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7.幼馴染 VS 勇者

 桜の方も始業式で学校がすぐに終わった状態なので、連絡をするとすぐに返事が返ってきて、こっちも会いたいとのことだった。

 集合場所を決めて、冬美の奴を連れ立って、ポータルで移動する。ポータルを見せたときの冬美の驚いた表情はちょっと見ものであった。


 集合場所に行くと桜はすでに待っており、こちらを見ると駆けてくるが、その途中で顔が曇り始める。


「勇人、誰その女?」


 開口一番、冬美を睨みつける桜。あれ、このセリフって修羅場が始まる第一のセリフじゃね? そう思ったが時すでに遅し、冬美が一歩前に出ると、桜に話しかける。


「どうも初めまして、前島桜さん。勇人の幼馴染やってる塔馬冬美よ。よろしくね桜ちゃん」


 見た目は落ち着いた感じで話す冬美だったが、言葉の端々に載せている重さは隠せない。重力魔法などかけていないのに、あたり一面が重くなる。


「桜って呼ぶな。呼んでいいのは家族だけよ」


 桜の方は、怒りの表情をしながら、千春に言ったようなことを冬美にも言う。


「へぇ~。勇人には桜って呼ばせてるのに? そんな信念なのに名前呼びさせちゃったら、勘違いの元よ。今からでも、真宮寺さんって呼び名に変えたら?」


 なぜだろうか、冬美の後ろに虎の姿を幻視した。対して、桜の方には龍が見える。龍虎相討ってか? やかましいわ。


「勇人はいいのよ。将来家族になる予定なんだから」


 桜の言葉に、冬美から感じられる圧が増す。おい、お前一般人じゃなかったのか。どう見ても歴戦の戦士が放つ圧力なんだが。


「へぇ~そうなんだぁ~。でも、勇人からはまだ付き合ってもないって聞いてるけど? ちょっと気が早すぎじゃないかしら? それにそんな重い女の子は勇人は苦手なのよ。知らなかったの? ま、私は勇人の幼馴染ですから! 勇人の事は小さい頃から知ってるのよ」


「うっ……。で、でもあたしは勇人から指輪だって貰ってるのよ! これはもう婚約したと言っても過言ではないわ!」


 桜のその言葉に冬美はピクッ反応し、桜の左手の指輪を凝視する。それを見ると、額に青筋を立てながら、桜に言い返す。


「私なんて、子供のころにすでに「将来、冬美ちゃんと結婚するんだ」って言って貰ってるのよ。なんせ、幼馴染ですから!」


 待って、その情報俺知らない。というか、俺がその期間の間記憶喪失だったからってデタラメ言ってるんじゃなかろうな? 俺、記憶ないからその真贋を判断できんのだが。センスライでもかけておくべきだったか?

 というか、だ。そもそも、なんでこんな言い合いが発生してるんだろうか。桜のやつ、ハーレムは許容するとか言ってなかったか? 冬美が怒るのはまぁ、まだ納得が行くのだが、桜はそこ許容できないのか? 出会い頭に挑発されたから言い返したのだろうか。


「そ、そんな子供の頃の約束なんて無効よ! あたしは今の勇人から指輪を貰ったんだから」


「まぁ、勇人から指輪を貰ったのはいいけれど、それを左手の薬指につけたのは貴女でしょ? 勇人は自分の気持ちが中途半端なまま、そんな真似をするような人じゃないもの。貴女が勇人を縛ってるだけじゃないの?」


「うっ……」


 冬美の言によってタジタジになる桜。そろそろ、俺が出てきたほうがいいかな?


「あー、なんだ冬美。そこらへんでな。さっき異世界の話したときは話さなかったが、勇者召喚の世界であった桜からは、既に告白されててな。とは言っても、俺が桜のことをまだ恋愛的な意味で好きになれていないから、返事は保留にしてもらってるんだ」


