5.アーミンのおうち建設
「う……美味い。美味すぎる! これが美味いと言う感覚! これが料理! これが異世界!」
本日の料理はこちら、すき焼きになります。いや、一応アーミンの歓迎も兼ねてるので少し奮発したのだ。鍋を囲むというやり方に最初は戸惑っていたアーミンだったが、食べ始めるとそれも気にならなくなっていった様子。え? すき焼きは料理じゃないって? そこは内緒で。
「まぁ、少し奮発したからな。毎日このレベルと思われると困るが、これより少し下が標準レベルと思えばいい」
「どっちにせよ、美味しいってことよね! これだけでも貴方達に付いてきた甲斐が有ったってものよ」
「まぁ、しばらくは面倒を見るって約束だから、少しの間は食事も用意してやれるが、基本的には自分で作ってくれよな。無理なら無理で、レトルトとかでもいいから」
「レトルト? 何それ。でも、それもきっと美味しいんでしょ」
「ご主人。一応補足するけど、レトルトはオランダ語だから通じないよ。多分フードカートリッジのせいで失伝してるだろうし」
レトルトの意味ってなんだっけって考えてると横から白虎が補足を入れてくる。レトルトってオランダ語なのか。まぁ英語の授業で聞いた覚えがないし雰囲気が英語じゃないから、別言語だろうとは思ってたが。
「えーと、簡単に言うとお湯を入れたり、湯煎したり、電子レンジでチンするだけで食事が出来上がる食料のことだ。日本はそう言うのが結構多い上に割と美味いから選ぶだけでも楽しいぞ」
「電子レンジ? ひょっとして古典作品でよく見るやつかしら。何に使うのか謎だったけど、料理に使う器具なのね」
電子レンジまで失伝してるのかよ。ほんとフードカートリッジが食事の全てになってるんだな。そら、こんな料理ひとつだけでも感動するってもんだ。
その後もワイワイ話しながら食事を終え、食事の後片付けをするとアーミンに家建設の件で話しかける。
「で、俺が食事の用意をしてる間に家の間取りとかは考えたか?」
「もちろんよ。こんな感じでお願い」
そう言って、アーミンは一枚のメモを差し出してくる。随分と小さいがこれに間取りを書いたのか? そう思ってメモを見ると、間取りを図式で書いたわけじゃなく、文章で表していた。
いや、確かにアドミンいわく建設にはイメージが必要と言ってたから、図式じゃなくて文章でもイメージ出来ると言えば出来るんだが。これ初挑戦だからできれば図式の状態で明確にイメージできる状態でやりたかった所だ。
あ、ていうか俺が図式を書いてやればいいのか。こいつのイメージをもとに平面図に起こし、それを元に建設を行う。
よし、そんな感じで行こう。
「じゃ、これを元に平面図を書くから、間違ったところとかあれば指摘してくれ」
「わかったわ」
俺にデザインの才能はないから、下手したら豆腐ハウスになりかねないが、アーミンのイメージが既にあるので、それを図に起こすのはそれほど苦労はしなかった。
何度かの修正とディスカッションを終えて、あまり苦労せずに最終稿が出来上がる。
「よし。じゃこれで建設と行こうか。建設作業見てみるか?」
「そうね、自分の家のことだし──」
「はいはーい! 私も見にいくよ。是非是非連れて行ってよ!」
横合いから白虎が挙手して参加を表明する。うんそうだろうな。お前はそういうと思ったよ。
「じゃ、マリンの背中に移動な。白虎はいつも通りあとで呼晶で呼んでやるよ」
「そういえば、ワープステーションでワープする時も彼女たちだけ別枠でワープしてたけど何か事情があるの?」
アーミンがSF世界にいた時から疑問には思っていたであろうがわざわざ聞くことはしなかったことを聞いてくる。まぁ、これから仲間になるんだからこれに関しては解説が必要か。
「こいつらはワープとかテレポートとかそう言うのが出来ないんだよ。一部例外はあるみたいだけどな。そのせいで色々と面倒なんだよな」
「いつも面倒かけてすまないねぇ」
「ま、それはともかく家建設だ。さっさと行くぞ」
マリンの背中に移動するゲートを開く手鏡──、ええい長い。マリンミラーと名付けよう。マリンミラーをアイテムボックスから取り出すと、起動させゲートを開く。
「ここが巨大生物の背中、なのね。普通に何処かの惑星にしか見えないのだけど」
「それに関しては俺もそう思う。世界の裏側にいるって話なのに、他の生物とかもちゃんと生息してるしな。ま、ともかく建設だ。行くぞ、『建設』」
俺が一言そう言って建設を行うと、目の前にARっぽい半透明のウィンドウが展開される。
