1.観光のアーミン ①
アドミンとの邂逅を終え、目が覚める。いつもの俺の部屋、いつも通りの1日経過。うむ、いつも通りだ。そして、運良くと言うか、SF世界に飛んだのは土曜日なので今日は日曜だ。アーミンを案内するに適した日付だ。さて、肝心のアーミンを迎えに行ってやらなければな。
早速ポータルを開いて、SF世界に転移をする。
「うおっ! 消えたと思ったら、いきなり現れた!?」
「素が出てるぞアーミン。ていうか、俺の寝てるところで出待ちしてたのかお前は。ともかく行くぞ。あ、桜もついでに連れて行くからちょっと呼んで来てくれ」
「んん“っ! わかったわ。呼んでくるわ」
わざとらしく咳払いをして、口調を戻し、桜を呼んでくるアーミン。
転移する場所は、俺の部屋でいいか。桜を置いてアーミンに地球を紹介してたらあとで色々とうるさそうだ。桜と一緒に回るのがいいな。
「お、相変わらず早いお着きで、そんじゃ地球に帰りましょうか。私も一緒にね」
にこやかな笑みを浮かべながら、一緒に、を強調する桜。うん、やっぱり置いてくと面倒なことになるな。一緒に地球を案内するとするか。
「じゃあ、俺の部屋に転移するぞ。俺の後に続いてくぐれ」
そして、アーミンと桜を俺の部屋にご招待、と。
「ふーん。私の家に文句を言うぐらいだから流石に片付いているわね。調度品がレトロ極まりないけど」
「初彼氏部屋! こう言う時はベッドの下を確認すべし!」
各々、変な言葉を述べるが、無視して青龍達を呼び戻す。と言っても、平和極まりない現代地球でコイツらを護衛にする意味は薄いので、純粋に地球に転移させるだけだが。
「なーに? 桜ちゃんと勇人クンは恋人同士だったの? にしてはあんまり甘い雰囲気がなかったけど?」
「取り敢えずは今はコイツが彼女面してる段階だな、まだ付き合ってはいない」
「桜って呼んでほしくないんだけど、でもまともに戦ったら勝てないし……。って彼女面っていうな! 別にいいでしょ、彼氏って宣言するぐらいは!」
こいつの名前呼ばれたくない病は病的だな。女の友人間でも呼ばれたくないのだろうか。この様子見る限りはそうなのだろうが。
「色々あるのねー。それはともかく、ここがあなた達のいる異世界なのね。調度品や風景がレトロなだけであまり代わり映えはしないわね」
「レトロレトロうっセーぞ。そらこの世界はまだ宇宙進出してないんだから、お前から見たらレトロなのは仕方ないだろ」
「ふんふん。確かにある程度の文明があるのに銀河ネットワークが圏外ってことはそうなんでしょうね。じゃ、早速観光に行きましょう。私としては古典作品を見るような感じになるでしょうけど」
「その前に服だな。そのぴっちりスーツはこっちではひたすら浮く。だが、俺は女性の服を仕立てたことがない。というわけでコーディネートは桜任せた。代金は全部俺が持つから」
流石に、このいかにもSFチックな服で出歩かれるわけにはいかない。服屋に行くまでは許容するしかないが、観光するにも適した服というものがある。
「んじゃー、なかむらあたり行きましょうか。この辺のやつ案内してくれる?」
そう言って、格安衣服店を薦める桜だが──、
「舐めんなよ桜。俺はこう見えても結構稼いでるんだ。普通の服屋で問題ないぞ。流石に、高級店は無理だがな」
ぶっちゃけ、宗玄さんとこの妖退治のバイトで稼いだ金は、ネットショッピングのチートでも使うことがないので、死蔵している状態だ。流石に金銭を回さないと経済的によろしくないので、使える時にパーっと使ってしまう。
「あ、そう? じゃあ、普通のデパート行きましょうか。取り敢えずコートかなんかで、服は隠して行きましょうか」
「ならば、私のコートを使いましょう」
そう言って、どこからか地味な灰色のコートを持ってくる青龍。
「お前、いつの間にそういう服とか買ってんの? ていうか、冷静に考えたら俺小遣いとかあげたことなかったよな?」
「小遣いでしたら彩音様にいただいております。また、必需品に関してはその都度頂いておりますので」
なにそれ俺知らない。ていうか、姉ちゃんってどれだけ稼いでるんだ? 俺だけでなく青龍や白虎たちの食費も出してるわけだし、冷静に考えたら俺も金出した方がいいよな? 一応稼いでるわけだし。まぁそれは今度でいいか。
「地味なコートね。まぁ、目立たない方がいいのは同意するけど」
アーミンは青龍からコートを受け取るとぴっちりスーツの上から羽織る。
「というか、目立たない方がいいっていうんだったら、カツラも欲しいところだけどな。お前長髪だからカツラは厳しいだろうけどさ」
「カツラ? なんで?」
「そんなに赤い色の髪の毛は珍しいからだよ」
「そう? 割といると思うんだけど……」
文化がちがーう。宇宙進出ともなると、髪の色も多種多様になるのか?
