21.アーミン勧誘
アーミンは気力に満ち溢れた状態になり、いつでもこちらを殺せるとばかりに殺気を向けて──はこなかった。一応俺らはこいつが弱っている時に自宅に送り届けたり、甲斐甲斐しく世話をしたり、護衛をしたりしたのでその恩がある俺たちにいきなり復讐戦を挑むほど忘恩の輩ではないようだ。
「そうか、元気になって何よりだ。で、言ってた復讐戦は今するか?」
「そのつもりがあるなら、すでに行動に移している。それに、お前たちには、その……世話になったしな。世話になった相手にいきなり復讐戦をするほど私は恩知らずではない」
少し顔を赤らめながらそう答えるアーミンはちょっと可愛かった。言うと隣の桜がうるさそうなので声に出すことはしないが。
「じゃ、俺たちはもうお役御免ってことでいいのか?」
「あぁ、世話になった。あとは私自身でどうにでもできる。私の懸賞金よりは安くなってしまうが、報酬も用意した。100万クレジットだ。護衛代金として受け取ってくれ」
そう言って、アーミンはカードのようなものを取り出すが、ぶっちゃけ要らないんだよなぁ。クレジットはまだ98億近く残ってるし100万なんて誤差でしかない。それにあのことをちゃんと告げなければいけない。
「それなんだがな、アーミン。お前この後もエスパーとして仕事続けるつもりか?」
「? あぁ、私にはそれしかないからな。また私の懸賞金を狙う奴らの相手もしないといけないと言うのは少々憂鬱だが、有名税とでも思うことにするさ。なぁに、そう簡単には負けんさ。何せ私は最強のサイキッカーだからな」
俺らには負けたけどな、と言いかけた言葉を飲み込んだ。ここでそんなこと言ったら話がややこしくなるだけである。
「懸賞金狙いの奴らからもう2度と追いかけられない方法があるって言ったらどうする?」
「そんな方法があるわけないだろ。自分で言うのもなんだが、私ほど有名なエスパーを知らぬエスパー狩りはいない。確かにエスパー狩りに狙われなくなる方法が本当にあるとしたら是非ともご教示願いたい程だけどな」
「俺たちと一緒に来れば追われる身からはとりあえず解放されるぞ?」
「それはあれか、護衛を継続するという意味か? 悪いがお断りだ。私にもプライドというものがある。ムービーのヒロインのように守られてばかりなどということはガラじゃないし、何より私の矜持が許さない」
「違う、そういう意味じゃない。んーとだな、とりあえずお前異世界の存在って信じるか?」
「は? いきなり何を言っている?」
俺の発言に眉根を顰めて、訝しげに見つめてくるアーミン。うむ、それが正常な反応だよな。
「一言で言えば、俺たちは異世界からこの世界にやってきた存在だ。だが、それは一方通行ではなく、行ったり来たりができる。お前が俺たちに着いて来ればこの世界を脱することができる。異世界渡りなんてできるエスパーなんていないだろうから、異世界に逃げてしまえば今後懸賞金狙いや名誉狙いのエスパーが来ることは2度とない。どうだ、悪い話じゃないと思うが」
「お前が何を言ってるのかわからない……。異世界だと? そんな古典作品でしか見ないようなトンデモ展開を信じろというのか?」
「じゃ、とりあえず手っ取り早く信じさせるとするかな」
そう言うと俺はマリンの背中に渡るためのワープゲートを開く手鏡を取り出す。この手鏡もなんか名前欲しいな。「マリンの背中に渡るためのワープゲートを開く手鏡」じゃ長すぎるわ。
それはともかく手鏡を使ってワープゲートを開く。
「!?」
自室にいきなり開いたワープゲートに緊張感を強くするアーミン。
この世界のワープってワープステーションでやったみたいに特定の場所に立ってそのままワープさせるって形式なので、こういうゲートって形でワープする代物じゃないんだよな。だから、アーミンもこう言うのは見たことがないだろう。
