1.鑑定能力
千春の要望で一通りのものをネットショッピングで購入してやり、ソルテアボルトの主だった人たちに別れを告げて寝入ると、そこはいつもの白い空間だった。
いつものように、机があり椅子があり、カップを持って優雅に座るアドミンがいた。
「やぁ、お勤めご苦労様、真宮寺勇人君」
「なんかそういう言い方されると、ムショから出てきたかのように思えるな」
そう言いながら、アドミンと向かい合って椅子に座る。
「ムショみたいなもんだろ? 今回の異世界は。さて今回は事前通告なしでの転移だったわけだがどうだったかな?」
「いや、どうと言うことはなかったな。まぁ、ネットショッピングのおかげだけどな。そのおかげで対して苦戦しなかった。ひょっとしてそこらへんを加味して転移する異世界を選んでいるのか?」
「そういう点もなくはないね。君の実力でクリアできる世界しか選んでないからね。君に与えたチートも君の力の一つではあるからね」
アドミンはそういうと、カップに口をつけて一飲み。言葉を一旦区切ると、続けて話し出す。
「さて、無事に今回の異世界をクリアできたことで、待望のチート能力の付与の時間だ。今回は何がお望みかな?」
アドミンからそう言われ、俺はあらかじめ考えていたことを口にする。
「今回は、鑑定能力を頼む。こういった異世界転移モノだと定番の能力だろ?」
俺がそう言うと、アドミンは珍しく渋面を作りカップを置いた。
「鑑定能力……、鑑定能力かぁ。それはちょっと難しいんだよね」
「難しいってのは? さっきも言ったがこういうのって定番じゃね?」
「うん、例えばだけど、君が一つの異世界にだけ行き来するんだったら鑑定能力の付与は簡単なんだ、その世界の法則にそった鑑定能力を与えればいいわけだからね。だが、君は数多の異世界へ行き来する存在だ。そうすると多様な──ここではステータスと便宜上言おうか──ステータスを表示するには困ったことになる」
「ステータスのフォーマットが異世界ごとに違うから、ってことか?」
「そう言うことだよ、真宮寺勇人君。鑑定能力を発揮するにはそれぞれのフォーマットに合わせた鑑定能力を駆使する必要がある。鑑定能力と一口に言ってもいろんな種類の鑑定がある、とでも言えばいいか。一つの鑑定能力だけで全部何もかも鑑定するってのはちょっと難しいんだよ」
アドミンにそう言われて、俺も考える。なるほど、例えばアルファベットでステータスの上下を判断するシステムがあったり、数値で判断するシステムがあったり、はたまた同じ数値でも数字の基準が違うシステムがあったりとかってことだな。
「じゃあ、鑑定能力は無理ってことなのか?」
「いや、必ずしもそうとは言えない。君が鑑定能力が欲しいのは、オールラーニングでスキルを習得するのが目的だろう? だったら、汎用的な鑑定能力ではなく、機能を限定した鑑定能力にすればいいんだよ」
「と言うことは、スキルだけ鑑定できる能力にするってことか?」
「ザッツライト。そう言うことだよ真宮寺勇人君。スキルだけならそれほどフォーマットの違いを気にせずに出来る。まぁ、君にわかりやすいようにするために多少の変換作業は必要になるだろうけどステータスを変換するよりは負担が少なくてすむ。では、今回付与するのはスキル鑑定のチートでいいかな?」
「あぁ、それで頼む」
「オッケー。では付与しよう」
アドミンはそういうと、いつものようにこちらに手を伸ばし、俺に触れると何か呟いてから離れる。
「オーケーだ。これで君にスキル鑑定が付与された。あ、ちなみに私は鑑定できないよ。スキルってのは下位世界の生物に与えられた能力だからね。上位世界の私たちにはスキルなんて概念がそもそもない」
「与えられたって誰に?」
「そこは色々だよ、色々。その世界の神によってスキルシステムが構築されたってところもあるし、単純に技能の指標としてあるだけで、スキル鑑定でないとわからないようなシステムの所もあるし。世界によって違うね」
そこで言葉を区切ってアドミンが再び続ける。
「あと、その能力で君の従者たちを見るのはしばらくの間はやめたほうがいいよ」
「なんでだ?」
「持ってる技能が多すぎるからだよ、鑑定能力は君の脳で処理する関係上、あまりに膨大すぎる能力の持ち主の場合、慣れないうちは脳が焼き切れるよ。一応セーフティーが働くようにはしてるけど、頭痛ぐらいは確実に起きると思うんで、能力に慣れないうちは見ない方が身のためだよ」
「持ってる技能が多すぎるって……。あいつらそんなに凄いんか」
「君自身は自覚ないだろうけどね。彼女らは本来は人間に付き従うような存在じゃないんだよ。地球の触覚の一部だから、人間とは文字通り次元が違う存在だ。対等ですら恐れ多いのに、君は従属させてるからね。ぶっちゃけ私が与えるチート能力よりよっぽどチートだよ」
そんなにすごい奴らなのか、あいつら。青龍が起点で白虎も従者になってくれたから、青龍がいなかったらこうはならなかったんだよな。その青龍も、死にかけを救ったことで従属してくれたってことだが、その程度で従属なんてしてくれるもんなのかね。
「さて、それじゃ次回の話をしようか。次回君が行くのは、いわゆるSF、スペースファンタジーの世界だ。人類が宇宙進出を果たし、数多の植民星とそこに暮らす人々がいる世界だ。超能力の存在が科学的に実証されてる世界だから、純粋なスペースファンタジーとは言い難いが、それぐらいあったほうが君もやりやすいだろう?」
「SFの世界か……。そうなると宇宙船の一つも持ってないと厳しいんじゃないか? 鑑定能力じゃなくて、アイテムにしてそっち貰えばよかった」
「大丈夫だよ。君の今の実力でクリアできないような世界には送らないからね。まぁ、君個人が欲しいって言うんなら宇宙戦艦を手に入れてもいいだろうけど、そこはご自由に、だね」
「宇宙戦艦かー、確かにちょっとは憧れるが」
「じゃ、次回は1ヶ月後。いつものように夢経由で君を送るからそれまで準備しておくように」
「おう、分かったぜ。それじゃまたな、アドミン」
「あぁ、ではおはよう、真宮寺勇人君」
いつものアドミンの挨拶と共に、俺の意識は急速に覚醒していく。