「ま、髪の毛はどうしようもない。脱色するわけにもいかんしな。とにかく買い物だ、行くぞ」
取り敢えず、俺、桜、アーミンでアーミンの服を買いに出かける。の予定だったのだが、青龍が「ならば、私が運転手をしましょう」と言い車を出してくる。これ姉ちゃんの車だったような。いつの間に鍵とか渡されてたの? と言うかお前、封印されてたのに免許あるの? それ失効してない? 大丈夫? 白虎は白虎で漫画を描くと言い出して家に残った。お前はお前でブレんね。
手近にあるデパートのアオンに付くと桜とアーミンで衣料品店を梯子しだす。こういう場合男はただ待つだけなのが辛い。女の買い物は長いとよく聞くがそれを実感する。というか、最初の店だけで決めろよ、なんでそんなに服屋を取っ替え引っ替え梯子する必要があるんだよ。
ちなみに青龍は二人に加わることなく、俺と一緒に待っている側だ。
「お前も服選んでいいんだぞ? なんならプレゼントしてもいいんだぞ」
「お気持ちはありがたく。ですが、先ほども言ったように生活に必要な必需品は彩音様にいただいておりますので」
違うそうじゃない。確かに衣服は必需品だが、それと同時におしゃれの為の嗜好品だろうに。俺が言えた義理ではないが、こいつ衣服に頓着しないんだな。まぁ、女性型なだけで実際は無性だから服に対する女性的な渇望がないのかもしれないが。
「服のセンス自体は時代が流れてもそこまで変わりないのねー。流行とかは違うみたいだけど」
「これなんてどう? ねぇ、勇人、アーミンに似合うと思わない?」
そして二人してキャピキャピして試着の感想を俺に求めてくる。だが、センスなんてない俺にはどう答えたらいいのか分からん。
アーミンはアーミンで完全に桜の着せ替え人形と化してるが、本人は割と楽しそうではあった。やっぱ、アーミンも女ってことなんかねぇ。素の口調が男らしいのとあの強さのせいで、あんまり女としては見れないんだよな。
「どれでもいいから早くしてくれ、この後観光もあるんだからあんまり時間かけるなよ」
「勇人、その態度はマイナスポイントよー。適当でもいいから似合ってる似合ってないぐらいの回答は欲しいところよ。女の子はそういうのを求めてるんだから」
投げやりにいうと、桜からダメ出しをされる。どうせいっちゅうんじゃ。
「さいですか……。まぁ、アーミンの赤毛に似合ってるとは思うぞ。俺的にはそれより一個前の方がいいと思うが」
「なんだ、ちゃんと言えるじゃない。私とのデートの時も是非そんな感じで頼むわね」
桜はそう言って、再び服の物色を開始する。似合ってるってちゃんと言ったのにまだ終わらんのか!
結局、アーミンの服を選び終えたのはそれから1時間も経ってからだった。
女の買い物ってマジで長いな……。