読めてるのか読めてないのか。

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