2.観光のアーミン ②
服を選び、ぴっちりエスパースーツからカジュアルな現代的な服装に着替えたアーミンは正直どこに出しても恥ずかしくない淑女だった。本人がどちらかというと美人系なので、それが似合う服装を選んだのだろう。
俺には服単体の良し悪しはわかっても全体的なコーディネートはわからないので、やはり桜に任せてよかったと思う。
「うん。どこから見ても現代人だな」
俺の感想はそれに尽きるのだが、それに関して桜とアーミンが揃ってげんなりした顔をする。
「女の子がせっかく着飾ったのにその感想? 勇人に美的センスを求めるのは諦めた方がよさそうね」
「褒めて欲しいとまでは言わないけど、その感想はないわー。勇人クン、ポイントマイナスよ」
さっきといい今回といいどうせいっちゅうんじゃ。何度も言うが俺に美的センスを求められても困る。
「勇人様、奥同士の仲を取り持つのもハーレムの主の役目ですよ」
青龍は青龍でトンチンカンなことを言い出すし。奥ってお前表現が古いな。そもそも、ここにいるハーレム要員はお前とサクラなんだが? いや、そもそも俺はハーレムを作るつもりはないと何度言えば。
「ハーレム? 勇人クン。ハーレムとか作ってるの? 私も手篭めにされちゃうのかしら?」
青龍の言葉に反応してアーミンがからかうような感じで悪戯っぽく笑う。
「言っとくが、それは二人が勝手に言ってるだけだからな。俺は何度もハーレムを作る気はないと言っている」
「あら? ハーレムって男の夢でなくて? それができるだけの強さを持ってるのだから、誰も文句は言わないと思うけれど?」
「ハーレムなんてめんどくさいだけなんだからな。さっき青龍も行ったようにハーレム要員同士の仲も取り持たないといけないし、平等に愛さないと行けないしで。少なくとも現段階では考えてないね。……ていうか、お前俺の強さ知らないだろ。あれほぼ道具の力で勝ったようなもんだし」
「あまり私を舐めないでくれる? 勇人クン。ESPパワーを使い切ったからと言って、私が道具頼りの男に降参するとでも? 私の渾身のサイコスピアを空中で迎撃したその反射神経と動体視力。私の光の剣を完全に防御不能タイミングで繰り出したにも関わらず、こともなさげに防御したこと。キミの卓越した実力を疑う要素はなにもないと思うけど?」
「…………」
それは多分Lv8に達した剣術スキルからもたらされた身体能力ゆえだろう。まぁ、俺も常人より少ないとはいえ頑張って修行した結果なので、そこを誉められるのは悪い気はしない。
「それにしても、ハーレムはめんどくさい、ねぇ。随分と現実的な意見の持ち主のようで。こんなのがいいの? 桜ちゃん」
というか、アーミンもハーレム肯定派のようだ。出会う女皆ハーレム肯定派なんだが、なんかのバグでも発生してるんだろうか。
「そこはまぁ、惚れた弱みと言いますかなんというか、それにどちらかと言うと私はハーレムは否定したい派なので……。でも、肯定しとかないと勝ち目がないというか……」
「まぁ、その話はもういいだろ。で、どこ行きたいんだアーミン? 見たいところがあるなら連れいってやるぞ」
「どこでもいいわよ。私からすれば街並み一つとっても古典作品に迷い込んだかのような風景ばかりだし.街をただ歩いてるだけでも楽しいわよ」
「じゃ、どこでもいいなら私が決めるわね。勇人に任せてたらロクなことにならなさそうだし。取り敢えずは、折角のアオンなんだし、ここでウィンドウショッピングと行きましょうか」
「勘弁してくれ……。また付き合わなきゃならんのか」
また、あの長い買い物に付き合わされるのかと思ってうんざりする.
