13.浄化装置
地下通路を進むこと5分ほど。途中何体かゴーストに遭遇したのだが、判を押したように皆同じようなことしか言わないので、全員あの世にお帰り願ったことはあったが、それ以外は概ね順調に進めていた。
道中は点々と白骨死体が見受けられたが、それ以外。例えばクリーチャーやゴーレムなどとは全く遭遇しなかった。
閉鎖空間のさらに閉鎖空間なのになぜ遭遇しないのか疑問に思ったが、それは先に進めばわかるだろうと思い、気にはしなかった。
そうして歩を進めると、一際広い空間にでた。そこは明かりがついており、まとまった広さがあり、まるでボルトの地下空間を彷彿とさせる広場だった。
「ここは……、集会場か何かか?」
「隠し地下室なのに?」
白虎がすぐさま突っ込んでくるが、傍目にはどうもそうとしか見えなかった。白骨死体もあちこちに点在し、かなりの数の人間がここで生活していただろうという形跡もある。
「どっちかって言うと、地下シェルターだったんじゃない? 何かあった時の避難先としてさ。どう見ても生活していた痕跡があるし」
「上空なのに、地下シェルターって変な感じっすね」
「で、そこで内乱か何かが起こって全員お陀仏、か」
救えねぇなぁ。こうなると、地上に避難して生き残った人の方が賢い感じだなぁ。追放した方が全滅して追放された方が生き残るとは皮肉にも程がある。
「取り敢えず、何かないか探すか」
「うええ、ここを漁るの?」
「し、死体漁りとかちょっと遠慮したいっす」
軟弱な奴らだな。いや、俺がちょっとおかしいのか? 気をつけなければと言ったそばからこれか。本当に大丈夫かね、この精神状態。
「取り敢えず、手分けして何かないか探しましょう」
青龍がそういうと全員散らばって探索を開始する。
俺は広間の中にあったうちの扉の一つに手をかけ、中に入る。鍵はかかっておらず、そのまま入ることができた。
中は、小さめの空間になっており、中には巨大な機械が鎮座していた。
「これは……さっきの放棄されたボルトにあったのと同じ機械か?」
俺たちが、エコボックスと推定していた例の機械だ。取り敢えず近づいてみると、
「ピー。カートリッジを挿入してください」
機械音声がなり、挿入箇所と思われる場所が光る。
「カートリッジ? アルファを入れるんじゃないのか?」
そう思ったが、よく考えたらこの機械が存在していたのは世界が崩壊する前だろう。世界が崩壊する前は“本来の”使い方をされていたのだろう。世界が崩壊した後は、アルファを入れるしかなく、本来の使い方とは違う使い方をされていたと想像ができる。
「わざわざまずいヘルスバーなんてものを作る機械がなんであるのかと思ったらそう言うことか」
カートリッジってことは、それを作る生産施設もあったりしたんだろうな。浮島を巡っていけば生産拠点とかもあるかも知れん。
「取り敢えず、稼働してそうだし持っていくか」
アイテムボックスを展開し、その中にエコボックスを収める。
そういや、何も考えずに収納したが、これ電源とかどうなってるんだ? コンセントとかもなさそうだし、今の今まで問題なく稼働してるしで、エネルギー問題がどうなってるのかわからん。
「取り敢えず、戻るか」
俺が広間の方に戻ると、すでに桜が戻ってきていた。青龍と白虎はひたすら白骨死体の山を漁っていた。色んな意味で話しかけない方がいいだろう。
「そっちは何かあったか? こっちは稼働状態のエコボックスを見つけた」
「んー。多分だけど、植物の種らしきものを見つけたわ。他は腐った食料とか、朽ちた布とかばっかりでめぼしいものは何も」
「植物の種ねぇ……。この世界で育つとは思えんが」
「よねぇ。でも、思ったんだけどさ」
「ん? なんだ?」
「なんでこの浮島、クリーチャーがいないんだろうね? 水場はあるんだからそこから発生してもおかしくないのに」
それは俺も疑問に思っていた点だ。ここにきて遭遇したのはゴーレムだけで、クリーチャーは一切見かけなかった。
最初に見たようにこの浮島には水場があるし、俺たちがくるまでに雨も降っているはずだ。しかもここは浮島という閉鎖空間。クリーチャーがいないわけがない。
「何か秘密があるのか……?」
俺たちがそんな話をしていると、青龍と白虎が死体漁りを終え、こちらに戻ってきた。
「だーめ、なんもないや。所持品もことごとく朽ちてて使いもんにならないよ」
「ここに来るまでの通路は鍵がかかっていましたし、餓死したとみるのが妥当でしょうか?」
「エコボックスは稼働してたのにか? あぁ、なんかカートリッジを入れてくださいって言われてたから、そのカートリッジが尽きたのかもな」
今の人類はアルファを入れるという発想があったようだが、ここの住人にはなかったのかもしれない。いや、それ以前に本来のものと違うものを入れても動くエコボックスがすごいというべきか。
「それにしても、千春のやつ遅くないか?」
「言ってもそんなに時間は立ってないと思うけどね」
千春だけ帰ってきてないのに疑問を呈するが、白虎がやんわりと否定する。
まぁ、それはそれとして戻ってこないようならこちらから様子を──、
「あ、申し訳ないっす。俺が最後みたいですね。こっちはなんか妙な機械を見つけましたよ」
様子を見に行こうとしたら、千春が広間に戻ってきた。
「妙な機械って?」
「水がずっと流れ出してる妙な機械ですね。最初は浄水器か何かかと思ったんですけど、「奇跡の力を補充してください」って妙なアナウンスが流れるんですよね」
「ふむ。取り敢えず行ってみるか。案内してくれるか?」
「了解っす」
千春の先導で、その妙な機械の元へと向かう俺たち一向。
「これっす」
千春が案内したその先には、確かに先端の蛇口のような場所からひたすら水が流れ出している妙な機械だった。そのさきは水路のようなものにつながっているようで、ひょっとしたら浮島の水路を作り出してるのはこの機械なのかもしれない。標高が合わないが、そこら辺は汲み出す機械とかもあるのだろう。
俺がそんなことを考えながら機械を見ていると、機械からアナウンスが流れる。
「奇跡の力が枯渇しかかっています。奇跡の力を補充してください」
千春が言ってた通りのアナウンスが流れる。ちょっと違うのは、奇跡の力とやらがまだ残っている感じのアナウンスだった所か。
「ね? 妙なアナウンスでしょ?」
「奇跡の力って、マザーが使うって言われてた力のことよね? あの遅い回復とか」
「そのはずだ。それを補充しろってのはどういうことだ?」
疑問に思うが、機械は狂ったようにそのアナウンスを繰り返すだけだ。
「これ、後ろから水が補充されてるっぽいね。で、何かしらの処理をしてここから出てるっと」
機械を調べていた白虎がそう言う。よく見れば、部屋の上からパイプのようなもので、機械に水が補充されていた。そこから、機械を通って水が出ていると言うところか。
「これ、ひょっとして水の浄化装置なんじゃ……?」
俺はその様子と見てふとそんなことを思い口に出した。