9.放棄されたボルト
「青龍ー。何か見つかったかー?」
「9時の方向にアルファ3体。2時方向にビーストが1体いる程度ですね」
装甲車を走らせてどれだけ時間が経ったか。いい加減荒野以外の変化が見たいと思い、青龍に話しかけたが、返ってきたのは周辺のクリーチャーの位置だけだった。
出発してから、何体かクリーチャーどもには遭遇してはいたのだが、全て無視していた。いちいち戦ってられないし、装甲車の速さをもってすれば簡単に振り切れるので、倒す必要を感じなかったのだ。
一応倒せばアルファの方はボルトの食料にはなるが、ビーストは完全に倒し損なので無視する。
あと、アルファでもビーストでもない他のクリーチャーも見かけたのだが同様に無視しておいた。倒しても得るものがないと言うのもあるが、足手まといを連れてる状況でむやみやらたと戦闘はしたくないからだ。
「うーん、いいかげん荒野は飽きたなー。青龍ー。浮島はまだ見えないのー?」
白虎が装甲車を運転しながら、そうぼやく。
「まだ見えませんね。代わりに、似たような廃墟群なら見かけましたが」
「お、いいね。ちょうどいいからそこで休憩入れよっか。そこにもボルトがあるなら何か情報を得られるかもだ」
白虎がそう提案すると、誰からも異論は出ずにまずはその廃墟群を目指すことになった。
道中何事もなく、目的の廃墟群にたどり着く。そこで各々降車し、休憩を取る。流石にずっと座りっぱなしは健康に悪いからな。
「さて、ソルテアボルトと同じようなら、ここにもボルトがあるはずだが」
休憩をとりながら、白虎の方に視線をやる。
「うん。地下に空間があるね。でも、人はいなさそうだよ。放棄されたボルトかな?」
白虎が地面に手をつきながらそう答える。残念ながら、ここはハズレらしい。
「放棄されたって言っても何か手がかりとかないかな? 書物とか日記とかが残ってたりとか、こういう場合の定番でしょ?」
桜がそういう風に提案するが、
「そんなゲームじゃないんだから都合よく書物があるとは思わないけどねー。というか、放棄するんだったらそういうのも持ってくでしょ」
白虎がそう答えると、「そっか」とだけ言って桜は引き下がる。
「それに、今からボルトに通じる階段見つけるのも手間ですよね。俺もソルテアボルトに厄介になったのは、アルファに襲われてるところを助けてもらった時で、自分で発見はできませんでしたし」
とは千春の弁である。
まぁ、地中探査できるならそこから逆算して入口は調べられそうだが。
「とりあえず、調べるだけ調べたらいいのではないですか? とりあえずの拠点となる場所が確保できますし。私たちが寝ずの番をするとしてもやはり外で休むのは危険ですし」
「それもそうだね、じゃ入口を調べて──、あの辺りかな? そんじゃ行こうか」
青龍の進言を受け入れ、白虎が入口を走査する。あっさりと見つかりボルトの中へと入る。
「『ライト』」
ソルテアボルトと違って暗かったのでライトをつける。というか、あそこ地下なのに明るかったよな。電気とか通ってるわけないだろうし、なんで明るかったんだ? それもマザーがもたらす奇跡の力とやらなのだろうか。
しかし、そうすると暗い状態のここには神はいそうにないな。
「うーん、何もないな」
ボルト内部に入るが、そこは構造こそソルテアボルトと似ていたが、中身はがらんどうだった。
「やはり、放棄されたボルトなのでしょうか」
「とりあえず手分けして探さない? なんか残ってる可能性もあるし」
桜が提案したのでそれに乗ることにした。とりあえず、戦力の問題もあるし二手に分かれるか。
「オッケー、じゃあ俺と青龍と千春、白虎と桜で別れて探索しよう」
「承りました」「了解っす」「ラジャ」「わかったわ」
多分この組み合わせが1番後腐れなく組める組み合わせだと思う。
青龍は俺以外嫌だろうし、桜は千春と組むのは嫌そうだし。白虎は誰とでも組める陽キャだからこの組み合わせが安パイだ。
「じゃ、1時間後ぐらいにここに集合で」
時間を決めると互いに別れ、ボルト内の探索を始める。
※ ※ ※ ※ ※
「はーい、各自発見したものを報告するように」
「こっちは、日記を見つけたわ」
「まさか、本当に見つかるとは……」
桜、白虎組は日記を見つけた模様。ていうか、マジであったのか、日記。ゲームじゃないんだから、そんなものないと思ってたが。
「こっちは謎の機械を見つけたな。一応アイテムボックスには入ったんで持ってはきたが、多分壊れてると思う。何も反応しなかったしな」
こっちが見つけたのは謎の巨大機械だった。巨大と言っても人間より二回り大きいぐらいの大きさだったが、こんな文明の崩壊した場所にある機械が普通のわけはなく、一応もってきたのだ。
「ていうか、勇人さん、アイテムボックスも持ってるんすね。超羨ましいっす……」
「推測になりますが、壊れてた機械はマザーが言っていた、エコボックスという機械ではないかと。クリーチャーから食料を生み出す機械。それが壊れてしまったからこのボルトを放棄したのではないかと」
青龍がそう推測を述べるが、俺も同意見だ。エコボックスそのものは見せてくれなかったから確証はないが多分それであってると思う。でないと、ボルトを放棄した理由にならないからな。文字通りボルトの生命線なんだから。
「で、そっちの日記はどんな感じなんだ?」
「聞いて驚けご主人。なんとこの日記の主は天空に浮かぶ浮島を観察して日記をつけていたらしい。出来過ぎだよね、私らが探してた情報がピンポイントで手に入るなんて」
「ピンポイント過ぎんな」
「本当にね。やっぱこれはアレかな? ご主人がやりたいようにすれば世界救済に繋がるってやつなのかね。修正力とかあるんだろうか」
「かもな。で、肝心の中身は?」
俺がそう急かすと、白虎は日記をペラペラとめくり出す。
「この日記によると、やっぱり浮島は上空を移動しているらしい。しかも、日記の主によればそれも複数、このあたりを通過しているようだね」
「ほうほう」
「まだ全部読んだわけじゃないけど、この日記の記述が正しければ、定期的にこのボルトの上空では浮島が通過するみたいだね。今の日付が分かんないから、次通過するのがいつになるかまでは分かんないけど」
「あー、それがあったな。というかそもそも暦自体機能してるのか、この世界?」
「日記にはちゃんと日付が書いてるから一応は機能してるんじゃないかな? まぁ、正確なのかどうかは分からないけどね」
「それもそうか」
「この近辺を浮島が通過するってことはこの辺で待てばいいのかな?」
俺が納得すると、桜がそう提言してくる。
「まぁ、他に手がかりなどありませんし、それがよろしいのではないかと」
青龍がそういうが俺も同意見だ。
「じゃ、空に注視しながらこの放棄されたボルトで待機ってことで」
俺がそうまとめると、誰も反対意見は出ないようでそう言うことになった。
さし当たっては食事にするかな。周りに誰もいないから、遠慮なく食事ができるな。弁当とかはネットショッピングで売ってたが電子レンジを使える電源がここにはないんだよな。いや、正確には発電機はあるからそれに繋げれば電子レンジも使えるのだが、そこまでして温かいものを食いたいわけじゃないので、冷たい弁当で我慢することにした。