7.白虎の怒り
無事、宇宙船の購入を終えたところで、俺たちは明けの明星のアジトへと帰還する。
相変わらず道は複雑で俺1人だと絶対覚えきれなかっただろうという自信がある。本当にこの二人がいてくれて助かった。
「ていうか、道覚えるコツとかあるのか?」
道すがら暇なので二人にふと聞いてみる。
「自分の頭の中で簡易の地図を作って覚えてるって感じかなー。立体把握とかの力とかもいるから、誰にでも出来るってわけじゃないけど」
「道の端々にある目印を目安に進んでるだけですよ。特別なことはしていません」
白虎、青龍がそれぞれ答える。いや、俺にはどの路地も全部同じに見えるんですが。
「桜、お前二人と同じことできるか?」
「んー、あたしの場合は白虎ちゃんのやり方に近いかなー。とはいえ、アジトまでの道はちょっと複雑すぎて覚えられないけど」
桜にも尋ねてみたが、やはりこの二人が特異なんだろう。
ちなみに俺は特に方向音痴というわけではないが、やはりこのやり方は真似できそうにない。
「さーて、付いた付いたー」
そんな会話をしていると、明けの明星のアジトに到着する。
「お、お帰り。案内なしじゃ、絶対に途中で道に迷うかと思ったのにあっさりここにたどり着くなんてね。こりゃ、評価を上方修正する必要があるかな?」
アジトに入るなり、ローゼンさんからそう出迎えられる。
「なるほど、案内役兼、監視役を付けてたってことか。抜け目のないことで」
ローゼンさんのその言葉に白虎が反応する。そして、ふっと自嘲気味に笑って続ける。
「ま、当然気づいてたけどね。害はなさそう、ていうか監視役って普通にわかるから無視してたけど」
白虎の台詞にヒューっと、口笛を吹くローゼンさん。ていうか、尾行がいたなら教えてくれても良いだろうに。いや、尾行の一人や二人でこいつらがどうにかなるとは思えないが、それでも知ってると知らないとでは違いがだな。
「本当、不思議な連中だね。というか、そっちのリーダーは尾行を今知ったって顔だよ。教えてあげても良いだろうに。それともそのリーダーはお飾りなのかな?」
お飾り、と言ったあたりで青龍の殺気が膨れ上がる。どうどう、落ち着け青龍、俺の力量が足りないのは事実だから。だが、その場で青龍よりも怒っている存在がいた。
「舐めるなよニンゲン」
白虎が、低く暗い声を絞り出す。こんな冷たい声色は俺も聞いたことがない。というか、白虎からは青龍のようなわかりやすい殺気は感じないのだが……。
「この私が──ただの凡俗に仕えているとでも思っているのか。少なくともお前のように他人の主人を馬鹿にするような愚劣な存在とは比べるもなく、良い主人だ。私をそんな低俗な人間の部下に貶めるな。──殺すぞ」
正直驚いた。白虎は俺を異世界転移するための道具としか思ってないと思っていた。だが、存外気に入られていた、と言うことなのか?
というか、俺としては青龍の忠誠心も謎なんだよな。そこまで忠誠を向けられることを過去の俺はしたと言うことなのだが、記憶がないと言うのがもどかしい。
「……悪かった、謝るよ。他人の主人をバカにするとか礼儀がなってなかったね。謝罪しよう」
青龍と白虎のダブル殺気に当てられたのか、顔を青くしながら謝るローゼンさん。
(ていうか、白虎ちゃんこんなに怒ったの初めて見たんだけど、あんたそこまで白虎ちゃんに気に入られるようなことやったの?)
(いや、俺も心当たりがイマイチない……)
小声で桜とそう話してると、白虎は先ほどの冷たい顔は何処へやら、ニコーと笑顔を浮かべてローゼンさんの方へ歩いていく。
「分かれば良いんだよ。さて、こっちの宇宙船購入の要件は済んだ。次はそっちの要件を満たす番だね。総督府への襲撃、だっけ? プランとかはあるの?」
「あ、あぁ。簡単な見取り図や都督のスケジュールなどはすでに入手している。あと決めるのはいつ決行するかくらいだ」
いきなり笑顔に変わった白虎に恐れ慄きながらも、ローゼンさんは言葉を絞り出す。
「勝算は?」
「正直薄い。それには問題があってな」
「ESPジャマーの設置箇所が分からない、エスパーの配置場所がわからない、当たりかな?」
「……その通りだ」
なんか、ローゼンさんと白虎で勝手に話を進めてるが、俺も発言したほうがいいのだろうか?
ここで、発言しないとまたお飾りのリーダーとか言われそうな気がするが。それとも、ここはリーダーらしくどっしり構えていたほうがいいのだろうか。
「なら方策としては、我々が先行して梅雨払いをし、ESPジャマーを潰していき、貴方達が後方から後詰めとして侵入して、都督を討ち取るという方針でいいのではないかと」
続いて青龍も作戦立案の話に参加する。おい、やめろ。俺が発言しないとまた舐められるだろうが。しかし、俺自身ちゃんとした作戦立案が出来るかというと否な訳で。
(適材適所、ってことなんかねぇー)
リーダーに必要なのは、リーダーシップであって実力ではないと言うことか。
「そりゃ、こっちとしては願ってもないことだが。一番危険な任務だよ、それは」
「承知の上ですよ。そもそも我らにESPジャマーは効きません。ならば、ESPジャマーを潰す役割は我々が担うべき、適材適所、そうではありませんか?」
そう言って青龍がチラリと俺の方を見る。
(こりゃ、俺の考えてたことバレてるな。読心術でも使えるんじゃないか、こいつ)
「……ま、そっちから名乗り出てくれるならこちらとしてはありがたい。だが、勢い余って都督まで殺さないでくれよ。そっちはこちらで引き受けないと流石にメンツが立たない」
「大丈夫大丈夫。わかってるって。あ、勢い余って総督府にいる強いエスパーぐらいは倒しちゃうと思うけど、いいよね?」
「あぁ、それについては情報共有が必要だな。こちらで把握してる総督府が雇っているエスパーの情報だ。作戦開始までに目を通しておいてくれ」
白虎が、どっかの死亡フラグみたいなことを言い出すと、ローゼンが紙の束をこちらに渡す。
ていうか、これも紙なのかよ。SF要素どこいった。
「ありー。じゃ、あとは決行日だけだね。それが決まったら知らせてよ」
「あぁ、その時はよろしく頼むよ。あんたらの部屋はすでに用意してある、あとで案内させるからゆっくり寛いでくれ」
それで話は終わり、俺たちは部屋へと案内される。俺が案内されたのは、当然ながら一人部屋なのだが、青龍が押しかけてきて、案内人と一悶着あった。
青龍は「護衛のためです」と言い張るが、案内人は「俺たちが信用できないのか!」といい、一触即発になったが、騒ぎを聞きつけたローゼンの「好きにさせてやりな」の一言で緊張状態はとりあえず解除された。
その結果、俺の部屋には青龍が詰めることになってしまったので、桜が一通り騒ぎ出したことをつけ加えておこう。
白虎? あいつは与えられた部屋で寛いでたよ。




