18.初宇宙、初ワープ
「うおー! すげー! 見渡す限りの大宇宙!! これが宇宙航海!!」
宇宙港を出発し、惑星ズールを脱したあたりで白虎が興奮で窓に齧り付く。
ここはワンダーサイト号のブリッジ。艦長席もあり、砲座やらオペレーションを行う椅子があちこちにあったりで、まぁ一般的に想像する宇宙船のブリッジって感じの造形だ。特に取り立てて目を引くものはない。
「宇宙の景色など見ても何が楽しいのだか。どこを見ても同じ黒い空間が拡がっているだけだろうに」
対して、こちらは冷めてるサイキッカーアーミン。そら、お前ら元々のここの住人だから宇宙なんて見飽きてるだろうしな。俺らは宇宙旅行なんてまだ夢想の段階の時代の住人だからな。正直俺も興奮してる。白虎がいなければ同じことをしていただろう。
「して、これからアーミンさんの母星に向かうのでしたか? アーミンさん移動先を入力していただけませんか?」
青龍が促し、アーミンが航行システムの前に座ると行き先を入力する。
「惑星フラクタル……。そこが貴方の母星ですか」
「ワープ使えばそこまでの距離でもない。着くまでは部屋で休ませてもらうぞ」
「あぁ、思ってたより船でかくて部屋もいっぱいあるしな」
そうなのだ、俺的にはフリゲートって小舟よりましというぐらいの大きさかと思っていたのだが、かなりでかい。100人ぐらい暮らせるほどあるんじゃないかってデカさだ。まぁ、実際の操縦とか砲撃とかはほとんどオート操縦で出来るので、運用するのにそんなに人数は多くなくていいのが救いだが。
「では、失礼する。着いたら起こせ」
起こせってことは寝るってことなのか。一応あいつにとっては敵地だと思うんだが、寝るって度胸あるな。まぁ、俺らが寝込みを襲ったり殺したりしないと思ってるからだろうが。実際そんなことする気ないし。
「ふぉー。ふわー。ほへー。宇宙いいなー」
コツン
ため息に振り向けば白虎が窓に向かってまだ宇宙を堪能していた。よく飽きないな、と思ってると突如外の景色がぐにゃりと変わる。
「あれ?」
星々の光が後ろに流れていく演出と共に、あたりが青い空間に包まれる。窓に反射した白虎の惚けた顔が若干面白い。
「どうやらワープに入ったようですね。ワープアウトするまではこのままですか」
「えー、せっかく宇宙を堪能してたのにー。いや、でもこれはこれで堪能できるか。ワープってこんな感じなんだねー。ほへー」
とワープ空間も楽しみ始めた白虎。とりあえずこいつは放置でいいだろう。
って違う、よく考えたら──、
「なんでお前らワープ出来てんの? こういうの受け付けないんじゃんかったっけ?」
「あれ? 確かにそう言われてみれば……」
「ワープの直前に私が私らでもワープできるようにチョチョイとやりましてな。流石に宇宙空間に取り残されるわけにはいきませんので」
俺と白虎の疑問に玄武が答える。そういや、こいつ例外的に時空間に干渉できるんだっけ。どうやってるのか知らんが便利だな、ていうかこいつがいなかったらかなり大変なことになってたな。当初はこれ以上戦力は要らんと思ってたが、いてくれて本当に助かった。
「なるほどね、それじゃ、俺らも休んでおくか」
「ブリッジには私が詰めておきますので、ご主君たちはゆっくりとお休みくだされ」
「悪いな玄武。任せた」
玄武がブリッジに待機することを志願してくれたので、それに甘えることにした。まぁ、正直ワープ中だから何も起きないと思われるが、不測の事態とはいつでも起こるものだ。備えておくに越したことはない。
「じゃいくぞ、青龍、桜」
二人と連れ立って、休憩室へと向かう。白虎はまだ窓にへばり付いているので放置安定である。なぜ自室に向かわないのかというと、どうも船内マップを見る限り自室、すなわち艦長室は執務室のような場所であって、ゆったり休憩するような場所ではなかったからだ。休憩専用のスペースがあるならそこで休憩したほうがいいに決まっている。
「俺たちは休憩室で寛いでるからなー」
聞こえてるか聞こえてないかわからないが、一応大声で白虎に向かって行き先を告げておく。
そして、休憩室に向かうのだがその道筋というのが意外と長い。まぁ船自体がでかいから仕方ないのだが、休憩室それ自体が船の中央ぐらいにあるので、ブリッジから行くには歩いて、エレベーターに乗り、歩いて、と言った感じに結構移動する必要がある。
それでもなんとか休憩室にたどり着くと、3人で思い思いにくつろぎ始める。
あ、ちなみに今更だが、この船には人工重力が働いているようで、移動には何の支障もなかったことを付け加えておこう。SF世界すごいね。
桜と雑談したり、青龍とただゆったり過ごしていると、一人の客がやってくる。
「おい、この船のライブラリすっからかんじゃないか。暇潰せるものが何もないぞ」
アーミンが憮然とした表情で俺に文句を言いにきた。
「ライブラリ?」
「本だったりゲームだったりムービーだったり、娯楽全般を納めた書庫のようなものだ。船を買うときにオプションで選択できたはずだ。スペースライブラリと契約と言う項目があったはずだが? 月額制のサブスクリプションで多くのライブラリを楽しめるサービスなんだが……契約してないのか?」
途中から寂しそうな表情になるアーミン。聞く限りどうも大体の人間は標準でつけるようなサービスなのだろう。だがこのワンダーサイト号は闇商人から買った闇船だ。そんなサービスがあったとは思えない。
「契約はしてないな、でも見たいものがあるならいくらか出してやれるぞ。本がいい? 映画がいい? それともゲームか?」
「今はムービーの気分だ、ムービーでいい。お前のおすすめでいいぞ」
「ほう、俺のおすすめでいいのか? じゃあ、これだな」
俺はネットショッピングから、ポータブルDVDプレイヤーと、とある日本製のホラー映画を購入し実体化させる。
「!? 今どこから出した!? というか、随分と古臭い媒体とプレイヤーだな、そんな古典ムービーが面白いのか?」
「まぁまぁ、古典には古典の面白さがあるんだぜ。とりあえずこれでもみて暇潰せ」
「これは日本語か。なら私でも楽しめそうだ。こういう古典はたまにどこかの星域の固有言語だったりするからな」
「え? 読めんの?」
そういえば、出してから気づいたけどネットショッピングで買うDVDなんて全部日本語じゃないか。出しても本来ならアーミンが楽しめないと言うことに気付くべきだった。
「何を言っている? 宇宙連邦の公用語は日本語だろうに、宇宙連邦に所属している連邦民なら日本語を習得してて当然だ。というかお前も日本語を喋ってるじゃないか。何を不思議そうに」
そう言われてみれば、俺はこの世界に来てからトランスレイトを使った覚えがない。最初の段階で言葉が通じていたことに関してなぜ不思議に思わなかったのか。
しかし、公用語が日本語なのか……、この世界の日本何やらかしたんだ?
「そ、そうか。そういえばそうだったな。ま、とりあえず俺のオススメを見てるといい。気に入ったらまた別のを紹介するよ」
「すまんな、借りていくぞ」
そう言って、ポータブルDVDプレイヤーとホラー映画のDVDを持って部屋へと戻るアーミン。
しばらくして、アーミンの部屋からそれはまた可愛らしい悲鳴が響き渡るのだが、それに関しては割愛させてもらおう。
痛かったし……。