2.明けの明星
すさまじく致命的な誤字があったので修正しました。(4/26 19:11)
これで誘き寄せられる、という確信があったわけではないが、あっさりと向こうから出てきてくれたようだ。そして、青龍を見ると特に警戒した風もなく佇んでいた。青龍が警戒しないと言うことは、敵意がないかあっても脅威になる存在ではないということなのだろう。
「さっきの戦いは見させてもらったよ。こいつらの襲撃は警戒はしていたが、まさかこんなところで襲われるとは思ってなかったんでね。あんたらに感謝、したほうがいいのかな?」
さっきの戦いを見た? 青龍がこいつらを感知したのは尋問中の話だ。それ以前から見てたと言うことは、青龍の感知外から望遠鏡か何かで見てたってことか? それとも、遠視の超能力でも使ったのだろうか。魔法を使われたらわかるだろうが、流石の青龍でも超能力を感知することはできない。
「あんたは……?」
「どうも、宇宙連邦に歯向かうレジスタンスの明けの明星ってケチな集団さ。あたいはローゼン。そのケチな集団の頭やらせてもらってるよ」
「そうかい。それにしては一人のようだが?」
てっきり偵察に出てる下っ端かと思ったら、頭かよ。頭が偵察とか人材不足なのか?
「他の奴らは後詰だよ、取り敢えずあたいが様子を見にきただけさ」
「トップが様子を見にねぇ、どうも人材不足なレジスタンスさんのようで」
「それ言われると返す言葉もないねぇ……。あたいだって後ろでどっかりと構えていたいが、人手不足はどうにもならんよ」
「そりゃ残念なことで。じゃ、こいつらはあんたらに引き渡していいのか? 俺たちとしてはこれ以上情報取れそうな感じないから、もういらないんだが」
と言うよりも、質問を出来るだけの情報を持ってないせいで、的確な質問ができないと言うのが実情だが。
「おや、こちらとしてはありがたいが、いいのかい?」
「接触テレパス? だったか、そいつを使えば情報を抜き取れるんだろ? 存分に使うといい」
「妙な言い方をするね。そっちだってエスパーがいるじゃないか。そっちの長身の女に接触テレパスを使わせたりしないのかい。ESPジャマーを使われてなお、超能力を使えるんだから、よほど強力なエスパーなんだろ?」
いや、青龍は超能力者じゃないんだが。瞬間移動っぽいだけで、あれは身体能力の極みによる擬似瞬間移動だからな。
あと接触テレパスって話を聞く分には、相手の記憶を読み取る系の超能力なんだろう。メモリーリードで代用できなくもないが、相手の同意がないと相手の抵抗力を上回る必要があるからそんなに万能じゃないんだよな。それに、さっきと同じように、質問をするのに必要な基礎情報を持ってない今の俺たちだと、何が有効な情報か検索できないと言うのがある。
できれば、こっちの明けの明星さんからの情報が欲しいところなのだが。
「俺たちはエスパーじゃないぞ。ただの流れ者だ。だからここがどこなのかも知らない。ここはなんと言う惑星のどこなんだ?」
宇宙時代ってことは、住所も惑星単位だろうとあたりをつけてそう質問してみる。
「さっきといい、妙な質問をする奴らだね。ここは惑星ズールのノルデン荒野だよ。自分のいる場所すら知らないとかあんたら一体何者なんだい?」
ローゼンがじーっとこちらを怪しそうに見つめてくるが、フッと視線を逸らすと言葉を続ける。
「まぁいいや、余計な詮索はなしだ。それより、よければうちのアジトに来ないかい? こいつらを捕らえてくれた礼もしたいしね」
「正気か? 俺らみたいな流れ者をいきなりアジトに招待するとか。スパイだったらどうするつもりだ?」
いきなり、こいつは何を言い出すのだろうか。いや、俺としては渡りに船の提案だが、逆に都合が良すぎて疑ってしまう。
「スパイするつもりなら、そんなこと言わないだろう? それにあんたらは大丈夫だって、あたいの勘がそう告げてるのさ。しかも、こいつらをあっという間に鎮圧したその手際。ウチに抱えておくに足る戦力だ。流れ者ってことは衣食住も足りてない状態だろう? それをこちらが提供するから戦力として役立ってほしい、ってそういう提案だ」
「なるほどね。そういう下心がありってことか」
