19.そして、それから
それから数日後、ソルテアボルトは今までにない活気に満ち溢れていた。まぁ、それもそうだろう。クリーチャーたちの脅威から解放され、水も豊富に供給され、動物たちを生成し、初めての肉を食うことも出来たのだから。
ちなみに、そこでも色々と大変だった。そもそも、屠殺の技術すらも失われてるし、火もロクに起こせないしで、複製した動物たちをどうすることもできなかったからだ。
最初はエコボックスに投げ入れてヘルスバーを作っていたのだが、牛とか豚を入れても不味かったので、どげんかせんといかんと思い、俺たちで屠殺と火起こしを教えることにした。
とは言っても、俺も屠殺の技術なんてないので、そこはネットショッピングの出番。そういう本を買ってこの世界の言葉に翻訳しながら、教えることにした。
火起こしに関しては、ライターやマッチの場合消耗品であるため継続して使えないと考え、メタルマッチを購入し火おこしの道具とすることとした。メタルマッチも長い目で見れば消耗品と言えなくもないが、まぁ、火種を一回作ってしまえば、そこから火起こしはできるので問題ないといえる。あ、ちなみにメタルマッチってのは別名ファイヤスターターとも言う、マグネシウムでできた、簡易火打ち石とでも言うべき火起こし道具だ。
俺はそんな存在があること自体知らなかったのだが、白虎がそれを知っていてそれを購入したのだ。
白虎曰く、「いつか異世界転生する時のために、サバイバル知識はバッチリだからね!」とのことだが、異世界転生したらそんな便利道具は使えないのでは、と思ったが口には出さないことにする。
そんな感じで、クリーチャーの脅威から解放されたことでボルトの住人たちにも笑顔が溢れ出していた。流石に、地上には住むべき家がないので、地上で暮らし始めるのは時間がかかるだろうが、概ね復興へと歩んでいってると言えるだろう。
「ハヤト様。この度のこのご恩どうやってお返しすればいいか……」
ボルトの状況が落ち着いてきたところに、改めて話がしたいと言われ俺はマザーと会って話をしていた。とはいえ、二人っきりってわけでもなく、青龍と白虎が一緒にいる。桜はボルトの雑事を色々やってるし、千春はコピー能力をフル活用していろんなものをコピーしているところだ。
「この支援に関しては俺にも利点があることだからな、気にするな」
実際、こうやってボルトを救済することで俺はアドミンからチート能力を貰えるので、俺にとってはボルトを救うことは利があることなのだ。
「お言葉ですが、我らを救うことで、ハヤト様に利があるようには思えませんが……」
だが、マザーは俺の言葉が信じられないようで疑問を投げかけてくる。
まぁ、そりゃそうだよな。そっちとは関係ないことで報酬を受け取ってるわけだから、ボルトの救済と俺の利がイコールで結びつかないわな。
「利はあるんだよ、俺にはな。そっちが何も俺にしてくれなくても得られる利が俺にはある。とはいえ、それじゃ納得しないだろから、俺のことを恩に思うなら、こちらの願いを聞いてはくれないか?」
「はい、どのようなことでも必ず成し遂げると約束いたしましょう」
そう言って身を硬くするマザー。そんなに大それたこと頼むわけじゃないんだがな。
「他のボルト──とは言ってもそっちが交流のあるボルト程度でいい──、そこに千春にコピーさせるから、浄化装置、ゲノムボックス、フィールド発生装置を分け与えてやってくれ」
あ、クローン発生装置はちゃんと稼働させたら、ゲノムボックスという名称であったことが判明したのでそう呼んでるぞ。多分に俺の翻訳魔法が機能してるからなんだろうが、ゲノムってちゃんと遺伝子が判明してるんじゃないかって思ったもんだ。
閑話休題、ともかくそれらをコピーして他のボルトに分け与えれば人類の生存可能範囲が増える。ひいてはこの世界の救済につながる。俺にとっては利しかない提案だ。
