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7.レン・クロムウェル

 レン・クロムウェル。宗玄さんがこの前言っていた魔導協会において古代魔法の研究をしている変わり者、だったか。

 というか、教会に寄ってないのにこんな道端で捕捉されるとかどういうことだ。そもそもなんで俺の顔を知っている。


「なるほど分かった。それ以上の話は別の場所で、だな。往来でする話じゃない」


「おや、話をしていただけるので?」


 レンさんは驚きの表情と共にこちらを伺うような視線を向ける。というか、今気づいたが普通に日本語うまいなこの人。完璧というわけじゃなくちょっとたどたどしいところはあるがほぼ完璧と言っていい日本語だ。発音が完璧でない時点で、おそらくトランスレイトの魔法は使ってないと予測できる。

 まぁ、あれ第六位階という人類最高峰クラスの魔法なので、いくら古代魔法の研究者といえど、使えるとは思えないが。


「俺の顔と名前が知られてる以上、自宅まで突き止められるのは時間の問題だろう。なら、毒を食らわば皿までだ。話をしてやるよ、クロムウェル(・・・・・・)さん」


「ありがとうございます真宮寺さん。では、個室のある喫茶店にでも行きましょうか。いい店を見つけたんです」


「いや、俺の家に来てもらう。あんたからの要望である以上否は言わせない」


「……わかりました。ついていきましょうか」


 レンさんはそう言って俺の後ろについてくる。


「いいの? 連れてきて?」


 家に帰る道すがら、アーミンが小声で尋ねてくる。


「さっきも言ったが、このまま無視しても、家に突撃されてるのは目に見えてる。なら、こちらにイニシアチブがある状態で迎えたい」


「そ。まぁ、貴方の判断だから好きにすればいいけど」


 アーミンはこの件に関してはあまり興味がなさそうである。まぁ、アーミンはエスパーであってマジックユーザーじゃないからな。この件に関しては無関係どころか向こう側である。

 エスパーの存在を明かしてやったらどういう反応をするだろうかと思うが、流石にアーミンの許可なくそんなことはできない。そもそもこいつ異世界人だからな。異世界の存在も明かすことになってしまう。流石に冬美以外に明かしてない秘密を今会ったばかりの女に明かす理由はない。

 ちらと後ろ見でレンさんのことを見やる。

 金髪碧眼ロングヘアーのいかにも外国人女性といったいでたちだ。見た目はかなりの美人。なんか修道服とか着てたらそれが似合いそうな、そんな感じの美人だ。まぁ、本人はおそらく宗教関係者ではないのだろうが、そんな印象を受ける。


「何か?」


「いや、何も」


 じっと見ていたのがバレたのかレンさんが訝しむような目でこちらを見る。

 俺は適当に誤魔化して先を歩く。



「ただいまー」


「おかえりなさいませ、勇人様。そちらの方は?」


 家に帰ると即青龍が出迎えてくれる。出迎えた青龍は即座にレンさんに目をつける。


「ちょっと話すと長い。お茶用意してくれるか」


「承知いたしました」


 俺の言葉に特に文句を言うこともなく、お茶の用意をしてくれる青龍。正直青龍をこんな小間使いのように使っていいのか疑問ではあるが、本人が嬉しそうだからいいかとも思う。

 白虎は見当たらないが、どうせ部屋で原稿仕上げてるって所だろう。わざわざ呼ぶ必要も感じない。


「さ、上がれよ。狭い家だけどな」


「ではお邪魔させてもらいますね」


 応接間でレンさんに椅子をすすめて、俺も座る。しばらくしたら青龍がお茶を持ってくる。


「お手伝いさんがいるなんて随分裕福なのですね」


 レンさんが出されたお茶を飲みながら、そんな感想を述べる。


「こいつはお手伝いさんじゃない。俺の師匠兼しもべだ」


「??? 師匠なのにしもべ? あれ、私日本語間違って覚えてたかな? それって同時に成立する関係じゃないはずなんですが」


 俺の説明に混乱するレンさん。まぁ、普通は両立しない関係だよな。ちょっとこいつらは特殊だ。

 ちなみに、この場にいるのは俺とレンさん、俺の後ろに付き従うようにう青龍、という感じで他には誰もいない。アーミンは客間でサブスクの映画を見てるし、白虎はさっき言ったようにどうせ自室で原稿仕上げてるだろう。