「安心しろ、異世界への扉を開いただけだ」
本当はマリンの背中だが、白虎がいうにはマリンは世界の裏側に本体を置いているらしいので、世界の裏側という異世界に行くという点では間違ってないだろう。ていうか、世界の裏側ってなんなんだろうね。機会があったら今度聞いてみるか。
とりあえず安全確認も兼ねて俺が先に中に入る。うん、中はっていうかマリンの背中は相変らず木々が生い茂り、豊かな動物たちのいるまさに楽園って感じだな。
中は確認したのでその足でゲートから向こう側に顔だけ出す。ギョッとするアーミンを尻目に、こちらに手招きする。
「ま、ま、騙されたとでも思って潜ってみろよ。この先は異世界に通じてるぞ。安心安全な空間だ。嘘だったら木の下に埋めてもらっても構わんぞ」
「う、うむ……」
アーミンはしばらく逡巡していたが、意を決してゲートの中に潜る。目を閉じながら潜るとか案外可愛いところあるじゃないか。そして、目を開けるとその風景に驚愕する。
「これは……。この時代にこんな自然の残った惑星があるとは。なんという惑星だここは?」
「惑星じゃねーって、異世界だって言ってんだろ」
どうも、SF世界の住人はワープゲートが一般的なせいで、ここも惑星間テレポートで来た場所だと思ってるご様子。これは納得させるには骨が折れるか?
「ふっ、異世界か。確かにこんな自然溢れた場所は普通の世界ではないかもな」
どうやらかけらも信じていない様子。魔法見せたところでエスパーの一種と言われたら否定できないし、どうやったら信じさせることができるのか。
「ま、それじゃあこの惑星の座標を調べて、お前の余興を潰そうと──」
アーミンは腕に巻いてる腕時計見たいな端末を操作すると、不意にその格好のまま固まる。
「どうした?」
「おい、圏外って表示されてるんだが、これはどういう意味だ?」
「だから言っただろ、ここは異世界だって。ネットだって圏外にならぁな」
「馬鹿な! 惑星ワープで飛べるような距離を飛んだだけで圏外になんてなるものか! 銀河ネットワークはそれこそ銀河の至る所に配備している。宇宙連邦の外縁の超が10個ぐらいつくド辺境ならいざ知らず、惑星ワープで飛べる範囲にそんな辺境は存在しない! 一体どんなカラクリを使った、真宮寺勇人!」
「だから、何度も言うようだがここが異世界だって言ってんだろ。いいかげん認めろ」
「ま、まさかそんなはずは……」
アーミンはまだ認められないのか、腕時計型の端末を色々いじっている。しかし、段々焦りの表情が濃くなり、ついには端末をいじるのをやめ、腕をダランとさせる。
「ポスティングシステムも銀河ネットワークも反応しない……。本当にここは、異世界だと言うのか……」
「認めてくれたようで何より。で、俺からの提案はここに移住しないかって話なんだがどうよ?」
「……私を移住させてどうするつもりだ。お前が私がエスパー狩りに追われている現状を憂いてくれてるとでも言うつもりか? さっきも言ったが私にもプライドというものが──」
「これは報酬の前払いだよ」
「?」
俺の言ったことが理解できないのか、不思議そうな顔を浮かべるアーミン。俺は続けて契約条件を詰めることにする。
「正式な提案はこうだ。俺たちの仲間にならないか、アーミン? お前のその最強のサイキッカーとしての力を俺たちに貸して欲しい。その見返りとして俺はお前に極めて安全な、エスパー狩り達に絶対に襲われない住む場所を提供しよう。そういう取引だ、これは」
「なるほど、取引か。それならまだ一考の余地はあるな。詳しく話を聞こうか」
「取り敢えずお前の部屋に戻るぞ、そこで話を詰めよう」
そう言って、揃ってゲートをくぐりアーミンの部屋に戻る。
さて、こっから上手くいくのやら。