14.決着の後始末……だが
「なぁ、教えてくれ。私のPKをことごとく防いだそれはなんだったんだ? もう決して抵抗しないと約束する。だからせめて最後に教えてくれ。私を破ったその剣は一体何なんだ?」
アーミンが項垂れている間、桜を治療し(ちゃんと生きてた)、近くのESPジャマーを片っ端から破壊してると自失状態から回復したのかアーミンが俺に縋りついて懇願してくる。そういえば、こいつ結局、指向性ESPジャマーは起動しなかったな。まぁ負ける予知を見てたから、やっても無駄と思ったのかもしれんが。
とりあえず、アーミンに対しては俺も気になることがあったので、逆に聞いてみる。
「それより、予知能力があるんだったら自分の敗北シーンぐらい見なかったのか? そこからいくらでも対策を立てられたろうに」
そういうと、アーミンはバツの悪そうな顔を浮かべて目を逸らす。
「予知といえども万能ではない。私が見たのは私が敗北宣言をするその一瞬とお前の名乗りのシーンだけだった。だからお前の名前と、お前に敗北すると言うことだけはわかった」
「どうでもいいけど、最初と口調が違うくないか?」
「いや、男勝りな口調りばかりしてるから男が寄り付かないと知り合いに言われたことがあって、普段はできるだけ女性的な言葉を心がけている。お前にはもうバレてるからいいかなって」
そういうアーミンはなんか背中が煤けてるように感じた。というか、男が寄り付かないのはその最強の称号のせいじゃ無かろうか。自分より強い女と付き合いたい男はそうはいないぞ。と思うが口には出さないでおく。
「じゃあ、最初の話に戻るが俺の剣についてだな。というか、説明するのめんどいから、接触テレパス? って言うのか? そいつを俺にやってくれよ。それで説明になるだろ」
「無茶を言うな、お前との戦いで私のESPパワーはすっからかんだ。もう小石一つ浮かせることすらできないほど消耗しているぞ。これ以上ESPを使えば昏倒してしまう」
ESPは使いすぎると昏倒するのか。そういや、魔力に関してはどうなんだ? これも尽きると昏倒するのか? 今度聞いてみるか。
「あー、まぁ、説明が難しいんだが。俺の陰陽剣はいわゆる、妖刀、魔剣の類でな。印を刻むことでその印に対応した能力を得るという魔剣なのさ」
「魔剣……。聞いたことがある。はるか遠くのライラック星系にデキントの魔剣と呼ばれる技法があると言うことを。お前はそんな遠くから?」
「いや、違うし。まだ説明途中だし。まぁ、続けるがその印に念を封じるって意味の印を刻んだんだ。つまるところ念動力を完全に封じる剣の出来上がりっわけだ」
そのデキントの魔剣とやらはちょっと気になるが、技法とか言ってる時点でおそらく形のある剣ではないのだろう。明らかに俺の持ってる陰陽剣とは別物だ。
「念動力を封じる……、それでは何やってもかなわないわけだ。お前から見たらさぞ滑稽に見えただろうな、効かない攻撃を繰り返す私を」
「あー……」
アーミンにそう言われると正直言葉に詰まってしまう。実際、戦いの最中に「無駄なのになぁ」と思ってしまったのは否定できない。
「だがまぁ、弱点がないわけじゃ無かったんだぞ。あの形態は維持するだけでお前たちの言うところのESPパワーをずっと消費し続ける。短期決戦でなく持久戦に持ち込まれていたら俺の負けだった。あと、PKじゃなくESPだと切ることができないので、普通に通ってたな。まぁ、攻撃的なESPってあんまないだろうからこっちは気休めにもならないだろうが──、」
「視線で発火させる発火能力があった……」
「あぁ、うん。まぁ、元気出せよ」
慰めをしたつもりが止めを刺してしまったようだ。それでやってれば、ってことか。確かに視線は物理的に切ることができないので、それでやられてたらだいぶ苦戦していたことは想像に難くない。