「うおっ」
どうやら、この目の前に表示されたUIを利用し建設を行うようだ。選択肢がまず、道路、壁、家、城、etc. って感じで表示されてる。家とか建物だけかと思ったが道路とかも建設出来るのか。建設という名のつくものならなんでもできそうだ。
とりあえず、家を選択。次に「おまかせモード」「イメージングモード」「手入力モード」の選択肢が表示される。こういうガイダンスに従っていって作る感じなのか。ていうか、おまかせモードなんてのがあるならそれで作ったほうが楽そうだな。とはいえ今回はアーミンの要望を反映させないといけないので、イメージングモード、でいいのか? 正直手入力とかやってられないので一番最後の選択肢は使うことはなさそうだ。
イメージングモードを起動すると、イメージを入力してください、とのガイダンスが表示される。これはここで作る予定の家の外観、内装とかをイメージすればいいのか? アーミンと協議した家のイメージを鮮明に思い浮かべる。
イメージを読み取りました建設場所を選択してください、の文章と共に目の前に家の形をかたどった半透明なスケルトンハウスとでも言うべきAR画像が表示される。俺が視線を動かすとそれに釣られて、半透明の画像が移動する。なるほど、ゲームでよくあるようなUIだな。木に接触したりして建設不能の場所だったりすると、半透明の画像が赤くなって、建設不能の文字が出るのも非常にゲームっぽい。
「よし、これで建てれる準備が整ったが希望の場所はあるか?」
「別にどこでもいいわよ。元手ゼロなんだからあとで建て直しも出来るんでしょ? 今は私しかここの住民はいないみたいだから、どこでも変わらないでしょう」
「じゃ、この場所で」
俺は適当な場所に、半透明の画像を移動させると、確定のボタンを押す。
ズドン
地面が少し揺れたと思ったら目の前にいきなり立派な家が出現する。チートここに極まれり、だな。
アーミンの様子をみるといきなりのことに口を大きく開いてポカンとなってる。白虎は目を輝かせて興味津々で見ている。
「ほほー、これが建設のチートか。まさにチートにふさわしい能力だね。元手ゼロなだけじゃなく、一瞬で建つのか。これで街でも作ったら?」
「流石に全部俺が建てるのは非効率かつ経済的によくないだろ。建設も経済活動の一環なんだから人を働かして、物資を動かして、経済を動かさないと。今は初住人だから急遽こういう形でしたけどさ」
「でも、住人の宛てなんて今の所ないじゃん。あ、中世ファンタジーよろしく盗賊のアジト襲撃して、奴隷を大量に抱えるとかあった時は役に立つかもね」
「変な想像をさせるな。そんな面倒ごとは正直お断りだ」
「と、とりあえず中を見ていいかしら? 中もちゃんと出来てるか見たいし……」
白虎と色々話してると驚愕から回復したアーミンがおずおずと提案してくる。
「おう、俺も中がどうなってるか気になるからな」
アーミンと白虎ととで並んで家の中に入る。家の中はどうなってるのかちょっと不安だったが、俺のイメージがほぼそのまま反映されていた。さすがに家具はなく家のガワだけしかなかったが、電灯、ガスコンロ、水道などは何故か完備されていた。
電灯はちゃんと付くし、ガスコンロも付く、水道も上下水道どちらもオッケーという至れり尽くせりだった。俺そこまでイメージしたつもりはないんだがなぁ。
ていうか、電気、ガス、水道は一体どこから来ているのか。半永久的に使えるのか。そこら辺は要検証というところか。
「建設のチート恐ろしいね。インフラまで完備とかどうなってるの……?」
白虎が電灯をパチパチさせながら、驚愕する。
「そうね。あとはこれで銀河ネットワークに繋がれば完璧なんだけど」
アーミンはもう驚き疲れたのか、死んだような目で各種インフラをつけたり消したりしていた。
「取り敢えず、次は家具を揃える必要があるな。一応金ならそこそこ持ってるから遠慮する必要はないぞ。今度買いに行こう」
「分かったわ。その時はよろしく。とりあえず今日は貴方の家に厄介になるってことでいいのかしら」
「まぁ、ここベッドもないしな。今日のところは構わないぞ。あと、俺明日は学校だから、家具買いに行けるのは夕方以降だな」
「学校? 貴方学生だったの?」
「そうだよ。だからまぁ、異世界に行くのは大体土日の連休だな」
「ふーん、そうなんだ」
まぁ、朝から昼間にかけてのアーミンの世話は青龍や白虎に任せればいいだろう。アーミンの家を後にし、今日はもう寝ることにする。
はー、学校無くならねーかな。