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6.幼馴染

「冬美ー、いるかー」


 家にカバンを置いてその足でそのまま冬美の家へと来た俺。しかし、返事がない。今日は部活動はないし、俺より早く帰ったので家にはいるはずなのだが。とりあえず、勝手知ったるなんとやら、挨拶は一応したので、そのまま家の中に入ることにする。


「冬美ー。どこだー」


 冬美の家の中はよく知っているので、その足で冬美の部屋の前に立つ。一応ノックを数回。


「入るぞー」


 声をかけて、しばらく待ったあと扉を開ける。

 部屋の中に入ると、ベッドの上で枕に顔を埋めてうつ伏せに寝ている冬美がいた。どうも着替えずそのままベッドに入ったらしく、制服がシワになっている。


「おいおい、はしたないぞ。寝るならちゃんと着替えないと、制服がシワになってるぞ」


「…………。別にいいでしょ、あんたは私のオカンか」


 声をかけてもしばらく黙っていたが、俺も沈黙を返すと、ポツポツと返事をする冬美。


「ともかく、聞け。お前絶対何か勘違いしてるだろうからな」


「…………。勘違いって何よ」


 反応がワンテンポ遅れているが、一応反応はしてくれてるので、俺は言葉を続ける。


「大人の階段登ったってことだが、別に童貞を失ったわけじゃないぞ。俺は今もまだ童貞だ」


 正直、女の子にこういうことを言うのは恥ずかしいことこの上ないのだが、こう言うのははっきり言ってやらないとこじれる原因になるので、恥を忍んではっきりと言うことにする。


「…………。てっきり青龍さんとヤッたのかと思ってた」


「そこ、女の子がヤッたとか言わない」


 俺がそう言うと、枕に埋めていた顔をあげ、初めてこちらを見る冬美。

 ていうか、やっぱ冬美の印象でも俺がヤるとしたら相手は青龍なのか。まぁ、桜のことは冬美のやつは知らないからそれも当然だが。


「でも、やっぱ変わったよ勇人。夏休み前と全然違う。昔から勇人見てる私なら分かるもん。何か、あったんでしょ?」


 勇者召喚の世界に行ったのは、正確には夏休みが始まる2日前だから、そこで見てたらすでに変わった俺がいたはずなので、夏休み前というのは正確ではないのだが──、あれ? よく考えたら夏休み直前に冬美に会ってた記憶がないな。まぁ、毎日話してる訳でもないから、たまたまその時は会ってなかっただけだろう。

 しかし、どこまで話していいのかは悩みどころである。殺人経験を話すのは論外だが、異世界転移したということは言ってもいいような気はする。

 というか、それを話さないと夏休みという短期間で変わったという証明ができない。問題は信じてくれるかどうか、だが。


「今から話すことはかなり荒唐無稽なことだが、全部本当のことだ。俺はその経験があるから、冬美には一皮剥けたかのように見えたんだと思う」


「荒唐無稽って……、魔法も存在する世界でそれ以上に荒唐無稽なことあるの?」


「あるんだよ、それが。じゃあ、話すぞ」


 そう言って、俺は夏休みの間に経験した異世界冒険を話し出す。勇者召喚の世界に降り立ったこと、現地で転移者である桜と出会ったこと。桜のことを話すと、一瞬冬美がピクッと反応したが、話の腰を折る気は無いのか、黙ったまま聞いていた。

 そして、任務失敗からの次の世界の話。俺が人を殺したことと、桜に告白されたこと以外はそっくりそのまま冒険譚を話した俺。桜のことに関してはなんというか、そのまま言うと妙なことになる予感があったので、黙っておくことにした。そして、その全部を話し終えると、大きく息をついた。


「以上だ。こんな感じで夏休み中に濃すぎる体験をしたんでな。その経験が会って一皮剥けたように感じたんだろう」


「ふーーーーーん」


 俺がそういうと冬美はジト目でじーっとこちらを見つめる。なんだ? なんか変なこと言ったか俺?


「話の途中だから黙ってたけど“桜”、ねぇ? ひとみちゃんのことは白石って呼んでるのに、私以外の女の子を名前呼びねぇ? 一緒に異世界に連れて行ったり、随分と仲がよろしいことで」


「うっ、いやそれは……」


 うんまぁ、ツッコまれるだろうとは思っていた。やっぱり、桜じゃなくて前島さんって呼んだ方が良かったか。とはいえ、それを今更後悔しても遅いわけで。


「……付き合ってるの?」


「いや、まだ付き合っていない」


「まだ、なんだ」


「うっ……」


 冬美に質問されたから、答えたらまたそこでもツッコまれた。いかん、なんか俺色々とツメが甘すぎるぞ。でも、こいつに嘘つくこともしたく無いしな。


「はぁーーーーーーーー」


 俺が返答にしどろもどろしてると、大きくため息をつく冬美。それには呆れの感情がありありと見てとれた。


「全く羨ましいわ、その桜ちゃんとやらが。一緒に異世界探訪ができる強さを持ってるんだから」


「ていうか、今更な疑問だが、俺の言ってること信じるのか?」


「嘘ついてるの?」


「いや、嘘じゃないが……」


「じゃあ、別にいいでしょ」


 そうあっけらかんと返す冬美。疑われるのも困るのだが、こうも真っ直ぐに信頼されてるのもなんというかくすぐったい。


「ま、これで勇人の雰囲気が変わった謎は解けたわ。そこで一つ提案なんだけど」


「な、なんだ?」


「その桜ちゃんにちょっと会わせてくれない? あ、あと白虎さんにも会いたいかな。そっちは後でいいから、まずは桜ちゃんね」


「桜にか? それだったら可能だと思うが」


 それでいいなら、と思い俺は桜に会いたい旨をメッセージアプリで送信する。

 しかし、この時の俺は気づいていなかった。冬美のやつが何かの決意を秘めた目をしていたことを。


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