「成立するんだよ。こいつの場合はな。さて、レン・クロムウェルさん。何用なのかは大体知っているが、一応聞いておこうか。俺に何の用だ?」


「貴方は第七の壁を越えて、古代魔法を使えると聞いています。是非ともその秘術を私に伝授していただきたく」


「第七の壁ってなんだ?」


「今更とぼけられるのですか? 今の人類が越えたくても越えられない、第七位階以上の古代魔法。貴方はそれを突破したのでしょう? その方法を私に教えていただきたいのですよ。もちろん望む対価は差し上げます。私に出来ることならなんでもいたします。えぇ、文字通りなんでも、ね」


 なんでも、と言った時僅かながらレンさんの瞳に狂気が宿ったような気がした。別な表現でいうなら、これは本気の眼だ。本人が言った通り本当になんでもやりそうだ。例えば俺と寝ろって命令してもなんの躊躇いもなくやるだろう。これはそういう目だ。


「対価に関しては魅力的ではあるが、あいにく俺ではあんたの望むものを提供は出来ない。これは交渉してるのでもなく、意地悪で言っているのでもない。本当に純粋に無理なんだ」


 実際問題、俺はオールラーニングによって青龍の古代魔法をラーニングして古代魔法を使えるようになっている。その実演の際、青龍のやつが全部無詠唱でやるもんだから、俺も覚える際は無詠唱になってしまって、俺は古代魔法に関しては一番初歩の初歩である、エナジーボルトの詠唱すら知らない。

 なので、第七位階以上の魔法を教えようとしても俺は無詠唱で魔法名を言うだけで魔法を使えるので教えようがないのだ。


「なるほど……ただでは教えないということですね」


 交渉してるんじゃないって言ってるだろ。話聞いてるのかこの女は。


「だから、交渉じゃないと……。分かった。じゃあ分かりやすく無理な理由を言おう。俺は確かに第七位階魔法を使うことができる。それに関しては紛れもなく事実だ。だが、俺は無詠唱で使うため第七位階魔法の詠唱を知らない。だからお前さんに教えることはできない。以上の理由だ。さっさと諦めてくれ」


「下手な嘘はいいですから。第七位階ほどの魔法を無詠唱とかありえないですから。そもそも詠唱だけなら第七位階魔法といえども現存していますし、私も知っています。でも、詠唱しても誰も発動しないから、第七の壁などと言われているのです」


 それに関しては初めて聞く情報だな。第七位階以上の魔法は詠唱だけじゃ無理なのか。俺はオールラーニングでサクッと身につけたからそれに関しては知らなかった。というか、古代魔法教えたのが超実践主義の青龍なので、理論に関しては全然教えてくれなかったんだよな。今度白虎に聞いてみよう。


「そう言われても、第七位階魔法を無詠唱で使えるのは事実だし……。分かった、いっちょ使ってやろう『テレポート』」


 ゲートの方が魔力消費もないし、複数人送れて便利だから最近は使うことのない魔法だが、デモンストレーションには丁度いいだろう。目の前の景色が瞬時に変わり、レンさんの後ろに瞬間移動する。


「なっ!? テ、テレポートですって!? ほ、本当に第七位階を無詠唱で!?」


 いきなり消えた俺をキョロキョロ探して、ようやく背後にいる俺を探し当てるレンさん。


「これで分かったか。俺は第七位階を無詠唱で使えるし、そもそも無詠唱で覚えたから詠唱も知らない。自分でもなんで使えるのか分からないぐらいだ。第七の壁なんてのも初めて知ったしな。というわけで、お帰りはあちらだ」


 そう言って、家の入り口の方を指差して大人しく帰れアピールをする。

 本当なら、白虎なり青龍なりが教えることでこの人の目的は達成されると思われるが、勝手に押しかけてきた初対面の女にそこまでしてやる義理はない。今回のことは縁がなかったということで。


「諦めませんからね……」


 こちらを睨みつけるような視線のまま、レンさんは今日のところは大人しく引き下がった。

 はぁ、やれやれ。この分じゃまた来るなあの人。


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