「勇人様、周囲のESPジャマー。全て沈黙させました」
青龍が作業を終えて俺に報告してくる。
「ご苦労さん。さて、そろそろあいつらも来たことだし俺らはお暇するかね」
すぐ近くから明けの明星の連中と思わしき鬨の声が聞こえてくる。と思えば、廊下の角を曲がってローゼンさんが姿を表す。
「お、あんたら無事だったのか。そこにいるのは、最強のサイキッカーか。よく勝てたな、正直肉壁にするつもりだったんだが、勝てるとはな……って一人増えてないか?」
しまった、玄武消すの忘れてた。まぁ、適当に誤魔化すか。
「俺が個人的に雇った助っ人だよ。今回非常に役に立ってくれた凄腕のエスパーだ」
俺がそう紹介すると、玄武はそれに合わせて軽くローゼンさんに会釈する。だが、ボロを出さないためか、玄武はそれ以上何もアクションすることはなかった。
「そうかい。ともかく今回は協力感謝する。あとは都督を追い詰めるだけだ。そいつはうちの仕事ってね。じゃ、また後でね」
そういうが早いが、ローゼンさんはテキパキと部隊を展開させると、都督の寝室へと入っていく。そんな中、テレポート封じとやらをやっているのか、部屋の外にも何名かエスパーらしき存在が残っている。
しばらく、中で戦闘音のようなものがすると、すぐに静かになった。テレポートできなければ光速の名も形なしってとこか。いや、部屋の中見てないからヨアヒムとやらが既にいるのかすら知らないのだが。
静かになってしばらくしてから、部屋の中からローゼンさんが出てくる。
「終わったよ。都督は無事捕獲できた。備えてはいたけど、光速のヨアヒムはいなかったね。こりゃすでに逃げられた後かも知れないね」
光速さんはどうやら一足先に逃亡していた模様。仕事をすっぽかしたとみるべきか、自分の危機には敏感とみるべきか。
「まぁ、いないならいないで仕事が楽になるだけだろう。じゃ、俺たちの助力はこれで終いってことでいいよな?」
「あぁ、構わないよ。ご苦労さん」
ローゼンさんはそういうと、懐からブラスターを取り出しアーミンに向け──、
「待て、何をする!」
思わずローゼンさんの腕を掴んでブラスターの軌道を逸らす。ブラスターは発射され天井にビームが天井に突き刺さる。
「何って、殺す絶好のチャンスだから殺そうとしただけだけど?」
その言葉は何の気負いもなく、非常にあっけらかんとしたものだった。まるで俺の方が間違っているかのような言い草で、である。
「こいつはもう降参したんだ。投降した捕虜を殺すのがあんたらのやり方か!?」
「あんた分かってないねぇ。最強のサイキッカーである、アーミン・ブランケンハイムを殺せる絶好のチャンスなんだよ。殺せば名声は鰻登り、うまく行けば懸賞金だって手に入るかも知れない。そんなチャンスを見逃すわけにはいかないねぇ」
「んな……」
ローゼンさんのあまりの言い草に二の句が告げなかった。なんだこのメンタルはこんな貧しい辺境惑星に住んでるとメンタルも相応になると言うことなのか。
「……ローゼンさんの目的はこの惑星を植民星から解放することだろう。こいつの抹殺は目的ではないはずだ」
ようやっと絞り出した言葉がそれだった。だが、同時にこの説得では止まらないだろうなと言う確信があった。
「大目的では確かにないけれども、ここに屯してるエスパー達の抹殺も小目的の一つだよ。すでにジャンマリアは処分した。次はそいつの番ってわけさ」
「……」
ジャンマリアは気絶させただけで放置していたが、こいつらに殺されたということか。自分が直接手を下したわけじゃないが、胸がムカムカしてきた。
「もういい」
「ん? もういいとは?」
「アーミンを殺すつもりだと言うなら、俺が相手だローゼン」
そう言って俺は陰剣を抜き放ち構える。