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16.アーミンという女

 アーミンは心底不思議そうに尋ねてくるのだが、俺からしたらその態度こそ心底不思議だよ。


「別に俺が言った言葉が全てだけどな、外道な真似はしたくない.それだけだ。別にあんたに情が湧いたとかそういう理由ではないさ」


「おかしなことを言う。その程度で外道などと呼ばれていたらエスパーは全て外道になってしまうぞ。私に情が湧いたと言われた方がまだ納得できる理由だ」


 もうやだこのSFメンタル。いやいっそ戦国メンタルとでも言うべきか。名声と懸賞金目当てに無抵抗の女の子を殺すことが外道じゃないって何なんだよ。どんな行為が外道にあたるのか俺に教えてくれよ。


「しかし、本当に私を殺さないつもりか? これは純粋に疑問で聞くんだが、なぜ何だ? 私を殺すことによるメリットの方が遥かに大きいだろう。やつが言ったように、お前は名声を得られるし、私に掛けられた1億クレジットの懸賞金も手に入るぞ。それにここでトドメを刺さなければ私はまた復讐戦をお前に挑むだろう。生かしておいてメリットなど全くないぞ。明らかに理屈に合わないことをお前はしている」


「うっセーよ、理屈倒れが! メリットメリットって、何でも損得で考えてるんじゃねーよ! 俺は! 俺がお前を生かしたいって思ったから守っただけだ! そこに損得勘定は一切存在しない! 無抵抗の女の子を目の前で殺されるのは仁義にもとる! だから助けた! それ以上でも以下でもない! 復讐戦に来るならどんとこい! いつでも相手になってやる! そう言うことだ! 分かったかSFメンタル野郎!」


 最後は俺の勝手な造語まで持ち出して大声でアーミンをがなりつける。

 俺の大声に反応して、アーミンはびっくりして文字通りキョトンとしたような表情になる。


「仁義……、そんな言葉を聞いたのはいつ以来か。この世にまだ正義はあったのだな」


「マジで世紀末なんだなこの世界……」


「今は宇宙暦1562年。まだ世紀末とはいかないが……」


「言葉の綾だ、気にするな」


 俺はそれだけ言うとしっしっと手の甲をふる。そんなやり取りを二人でしていると、白虎がスタスタと俺たちに近づいてくる。


「でもご主人。実際この後どうする? ご主人がこうしたいって思った結果こうなった以上、多分これ主人公はローゼンじゃなくてこっちだよね? 彼女の手助けするどころか思いっきり邪魔しちゃったけどこれ挽回効くのかな?」


「言うな、ちょっと初動をミスった感があるのは俺も自覚してる」


「主人公? お前達は一体何を言って……」


「こっちの話だ。とりあえず聞くんだが、お前この後どうするつもりだ。依頼主は明けの明星に連れ去られ、お前自身はESPパワーが尽きた状態。お前の代わりに言ってやるなら、後は死を待つだけって状態だが?」


「見逃すというのなら何処かへと姿を消して、力が回復するまで潜伏するつもり──、いや待て、このシチュエーションはどこかで……」


 アーミンは途中で何やらぶつぶつと考え込みだし黙る。なんだ、今度は何なんだ。


「いや、そうだな。こういう場合はどう言えばいいのか。確かこうだったか。私を殺した責任取ってもらうぞ」


「いや、殺してないから。というか責任って何だよ。俺に何をさせる気だ」


「こういった古典があると聞いたことがあるのだが、通じなかったか。まぁいい、ようするに私を負かしたお前には私の面倒をみる義務がある」


 そう言ったアーミンはこれ以上ないドヤ顔をしていた。なんでそこでドヤ顔出来るんですかねぇ。


「いや、なんでそーなる」


「お前は私に死んでほしくないのだろう? 今の私はこれ以上ないほどに消耗している。このまま私を逃したままでは、いずれ他のエスパー狩りに見つかり呆気なく命を落とすだろう。それはお前の本意ではあるまい?」


 そう言ってニヤリとこちらに嫌らしい笑みを浮かべるアーミン。く、くそ確かにこいつの言うとおりだ、見逃して結局死なれるとか目覚めが悪い。

 何より、この世界の主人公と思しき存在だ。見捨てるのは二重の意味であり得ない。


「分かった分かった。回復するまで面倒見てやるよ。とは言ってもこっちもこの世界には明るくない。護衛は引き受けてやるから、まずはあんたのセーフハウスなりに案内してくれ」


「交渉成立だな」


「あぁ、じゃあ改めて自己紹介と行こうか。俺は真宮寺勇人、しがない傭兵……、と言うことにしておこう」


「なるほど、私が見たのはこの瞬間か……。私はアーミン・ブランケンハイム。最強のサイキッカーと呼ばれている流れのエスパーだ」


 そう言って互いに握手する俺たち。そして、後ろの方から青龍達の自己紹介が飛ぶ。まぁ、本当にただの自己紹介だけだが。


「しかし、お前達5人は不思議なメンツだな。若い男に女だらけの徒党かと思えば、よくわからない老人に、さっき消えたワイルドな青年もいる。一体どういう集まりなのだ」


「ただの傭兵団だ、傭兵団。そう言うことにしておけ。玄武は相談役とでも思え。それでいいだろ」


「ちょいちょい、ご主人。相談役のポジションは私っしょ。玄武はどっちかって言うと金庫番だよ」


「どっちでもいいだろ……」


 俺が適当にでっちあげた役割に否を投げかける白虎。でも、そう言われるとそんな気もしてきたが、どちらにせよ適当にでっちあげた嘘の役割である。誰がどれとかどうでもいいだろう。


「じゃ、どっちでもいいなら私が相談役ね。もちろんご主人が団長で、青龍が特攻隊長、玄武が金庫番で、桜ちゃんが一団員ってことで」


「あたしは下っ端なのね……。いや、あんたらの強さ考えると仕方ないけどさ」


 桜が後ろでいじけてるが、悪い俺もお前に適した役職思いつかんわ。


「とりあえず移動するぞ。このままここにいてもいいことなんてない」


「その通りだ。私のセーフハウスに案内しよう、付いて来てくれ」


 皆を促すと、アーミンが立ち上がりふらつきながらも先頭を歩き始める。さて、ここから挽回とか正直できるのかね。


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