9.決行前
「決行日が決まった。明朝午前5時に決行する」
「朝駆けか」
俺の部屋でみんなで遊びながら暇を潰していると、ローゼンさんから呼び出され、決行日を告げられる。
急だな、とは思うが俺としては早く終わったほうが有難いので特に言うこともない。
「しかし、夜討ちじゃないんだな」
「相手は指向性ESPジャマーのおかげでESP使い放題だ。夜の視力が落ちるのはこちらだけ、向こうは第六感などのESPで持ってこちらを把握することができる。ならば払暁の頃合いを図った方がまだマシだ」
まだマシと言う言葉から、この作戦の成功率の低さを自覚しているようだ。しかし、それでもやるしかない、と言うことか。
まぁ、俺自身まだ本当のエスパーとやらを見てないので、確実に勝てるという自信があるわけではないが、指揮官がこれで周りは大丈夫なのかと心配になる。
「ま、中に詰めてるエスパーとESPジャマーの破壊は任せてくれよ。もらったエスパーの資料は目を通したけど、ヨアヒムを最優先目標として行動するつもりだが、異論はないか?」
「それに関しては異論はないね。ウチとしてもそいつは最優先撃破目標に指定している。都督にテレポートで逃げられたら全てご破産だ。ただ、都督が自分の護衛として外すことは考えにくいんだよね。まぁ、ESPジャマーさえ破壊してくれれば、こちらでテレポート阻害を行うつもりだから、あんたらはあんたらの仕事をしてくれればそれでいい」
テレポート阻害! そんなのがあるのか。ESPジャマー云々を言うところからして、それを行うのはエスパーなのだろう。エスパー同士ならテレポートを阻害したりできるのか。
ただ、そう言うのがあるなら早めに教えて欲しかったところだ。
「あ、ところで今更すぎる質問なんだが、ESPジャマーってどういう形状をしてるもんなんだ? 俺らが見たのは移動できるパラボラアンテナみたいな感じのやつだったんだが」
俺がそう質問すると、ローゼンさんは呆れたように口を半開きにする。
「ESPジャマーを見たことないって……。い、いやセレブだと見たことなくても普通なのか? いや、それにしたって……」
なにやら悩んでるようだが、しばらくすると紙に何かを描き始める。
「ほら、代表的なのだけど簡単に描いたよ。ただ、向こうのは高性能機だからね。同じとは限らないとは留意しといとくれ」
そう言って渡された紙を全員で覗き見る。そこに書かれていたのは、概ねパラボラアンテナのような形状ののものが多いが、銃のように放出口がついてるようなものもあった。だが、総じて言えることは『何か』に付いている図ばかりと言うことだ。台車やら壁やらに、だ。
この描き方から察するに携行型のESPジャマーは開発されていないか、あってもかなり特殊なものなのだろう。
「携行型とかはないと見ていいのか?」
推測だけで済ませるのは危険なので、こう言うのはちゃんと聞いておくに限る。
「別にないわけじゃないけどね。携行型で指向性となるとずっとそれを構えて対象に浴びせ続けなきゃいけない。そう考えるとそれだけで一人ESPジャマー要員を抱えなきゃいけない。そんなわけで効率の観点から使われることは滅多にないよ。だから、携行型だと投げて使う、使い捨ての無差別タイプぐらいしかないと思っていい」
「なるほど、了解した」
これでもう聞くことはないか? いや、あったか。
「で、突入はどこからだ。俺たちは陽動も兼ねた方がいいのか? それなら派手に暴れ回ってやるんだが」
総督府の見取り図を指しながら、そう尋ねる。まぁ、尋ねたはいいが十中八九そうしなければならないのは明らかだろう。ただ陽動が激しすぎれば、都督がテレポートでとっとと逃げてしまうので塩梅は大事だが。
「突入はそちらの突入しやすいところで構わないさ、あと陽動するのはいいが、あまり派手になりすぎないようにしとくれ。やりすぎると都督が危険を感じて逃げちまう。他のエスパーの相手は極論しなくても構わないが、ESPジャマーの破壊だけは絶対成し遂げてくれよ。それさえできればこちらでなんとかする」
「ふむ」
俺はそう頷くと、見取り図をじっと見やる。とりあえず明け方に行くと言うことなので、おそらく都督がいるのは寝室だろう。そこの周辺のESPジャマーを優先的に破壊、が俺たちの最重要任務となるはずだ。
となると、このルートで──、
「おし、こちらは問題ない。あとは夜明けを待つだけだ」
「そうかい、じゃあ今夜は早めに休んどくれ。明日は早いよ」
「分かった」
了解の返事をし、ローゼンさんの部屋を後にする俺たち。さてあとは寝るだけだが何かやることがあったかな?
「あ、ご主人。一応ご主人の今回のプラン聞いといていい?」
部屋に戻るなり(なぜか全員俺の部屋に着いてきて)白虎が尋ねてくる。
「プランって程のものじゃねーけどな。とりあえず時間的に考えて都督は寝室だろうから、寝室周辺のESPジャマーから潰していこうって考えてただけだけど」
「うーん、まぁ大まかにはそれでいいと思うけど、どう考えても妨害は来ると思うんだよね、他のエスパー達の。それ考えるとESPジャマーを潰す班とエスパーと戦う班とに別れた方がいいんじゃないかと思うんだよね」
「でも、そう都合よく対エスパー班がエスパーと出くわすとは限らないぞ。ジャマー班にエスパーが出たらどうするつもりだ?」
「だから、途中までは一緒に行動してさ、エスパーと出会ったらジャマー班だけ分かれて施設内のジャマーを壊しにかかるって方策でどうよ?」
白虎はいいこと思いついた、といった感じのドヤ顔で献策してくる。
「そんな上手くいくかねぇー。個人的には俺はSランクエスパーのアーミンって奴に出会って勝てるか不安でしかないんだが」
「でしたら、対エスパー班には私が立候補いたしましょう。自慢ですが、戦闘において私に勝てるものは世界に一人として存在しないと自負しております」
「自慢って言ったよこの人」
「事実ですから」
桜のツッコミにもニッコリと笑顔で答える青龍。
「じゃあ、対エスパー班は俺と青龍。ESPジャマー班は桜と白虎でいいか?」
「いいと思うよー」
「異存ありません」
「任しといて!」
そんな感じで俺たちの方策は定まった。あとは夜明けを待つだけだ。