「そ、そのようなことでいいのですか? やはり、それではあなたの利がないようにしか思えません。貴方様は一体……」
「疑問は聞いてない。やれるのか? やれないのか?」
「し、失礼しました。わかりました、我らの総力を上げて他のボルトに同じ装置を渡すことを約束致しましょう」
「オッケーだ。じゃあ、俺はちょっと千春と話があるんでこれにて」
それだけ言うと、マザーの前を辞する。
「貴方様はやはりこの地に降り立った真神様であったのですね……」
マザーのそんな一言が聞こえてきたが俺は聞こえないふりをして部屋を去った。まぁ、信仰の対象とかにならなければ、どう思ってもらっても構わない。どうせ、もうすぐこの世界を去る存在だ。どう思おうが自由──、
「なんか、このあとこの世界去ったら余計に俺神格化されそうなんだが、どう思う?」
「間違いなく神格化されるでしょうね。勇人様は間違いなくボルトの、いえこの世界の救世主ですので」
「ボルトを救って、それだけじゃなく、他のボルトにまで無償で気にかけて救おうとする。こりゃ、神様扱いもやむなしだね」
「やっぱ、そうなるかー」
困ったことだが、こうなってしまってはどうにもできないので放置するしかないだろう。
そして、千春のやつを探すとすぐに見つかったので俺の用事を済ませることにする。
「千春、ちょっといいか?」
「あ、勇人さんお疲れ様っす」
千春は変わらずコピー能力を駆使していろんなものをコピーしている最中だった。ちょっとこいつを酷使しすぎじゃないかとも思ってしまうが、これができるのがこいつしかいないから酷使せざるを得ないのだ。
「おう、お疲れ。ところで聞きたいんだがな。元の世界、地球に戻るつもりはあるか? 戻りたいって言うんなら、俺が送り届けてやってもいいぞ?」
取り敢えず、これだけは確認しておきたかったことだ。別に千春から地球に戻りたいと聞いたことはないが、桜を帰還させてやった手前、千春にもこれを言わない訳にはいかないのだ。まぁ、千春はそこまで好感度稼いだわけでもないので、桜みたいに「一緒についていくっす!」と言い出さないのは分かってのことだが。
「地球に……戻れるんすか?」
「あぁ、俺のチート能力を持ってすれば今すぐにでも可能だ。どうだ?」
俺がそう言うと、千春は顎に手を当ててしばらく考えるフリをすると何か決意したかのように話し出す。
「せっかくの提案っすけど、遠慮しておくっす」
「何故? と聞いてもいいか?」
帰ってきたのは、意外にも帰りたくないという言葉だった。こんなポストアポカリプス世界で生きていくとか大変だと思うのだが、どういうつもりなのだろうか。
「俺って、生きて異世界転移したんじゃなくて、死んで異世界転生したんすよね。つまるところ、地球ではすでに死人なんすよ。地球に戻ったところで戸籍もないし、住む家もないしで、下手したらこっちにいたほうが良い生活送れそうなんですよ。勇人さんのおかげで、生活環境は整備されてるっすからね」
そう言われると、確かになるほどと思う理由だった。戸籍なしで現代日本で生きるとかハードモードとか言うレベルじゃないしな。こんな世界だと戸籍なんてなくても生活できるし、俺がいくらか資源を残してやれば、それをコピーしまくって繋ぐことも余裕だしな。
「ていうか、そう聞くってことは、勇人さんたちは地球に戻るつもりなんすね。だったら、地球に戻る前に、色々欲しいものネットショッピングで買って貰っていいっすか? 1個あればあとは俺がコピーしまくるんで」
「あぁ、それぐらいならお安い御用だ」
そうして、俺は千春の要望通りのものをひたすらネットショッピングで買い漁ることにする。
悪いな千春、あとはお前たちだけで頑張ってくれ。