そう言うことならよく分かる。向こうからすれば青龍はESPジャマーがあっても行動できる強者だ。まぁ、青龍だけじゃなく全員ESPジャマーなんてものともしない奴らばっかりだが。
「いいね、そう言う下心があるって直接告げくる奴は。嫌いじゃないぜ」
「それは了承って返事と受け取っても?」
「あぁ。よろしく頼むぜ、ローゼンさん」
俺はそう返事すると、ローゼンに近づいて握手をする。これで、宇宙連邦との敵対が確定したが、元より転移してきてからこちらの事情も聞かずいきなり襲いかかってきた宇宙連邦に与するのは心情的にもあり得ない。
宇宙連邦を潰すと言うのはできないだろうか、この星から追い出すぐらいの活躍はしておいたほうがいいのだろうか。そこらへんの匙加減は今後次第ってことか。
「じゃ、アジトまで案内するよ。ついてきとくれ」
「あぁ、道すがら宇宙連邦に対してなんでレジスタンス活動してるのかとか、色々教えてもらえるか?」
宇宙連邦の職員はテロリストと言っていたが、ローゼンさん達はレジスタンスと表現してるのでそちらの表現の方を使うとする。
「なんだい、それすら聞かずに仲間になるつもりだったのかい?」
「それはお互い様だろ? ローゼンさんもこっちの事情を聞かずに仲間にしたじゃないか」
「それは確かに」
ローゼンさんはククッと忍び笑いを漏らすと、宇宙連邦の所業、なぜ反抗したのかなどと話し始めた。
それに関してはまぁ、ありふれた内容というかよくある内容だったが。簡潔に言えば、この惑星ズールは宇宙連邦の植民星なのだが、どうも宇宙連邦が植民星とする前から原住民、つまるところローゼンさんたち、が生息していた惑星だった。そこを宇宙連邦は強引に接収、植民地化した。その植民地化に抵抗するべく、多くのレジスタンスが発生した、とまあ非常に面白くも捻りもない展開のようだ。
とはいえ、捻りもない展開とか言えるのは俺だけであって、実際に植民星にされている住民にとっては面白くない話だろう。
宇宙連邦にもついて色々聞いたが、どうも地球に本部がある宇宙全体を支配している組織らしい。いや、宇宙全体は言い過ぎか。確認されている宇宙領域を支配している組織と言い変えるべきか。まぁ、なんにせよ巨大組織であるのは疑いようもない。宇宙連邦を潰すなんて夢のまた夢で、やはりこの星から手を引かせるというあたりが落とし所だろう。
「なるほど、大体事情はわかった。時に自由を勝ち取るための方策に関しては何か展望があるのか」
「あたいらが画策してるのは、この惑星に派遣された都督の捕縛・並びに暗殺だね。ここの都督は基本的にエスパーの存在を認めてない。それゆえ、ESPジャマーで周りを固めてるせいで、迂闊に手出しが出来ないんだよね。でも、ESPジャマーをものともしないあんたらが来てくれるならそれも解決できる」
「基本的に、ね。とすると裏ではエスパーを雇ったりして防衛に使ってそうだな」
俺がそう言うと、ローゼンはひゅうと口笛を吹いた。
「今の話でそこまで分かる、か。御察しの通り総督府にはあたいら対策のために高レベルのエスパーたちが詰めている。指向性の、性能の高いESPジャマーを配置してるから、向こうは使い放題、こっちは使えないと圧倒的に不利な状況だ」
「しかし、ESPジャマーねぇ。それって、ESPを阻害するだけなのか? だったらいくらでもやりようはあると思うんだが」
「とんでもない、それだけならどんなによかったか。ESPジャマーを使われるとエスパーはESPが使えないだけじゃなくて、こぞって不調になる。頭の中に心棒を突っ込まれたかのようなガンガンする頭痛が続くし、ロクに集中できなくなる。常識だろ?」
「あ、あぁ。そうだな」
マジか、エスパーが使えなくなるだけじゃなくてそんな副作用もあるのか。適当に頷いておいたが、だとするとせっかくスキル鑑定を貰ったが、この世界で超能力をラーニングするのはやめておいたほうが良さそうだな。
ESPジャマー一つで不調に陥るとか、便利そうなようで不便だな超能力。まぁ、大体の超能力と言われてるような能力は古代魔法で代用が効くから不要っちゃあ不要なのだが。そう考えると古代魔法の万能性が際立つな。
「さぁ、取り敢えずはうちの連中にあんたらを紹介するところだ。おっと、そういえば名前をまだ聞いてなかったね。 なんて名前なんだい?」
「勇人。真宮寺勇人だ」




