8.浮島へ
「なんだって!? いや、お前、死者蘇生は信仰魔法の領分で信仰魔法はもう失伝してるはずじゃ……」
青龍のいきなりの爆弾発言に俺は思わず声を荒げてしまう.
「信仰魔法として行使しているわけではありませんよ。分類としては固有魔法になるでしょうか。蘇生魔法、もしくは回復魔法とでも呼ぶような鳳凰固有の魔法です。ゆえに、今後は死者が発生しても問題なく生き返らせることができるでしょう」
それを聞いて、俺は思わず拳を固く握りしめてしまう。それがあの時あれば──、そう思わずにはいられなかった。
「勇人様、お気持ちはわかります。ですが、あれは──」
「わかってるよ。例え、あの時鳳凰の召喚のやり方知ってたとしても、確実に召喚されるとは限らない上に、あの時は今と違って地球に自由に戻れるわけじゃない。俺の感傷だってのはわかってるよ」
「勇人様……」
「…………戻ろう。白虎と桜が待ってる」
俺はそれしか言葉を返せなかった。
※ ※ ※ ※ ※
「お、戻ってくるの早くない? ひょっとしてハズレ引いちゃった?」
ポータルで戻るなり白虎がそう声をかけてくる。
「いや、鳳凰を引いたから当たりは当たりだ……」
「それにしちゃ雰囲気が暗いけど」
「気にするな、俺のちょっとした感傷だよ。それより、空を飛ぶ手段は手に入った。あとは浮島の場所が分かればだな」
「それなんだけどさ。ご主人がいない間に外出て、このあたりにソナー飛ばして、走査をかけたんだ。一応成層圏まで見たけど、この近辺に浮島と思しき浮遊物体は存在してないみたいだね」
「仕事が早いな白虎」
「ふふん、もっと褒めてよ」
そう言って、自慢げに体を逸らす。その格好は胸が強調されてしまうからやめなさい。
「じゃあ、マザーに浮島の場所とか聞いてみる?」
桜がそう提案するが、
「難しいだろうな。過去にそこに住んでた人間の末裔って言っても、住んでた人そのものじゃないんだ。浮島の正確な場所なんてとっくに失伝してるだろ。よしんば知ってたとしても、浮島ってずっと同じ場所にあるのか? 浮島って言うぐらいだから移動とかもするんじゃないか?」
「それもそっか」
うーむ、飛行手段を手に入れたはいいが、手詰まり感が見えてきた。空は飛べても肝心の浮島の場所がわからないんじゃどうしようもない。
「ともかく、足で探すしかないんじゃないの? 現状手がかりというか、やろうと思ってることってそれぐらいしかないんだから。幸い足はあるんだしさ」
「そうだな。そうするか。あ、行く前に千春にちょっと頼んでおくことが」
白虎の提案に頷く俺。そして、行く前にやることがあるのを思い出す。
「何頼むの?」
「1セット分の食料渡しておくから、それをコピーしまくってここの常備食料にしてもらわないとな。一度始めた支援だ、できる限り長く続けないとな」
そう言って、俺は以前出したブロック栄養食と飲むゼリー、ミネラルウォーターを購入する。色々な味も用意しておくか。これを増殖してもらえれば当分持つだろ。
それらを持って千春のところに行くが、そこで返ってきたのは意外な言葉だった。
「分かりました。じゃあ、できる限りコピーするんで、俺も浮島探索に連れて行ってください!」
「いや、しかしなぁ……」
「っていうか、こんな穴蔵でなんの娯楽もなく過ごすとか拷問っす! ちゃんと言われた分のコピーはするので連れて行ってください!」
「あー、娯楽なら出そうか? オセロとか将棋とか出せるけど」
「いや、そういうのいいですから」
どうにも頑なについてくる気の千春。俺としては現時点で主人公の可能性が高い千春を連れて行きたいのは山々なのだが、千春はコピー能力だけで戦闘能力は皆無に等しい。連れて行こうにも足手まといなのだ。
だから、千春の力が必要と思われるような場所までとりあえず俺たちだけで行って後で千春を連れてこよう、と考えていたのだが。
「あんた戦えんの? あたしと勇人はこれでも修羅場くぐってきたんだからね。コピー能力でスキルとかもコピーできてない状態なんでしょ? そんなんじゃ足手まといなのよ。大人しくここで待っときなさい」
俺がいいあぐねていると、桜が厳しい口調で千春に口撃を加える。
「だ、大丈夫です! 最初は戦えないかもしれないですけど、勇人さんや桜さんの戦いを見ればスキルもコピーできるはずです!」
「桜って呼ぶな。呼んでいいのは家族だけよ」
さっきよりもさらにきつい口調で千春に物申す桜。目線もキツくなり、もはや睨みつけてる状態だ。別に名前ぐらいいいだろうに。
ていうか、俺とか白虎は桜呼びなのにそれはいいのか? え、ひょっとして家族カテゴリーに入ってる? ちょっと気が早すぎやしませんか桜さん。
「そ、それは失礼しました」
その桜の怒気に当てられたのか、目線を逸らして恐縮する千春。
「はぁ、わかった。連れていくさ。その代わりちゃんと戦えるようになってくれよ。足手まといになったら即放り出すからな」
「ありがとうございます!」
千春は地面に頭がつこうかという勢いで頭を下げるが、桜は不満そうだ。そう不満顔するなよ、主人公かも知れないんだからこの世界を救うには必要な人材なんだよ。多分。
「話纏まった? じゃ、必要な分だけコピーしたら早速出発するよ。マザーには私から話しといたからさ」
いつの間にかいなくなってた白虎が出現しそう告げると、千春は食糧のコピーを開始する。およそ1ヶ月分ぐらいか? それぐらいの量をコピーすると、ソルテアボルトを後にする。
「すげー、車だ! こんなのも買えるとかまじチートっすね! いや、勇人さんがお金持ちなのか!」
装甲車を見て、千春が感激の声をあげる。
チャージは無限だから別に俺が金持ちってわけではないんだが。まぁ、そこをわざわざ言うこともないので黙っておくことにする。
「ほら、全員で乗った乗った。運転は引き続き私ね」
白虎はすでに搭乗し、俺たちを手招きしていた。
「あ、千春。あんたは助手席乗りなさい。あたしと勇人は後部座席に乗るから」
「了解っす」
いつの間にか俺の席次が桜によって決められてしまっていた。まぁ、後部座席で千春と二人ってのが嫌なのだろう。俺としても特に文句を言うようなところじゃないので、何も言わないでおいた。
そして、青龍は変わらず車の上で待機だ。
「ソナーは私にお任せを。必ず浮島を発見してみせます」
そう意気込む青龍を見ながら、装甲車に乗り込む。
「全員乗ったね? それじゃ出発するよー」
全員搭乗したのを確認すると白虎がエンジンをかけ、装甲車を走らせる。
さて、浮島は無事見つかるのかね。