「じゃあ、なんか代案ある? いい代案があるならそれでもいいわよ」
「折角観光するんだから、遊びに行こうぜ。ちょっと距離あるけど近くにレジャーランドあっただろ。なんだっけあそこ」
俺が代案を述べると、桜はやれやれといった感じで嘆息する。
「あそこは映画のテーマパークでしょうが。現代地球の映画を知らないアーミンが楽しめるわけないでしょ」
「ぐっ……」
極めて妥当な意見を言われ言葉に詰まる。これはまた買い物に付き合わされる流れか。
「取り敢えず私としてはウィンドウショッピングでもいいけど、このデパートで完結するより街並みを見て回りたいかなーって」
俺の嫌そうな雰囲気を察したのか、見かねたアーミンが少しマシな案を挙げる。それでも、買い物につきあわされるんだがなぁ。まぁ、街並みを見るから買い物の頻度は下がる、か。
「じゃ、それで行きましょう。車あるから一旦勇人の家に帰ってから歩きかしら」
と言うわけで、散歩が次のコースと決まった。いったん車で家に帰るが、青龍はそこでお役御免となった。まぁ、青龍は運転手としてついてきただけだし、ぶらり歩きなら治安もいい現代日本で護衛は不要だろう。それに俺も含めて全員そこらのチンピラ相手なら赤子の手をひねるようなものだ。世紀末思想に染まってるアーミンがやりすぎないかという心配はあるが。
しかし、ぶらり歩きねぇ。公園でも行けばいいのか? それとも街並みを見たいって言ったから住宅街でも見せるか?
「さ、それじゃ散歩と行きましょうか。勇人先導よろしく」
「なんで、俺が先頭なんだよ」
「なんでって、あたしこのあたりの地理知らないんだもん。案内できるわけないでしょう?」
そう言われればそうだった。俺が案内するしかないのか。
「じゃあ、近くの公園に行くぞ」
近所に自然公園があるので、そこに行くことにする。そこに行くまでの道すがらでもアーミンはあたりを興味津々な様子で目をキラキラさせていた。まぁ、俺たちで例えるなら時代劇のセットに迷い込んだようなものだろうからな。俺もその状況になったらキョロキョロしまくる自信はある。
その後は特筆するようなことはなく、近所の自然公園に着く。正直桜もアーミンも美人だからナンパの一つでもくるかと思ったが、そんな様子は皆無だった。男の俺がいるからか? まぁ、多分今通ってる道が繁華街とかじゃなくて普通の道だからナンパ男がエンカウントするような場所じゃないという方が大きいとは思うが。
「へぇー。流石に未開の惑星は自然が多いのね。最近じゃムービーでしかみない自然だわ」
「未開とかいうな。そりゃ、お前らに比べたら土人レベルだろうけどさ」
表現が上から目線なのはどうにかならんのか。いや、アーミン本人は上から目線のつもりはないんだろうが。
「じゃ、自然を堪能しながらのんびり散歩でもしましょうか。お弁当でもあれば完璧だったんだけどねー」
桜がふとそういうと、アーミンはなにやら考え込み出す。
「オベントウ……聞いたことがあるわ。家で予め料理をして昼時に食べるものだってね。最初見た時はフードカートリッジでいいじゃない、とか思ったもんだけど、この自然に囲まれてオベントウってのを食べるのはとてもいいアイデアな気がするわね」
「そうか、そういやお前の世界は料理が上流階級の趣味なんだったな……。お弁当ぐらい今度俺が作ってやるよ。次のおでかけの時にそうしようぜ」
ポストアポカリプス世界の時も炊き出しを作ったが、料理は割と得意である。なぜなら、俺の家は姉ちゃんがほとんど居着かないので、家事全般は俺の仕事なのだ。
「!? 勇人クンは料理ができるの? ま、まぁ私ぐらい稼いでると“料理”ぐらい食べたことあるけど! でも、この惑星の料理は気になるわね」
「じゃ、今晩は腕を振るうとしましょうかね。ゲスト様のためにも」
「うぅ……、ここは彼女の手料理を披露すべき時なのに。今まで料理してなかった自分を恨むわ」
横で桜が凹んでるが取り敢えず無視の方向で。
「おや……勇人さんじゃないですか。こんなところで会うとは奇遇ですね」
「え?」
そう言って俺に声をかけてきたのは、上下ジャージに身を包んだ宗玄さんだった。