11.最強のサイキッカー
「ESPジャマーはあらかた壊されているようだな」
「のようですね、前の二人は上手くやっているようです」
建物内のあちこちに壊された部品が落ちていたり、壁の辺りが壊れていたりと、あちこちでESPジャマーを破壊したであろう痕跡が残っている。
たまに、これは違うんじゃないか? と思うようなものまで壊されているが、それが勢い余ってなのか、狙ってなのかは俺には判断がつかなかった。ひょっとしたら偽装タイプとかもあるかも知れないしな。
「寝室はこの先か──」
そう言って、角を曲がったとき、俺は信じられないものを見た。
「な──!」
「あ……が、ぐっ……ぎ」
俺の目に入ってきたのは白虎が中に浮き、苦しそうに喉を押さえている信じられない光景だった。さらに桜は剣を持ったまま、廊下に倒れ伏し全く身動きしていない、そんな状態だった。
「ご、ご主人……。に、逃げ……、こいつ……やばっ、がっ!」
俺に逃亡を促す白虎。嘘だろおい。青龍程じゃないが白虎も強いはずだ、それがこんな一方的に蹂躙されているだって!?
俺はそこで初めて俺たち以外にここに立っている存在を目視する。
「ふぅん、やっと来たのね。待ってたわ勇人クン。私を負かせてくれるひと。さて、お手並み拝見といきましょうか」
何故か俺の名前を呼ぶ、その少女には見覚えがあった。燃えるような赤い髪、高校生の女子程の身長に、パイロットスーツのようなぴっちりした服を纏った少女。エスパー情報の資料で見た、最強のサイキッカー、アーミン・ブランケンハイムだ。
「アーミン・ブランケインハイムっ……!」
「女の子をフルネーム呼びなんて礼儀がなってないんじゃない? ここは親しみを込めて、アーちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」
「誰が呼ぶか、アホ」
会話をしつつも俺は一切油断はしていなかった。常に相手の一挙手一投足を見逃さずいつでも攻撃に移れるようにしていた。そして、不意に相手が手を水平に上げると──、
「ぐっ!」
急に体全体に不可視の衝撃が加わったかのような感覚と共に、俺は大きく後方に飛ばされていた。
「がっ……、ぐぅっ!」
気づけば俺は廊下の壁に体全体をめり込まされていた。よく漫画で重力を操るやつとかがやるような、俺を中心にクレーターができている。そんな状況だ。
(く、くそっ、指一本動かねぇ)
なんとか拘束から脱しようともがくが、文字通り指一本動かない状況だ、この重圧だと骨の2、3本は折れてると思うようなレベルだ。息もするのも正直辛い。
(こ、これが最強のサイキッカーか!)
「勇人様!」
俺はアーミンの強力な能力に戦慄するが、まだ動ける駒が残っていた。そうだ、青龍! 青龍が残ってくれればいくらでも勝ちはある! 俺じゃなく青龍をまず狙うべきだったな。
青龍は俺の重力状態をすぐに解除する方法はないと判断し、槍を構えアーミンに肉薄する。よし、アーミンを倒せばこの状態も──、
「邪魔」
「がっ!」
たった一言、そのたった一言だけで、青龍が地面に縫い付けられた。俺と同じように青龍を中心に地面にクレーターが出来ており、超重力が発生しているのは明らかだ。というか、だ。
(PKの同時行使も出来るのか!)
青龍を縫い付けてる間、同時に俺も壁に縫い付けられているし、白虎もまだ浮いたまま苦しそうだ。桜は早めに戦線離脱したのが不幸中の幸いだろうか。
「これで、終わり? つまらないわね……」
(や、ヤバイ。本気で勝ち筋がない……)
青龍もアーミンの念動力に対抗しているのだが、立ち上がる度にそれより強い力で押さえつけられ、手も足も出ていない。
「ぐっ……ぐぅぅぅぅぅあああああああああ!」
青龍が血管がブチ切れそうな雄叫びを上げながら立ち上がろうとするが、あくびまじりのアーミンによってその抵抗は全て無駄にさせられていた。
「まだ、余力があるの、あなた? 随分とタフね。それにしてもおかしいわね。貴方たちは5人ではなかったの? どう見ても一人足りないんだけど?」
(5人? 何のことだ?)
俺たちのパーティーは俺、青龍、白虎、桜の4人だ。召喚してないやつを合わせても、トウコツ、玄武、マリン、クリムで計8名だ。どうやったって数が合わない。こいつは一体何を言って……、
「まぁ、いいわ。温存してるのか予知の間違いかは知らないけど、もう貴方たちに用はないわ、疾く死になさい」
その言葉と共に、自分に掛かっていた重力がより一層強くなる。
「ふぐっ……、ぐがっ!」
(や、ヤバイ、肺潰れたかも)
全身不可視の力で押さえつけられ、口からは吐血。これ以上やられたら確実に死ぬであろう。死因、圧死。笑えない死に方である。
(し、死んでたまるか! な、何か突破口を!)
考えろ! あいつは俺たちは5人PTと言った! おそらくはやつの予知によって対峙した俺たちPTは今いる4人以外の誰かがいたと言う事! そして、私を負かしてくれる人という言葉の意味。それはつまり俺たちが勝つという予知のはずだ。なら、俺の手札の中に解決方法がまだ残っていることに他ならない。
トウコツ? あいつは特殊能力も何もない力だけの脳筋だ。出しても青龍と同じ運命を辿るだけだ。マリン? ここで、あいつの背中によしんばいけたとして問題の先送りだ。クリム? あいつは俺の重力魔法に手も足も出なかった、勝てる要素はない。
そうすると、残りは一人しかいない。だが、俺はあいつの能力をまだ把握していない。呼び出したところで、青龍の二の舞ということも考えられる。だが、もうこうなってはあいつに頼るしかない。
「召……か……ん、玄……武!」
息も絶え絶えの状態で、召喚口上を述べられた自分を褒めてやりたいぐらいだ。俺が召喚口上を述べ終えると、コツンという音と共に急にふっと俺を覆っていた圧力が消え去る。
「かはっ!」
急に元に戻ったことで、肺に空気が行き渡る、と同時に前につんのめる。そして、それを抱える一つの腕。
「ようやっと呼んでくれましたな。では、反撃と参りましょうかご主君」
そこには玄武がにこやかな紳士スマイルで佇んでいた。