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18.ソルテアボルトへの帰還


「ただいまーっと」


 ソルテアボルトに入るなりそう挨拶すると、周りから一斉に視線が向く。しかし、それは好機の視線とかではなく、尊敬や崇敬の念も込めたような色々な感情が混ざった視線だった。


(うーん、これはまずいかもなぁ)


 俺としてはその気はないのだが、やろうと思えば俺が炊き出しを続ければボルトの信仰の対象をマザーから俺に向けることも可能だろう。

 あの優しいマザーにそんなことをする気は毛頭ないし、やられても困るというのが正直なところだ。

 今回持ってきた装置は奇跡の力が必要とのことで、それを持ってしてマザーへの信仰が回復するといいのだが。


「おかえりなさいませ、ハヤト様」


 しばらくあたりを観察してると、マザーがこちらの方に駆け寄ってくる。


「おう、帰ったぞ。色々収穫があったぞ」


「収穫、ですか?」


「おう、これがあればソルテアボルトの生活は劇的に改善するだろう。とはいえ、よく分からない装置とかもあったからそれを見てもらえるか?」


「浮島に行ったと伺いましたが、あそこにまだ何かあったのでしょうか? エコボックスも何もかも持ち去られていると思うのですが」


「いや、まだ大量に色々残っていたんだが。あーでも、到底持ち出せないような大きさのやつばっかりだったしな。エコボックスはともかく他はかなりデカかったからな」


 エコボックスもデカイといえばデカイのだが、数人がかりで持てば持てないほどの大きさではなかった。


「エコボックスより大きい……ですか。もしやアレを持ち出してきたということですか? しかし、それにしてはそのものが見当たりませんが」


「アレが何かわからんけど、まぁでかい奴だ。ここにないのはアイテムボックスに保管しているからだな」


「はぁ、アイテムボックスが何かわかりませんが、それそのものはあるということですね。では、持ってきていただけますか?」


「いや、空間がなくてここじゃ出せないな、もっと広い場所じゃないと」


「では、こちらへ」


 マザーの案内で広い場所、というか炊き出しした場所に通される。

 うん、ここなら出せるな。


「じゃあ、出すぞー」


 まず出すのは、浄化装置(仮)からでいいか。水が1番クリティカルな問題だしな。

 アイテムボックスから浄化装置(仮)を出すと、マザーの反応を見る。


「こ、これは水の浄化装置……! まだ残っていたのですね」


 お、やっぱり浄化装置なんだな。まぁ、水を入れて出してる装置が浄水装置じゃなかったらなんなんだって話だが。


「こ、これがあれば……」


 マザーは浄化装置を凝視したまま動かない。驚嘆してるところ悪いが、まだまだ出すものはあるんだ。


「まだあるぞー。どんどん出すからな」


 そういって、クローン発生装置を次に出す。これはどうかとマザーの反応を見るが、マザーは首を傾げ疑問符を浮かべるのみだった。


「これは……なんでしょう? 見たことのない装置ですが」


「あー、こいつは見たことないのか。まぁ、確かにあの浮島にいた神が独自に研究していた装置っぽいしな。端的に言えば、生物のカケラからその生物と同じものを作り出す装置のようだ」


「はぁ、そうなのですか……」


 いまいちマザーの反応が薄いな。でも、よく考えればこの世界動物という動物がいなくなってるから、動物を増やす装置って言われてもピンとこないのは当然か。


「おっと、その関連で忘れてた。こいつなんだが……、マザーは開けることは出来ないか?」


 俺は思い出したように、塔の最上階で手に入れた箱を取り出す。白虎が開けるのに悪戦苦闘していた例の箱だ。日記の記述が正しければ、この中に動物のカケラ、遺伝子が入ってるはずだ。


「施錠の奇跡によって閉じられているようですね。これならば開錠の奇跡を使えば開けることは出来るはずです」


「ちなみに、マザーはそれを使えたり……」


「えぇ、使えますよ。早速開けてみましょう。『開錠』」


 マザーが箱に手をかざすと、カチャっという音と共に箱が開く。白虎の努力はなんだったんだって感じのあっさりさだな。魔法って万能だと思ってたが世界が違うとこうもできることが無くなったりするんだな。