 俺が二人の間に入ってそう言うと、桜はビクッとなり、冬美は大きくため息をついた。


「まーったく、あんたらしいわねそういうところ。そんな中途半端なところで放り出すなんて女の子の一世一代の決意をなんだと思ってるのかしら?」


「お前どっちの味方なんだよ」


 桜と喧嘩した口で、擁護の言葉も出るとかダブスタにも程があるだろうに。


「私は私の味方よ。私が可哀想だと思ったから、桜ちゃんの擁護もしてあげたのよ」


「というか、勇人! 女の幼馴染がいるなんて聞いてないんだけど!」


「いや、別にこいつとはただの幼馴染だし。付き合ってる訳じゃないから言う必要はないだろ」


「い、いや。どう考えてもただの幼馴染って感じじゃないじゃない! どう考えても、こいつ勇人のこと男として好きでしょ! そうじゃなきゃあんな言葉とか出てこないし!」


 うーん、それ言っちゃうかぁ。できれば気づかないようにしてたんだけど、今回のこの言い合いはそう言うことだよな。


「いや、まぁ」


 桜に対して適当に返答すると、冬美の方に視線をやる。

 うん、見た目よし、性格……まぁよし、付き合いも長いし彼女になるならいい感じかな。桜には悪いが、あえて比較するとしたら断然付き合いの長い冬美に軍配が上がる。


「そうね。こう言われたあとじゃ格好悪いけど、ここは一つ決心しますか」


 冬美はそうあっけらかんと言うと、くるりと俺の方に向き直ると、真剣な表情で告白してくる。


「ずっと貴方のことが好きでした。私と恋人になってください」


「うっ……」


 そう告白され、言葉に詰まる。いや、オーケーしたいのは山々なのだが、横合いからの桜の視線が強烈につき刺さっている状況で気軽にオーケーなどできない。


「ぐぎぎぎぎ」


 横合いからの、桜の視線と歯軋りが気になりすぎる。


「そ、そのだな。ちょっと保留ということで──」


「そ、そうよ。そもそもからしてどっちか選ぶ必要なんてないのよ! 勇人はハーレム作る気なんだから、順番はあってもどっちか一つなんてことはないわ!」


「おい、待てそれは──」


 俺はハーレム作りたいなんて言ったことは一度もないんだが? お前がハーレム許容するって言い出しただけで、俺としては純愛でも一向に構わないんだが。


「あら、そうなの? じゃあ、私は最悪二番だったら別に構わないわ。まぁ、私もウェディングドレスは着たいし、式も挙げたいから地球でハーレムは難しいけど、異世界で式をあげるなら問題ないわよね? 異世界、行けるんでしょ?」


「い、いや、お前。そんな簡単にハーレム許容していいのか? しかも二番って」


 いきなりハーレムを許容しだした冬美に動揺するが、冬美はあっけらかんと言葉を続ける。


「私としてはむしろ願ったり叶ったりよ。どう考えても青龍さんに勝てる気はしなかったし、勇人が私も一緒に面倒みてくれる甲斐性さえ見せてくれるならハーレム大歓迎よ」


 そう言われて俺は数瞬固まってしまう。桜と言い、冬美と言い、どうも俺にとって都合良すぎる女じゃないか? なんかさっきまでの言い合いが嘘のように平和な解決方法が提示されて俺の方が困惑するんだが。


「じゃ、それを踏まえて。私のさっきの告白の答えは?」


「えっと……、不束者ですがよろしくお願いします」


「はい、お願いされました」


 そう言って、嬉しそうに。本当に嬉しそうににっこりと微笑む冬美。その笑顔には裏もなさそうな純粋な微笑みのように見える。


「ず、ずるい……。あたしはまだ返事もらってないのに。これが幼馴染の力……!」


 横でなんか桜のやつが戦慄してるが、あえて無視する。でも、冬美のやつに返事してしまった以上、桜に対してもなんか返事をしてやるのが男としての甲斐性ってやつだろうな。


「じゃ、桜ちゃん。旦那のことお願いね。一緒のハーレムってことは私たちもう家族よね? 私は戦える力がないから、勇人の冒険についていけないけど、桜ちゃんは付いていけるものね。ちゃんと勇人を守ってね」


「くっ、この余裕っぷりがムカつく。ムカつくけどあたし自身許容した手前文句も言えない。まぁ、勇人の方が段違いに強いから私が守るなんてこと出来ないだろうけど、任されたわ」


 そう言って、固く握手する二人。互いに思いっきり手を握り合っているが、そういう女の戦いは別口でやって欲しいのだが。


「じゃ、連絡先交換しましょ。いやー、気分いいわー。長年の思いが実った瞬間ってのは、気分いいわー。今日はよく寝られそう」


 明らかに挑発し出す冬美。おい、そこはちょっと仲良くして欲しいのだが。


「ちょ、調子に乗ってんのも今のうちよ。こっちの方がこれから一緒にいる時間長いんだからね!」


「喧嘩すんなよお前ら」


 俺がどの口で言うんだって感じだが、やっぱり知り合い同士は仲良くしてもらいたいところだ。


「わかったわ、意趣返しはこれぐらいにしておくわ。これからよろしくね桜ちゃん」


「まぁ、そう言うなら仲良くはするわよ。勇人の話で色々盛り上がれそうだし」


「あ、聞いちゃう? 聞いちゃう? 色々話題は尽きないわよー。勇人の話題で一緒に盛り上がりましょうよ」


「う、うん。とりあえずよろしく冬美」


 うんまぁ、一応は仲良くする気はあるようで何より。それより俺の話題で盛り上がるってそれで盛り上がれるのか? まぁ、二人の共通の話題がそれだから仕方ないのかも知れんが。


 とりあえず、二人の面通しは平和裡に終わって何よりだ。


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