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5.始業式

 9月1日。学校が始まる始業式の日だ。

 昨日は、玄武と契約した後普通に晩飯を食って寝たのだが、玄武は飯を食うと、その足でホテルへと向かった。

 曰く、


「ご主君の家計にダメージを与えるわけには参りませぬからな。適当に物件を買ってそこで生活することにいたしますよ。必要な時は是非呼んでくだされ」


 とのことで、今日は物件探しに当てるらしい。

 この気遣いの仕方、うちの居候二人に見習わせたいところだ。一応、青龍の方は俺の剣術指南役として働いているとは言えるが、白虎は完全にプー太郎だ。アニメ見て、漫画読んで、同人誌描いてをやってるだけのニートだ。

 こいつらうちの家計に金入れてるんだろうか? 気になったが、聞いてギクシャクしたりしたら嫌なので、聞かないことにする。まぁ、金が足りなくなったら姉ちゃんの方から何か言うだろう。俺が気にすることではないのかもしれない。


 ──閑話休題

 夏休みが終わって始業式の日だ。やることといったら退屈な始業式と夏休みの宿題の提出ぐらいしかない日だが、久しぶりにクラスメイトたちに会える日でもある。


「おっはよー、勇人。夏休みは楽しんだ?」


 教室では冬美の奴が話しかけてくる。


「おう、なんかすごい久しぶりな気がするな」


「まぁ、久しぶりっちゃあ、久しぶりだけど、そこまででしょ。ていうか、なんかあんた変わった?」


「変わったって何が?」


「なんていうか、大人になったっていうか、一皮向けたっていうか……。ごめん、ちょっとうまく説明できない。でも、雰囲気変わったよ勇人」


「うん? そうなのか?」


 そう言われても自分では変化は分からないのだが、雰囲気が変わったって随分とふんわりした表現だな。変わったことといえば、アドミンからギフトをいっぱいもらったことだが、そんなのが外見に現れるはずもないし。


「あー、ひょっとして一足先に大人の階段登っちゃったとか?」


 その冬美の茶化しに俺はドキッとなってしまった。大人の階段、と言っていいのかどうか分からないが、そう言われると心当たりはあるからだ。勇者召喚の世界でした初めての殺人。ある意味大人の階段を登ったと言えるかもしれない。少なくとも、現代地球でいては絶対経験できない鮮烈な体験だ。俺が言葉に詰まったのを、肯定と解釈したのか、冬美が目に見えて動揺する。


「え、マジで? マジで大人の階段登っちゃったの?」


「い、いや、そう言うわけでは……」


 冬美が言う大人の階段は別の意味であることはわかっているが、それでも完全に否定しきれない俺がいる。


「ふーん……」


 冬美は、冷たい目線でそれだけを言うと、手をひらひらと振って自分の席へと戻っていった。


「誤解……なんだがなぁ」


 俺の独り言はそのまま空に溶けていった。



   ※ ※ ※ ※ ※


 始業式が終わり、宿題も提出し、あとは帰るだけの時間になった。あれから、冬美とは一言も言葉を交わすこともなく、下校になってしまった。誤解は是非解いておきたいのだが、明らかに避けられているようで、こちらが寄っても逃げ出すのだ。ついさっきも、全力で逃げられたところだ。

 意気消沈しながら、下校し校門をくぐろうとすると、いつもの横合いからの声が響き渡る。


「チェストーー!!」


 横合いからの、青葉の突き。これも久しぶりだなと頭の中の冷静な部分が告げる。しかし、どうも青葉の突きの勢いが遅い。手加減されてるのか? そう思う遅さだった。一歩だけ引いて、紙一重のタイミングで青葉の突きをかわす。かわすと同時に、素手で青葉の模造レイピアを掴む。


「んなぁっ!?」


 青葉の驚愕の声が響き渡る。


「よぉ、青葉久しぶり。腕衰えたか?」


 掴んでいた手を離してやると、青葉はレイピアを納刀するとニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。


「いつもと同じ調子でやったら、こうなっただけだ。俺が衰えたんじゃなくてお前が強くなったんだよ。こりゃもうちょっと本気出しても良さそうだな」


 なんと、こいつの攻撃は今まで本気じゃなかったってことか。まぁ、こいつ協会の魔剣士らしいし、冷静に考えると鍛えてなかった当時の俺がこいつの攻撃を避けれたことが不思議と言ってもいいだろう。


「本気出すのは構わんが、今日はやめにしてくれないか。ちょっと冬美の奴を追いかけないといけないんでな」


「そうか? 俺としては夏休み中に強くなったお前の秘密も知りたいところだが……」


「また今度な、また今度。今は冬美の方を優先させてくれ」


「分かったよ。喧嘩したのか知らんが、仲良くだぞ。人間仲良いのが一番だ」


 青葉はそれだけ言うと、校門の側に置いていたカバンを引っ掴むとそのまま下校する。


「さて、俺は冬美の家に行くとするか」


 しかし、冬美の家に行ったところでどうすればいいのだろうか? 誤解は解いておきたいが、誤解を解いて俺はどうしたいのだろうか。

 そこら辺をちゃんと考えておかないとこじれる予感しかしない。


「あいつの感じてる誤解って多分、童貞失ったとでも思ってるんだろうなぁ……。まぁ、ある意味童貞を失ったっていっても間違いじゃないが」


 童貞は童貞でも殺人童貞だしな。しかし、これに関しては絶対に言うわけにはいかない。現代地球の価値観で生きる冬美にそんなことを言ったら確実に引かれること間違いなしだ。

 色々、誤解を解くパターンを考えるが、どうにもうまくいきそうな感じがしなかった。


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