「これは……なんでしょう? 細長い瓶に何か入っていますが」


 マザーが箱の中身を見るが、その中には試験管がいっぱい入っており、その試験管の中には保存用であろう液体と中によくわからない小さな固体が入ってた。おそらく、この固体が生物のカケラ、遺伝子なのだろう。


「これが、おそらく生物のカケラだ。これをあの装置に使って生物を増やすことができるはずだ。ただ、今は奇跡の力を補充しないといけないらしくて、この機械を使ったことはないんだが」


「奇跡の力を補充ですか。エコボックスにはこの前補充したばかりですので、余裕はありますが、それより先に浄化装置に補充させてもらってよろしいでしょうか? 私としてはよくわからない装置よりもそちらの方が重要度が高いです。水を浄化できれば、排泄物を浄化して清潔な水にすることも出来ます。私の負担も結果的に減りますし、そちらを優先させていただきたいのですが」


 なんか、いきなり水を飲む気が失せるようなことを言い出したぞこの人。でも、水の浄化ってそういうのにも使えるのか。まぁ、尿を飲んで水分確保ってのはサバイバルではよくあることとは聞いたことはあるが。それにしたって、元尿を飲むのは抵抗感がすごい。周り見ると、桜も千春もすごい顔してるし。


「優先順位はそっちに任せる。で、出す装置はまだあるんだ。次が最後だがな」


 そういって俺は一番謎であった装置をアイテムボックスから出す。これだけは何に使うか用途がさっぱり分からなかったからな。そして、マザーの反応はこれまでで一番劇的だった。


「こ、これは……! 浮島のフィールド発生装置では!? まだ生きている装置があったというのですか!!?」


 マザーは装置にかぶりつくとペタペタとあたりを触り装置の機能に瑕疵がないことを確認していた。


「こ、この装置があれば。地上で暮らすことも夢では……」


 マザーは興奮した様子で、装置を弄っていた。そして、おもむろに装置に手をかざし、何かしだす。手がほのかに光りだし、装置も同じように輝き出したので奇跡の力とやらを補充しているのか。


「お、おい。浄化装置が先じゃなかったのか?」


「こっちの方が優先に決まっています! これが稼働すれば、アルファもビーストも私たちの生活圏に入って来れなくなる。私たちの安全が確保されるのです! 水なんて後回しにしてでも優先する価値があります!」


 マザーの興奮は尋常ではなく、まさに鬼気迫ると言った感じでフィールド発生装置に奇跡の力を補充していた。話しかけるのも憚られるほどのすごい表情をしていたので、見ていることしかできなかった。

 しばらくそうしていただろうか、ふっとマザーの手から光が消え、マザーがその場に膝をついた。


「はぁ……はぁ……」


 顔じゅうにびっしり脂汗を浮かべ、肩で息をするマザー。


「だ、大丈夫かマザー?」


「大丈夫ではありませんが、このボルトの安全を考えればこの程度……。あとは……、起動ボタンを」


 マザーは息も絶え絶えな状態のまま装置のボタンを押す。瞬間、何かちょっと違和感を感じた。だが、それも一瞬で傍目には何か変わったような感じはなかった。


「何か、変わったのか?」


「別に何が変わったって感じはしないけど……」


「別に普通っすよね」


 桜も千春も特に何が変わったということはないようだ。白虎と青龍の方も見るが、特に何ということはなかった。


「いえ、これでこれが起動中は悪意ある生物がこのボルト周辺に入ることは出来なくなりました。申し訳ありませんが、奇跡を使い果たしてしまったので少し休ませていただきます。ハヤト様、これに関してのお礼は必ず」


 マザーはそれだけ言うと、ふらふらになりながら自分の部屋へと戻っていった。


「取り敢えず、稼働状態のこれをコピーしておくか。頼んだぞ千春」


「了解っす」


 さしあたって10個ぐらいをコピーしてアイテムボックスに仕舞う事にした。マザーに独断の行為だったが、まぁ元々俺たちが拾ってきたもんなんだから大丈夫だよな?


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