7.鳳凰召喚
「さて、準備はできました。覚悟はよろしいですか」
地球に戻り、いつものように庭に魔法陣を描くと青龍が中央に立つ。
「覚悟って言っても、霊亀の時も圧迫面接で流れ作業で契約できたからあんまり心配してないんだが」
「それはたまたま霊亀の個体がそういう輩だったと言うだけでしょう。鳳凰も個体によってはそうなる可能性もありますが、基本的に四霊はプライドだけはいっちょ前ですからね。戦って勝てば契約と言うならまだ良い方で、何かしら対価を要求してくるなんて輩もいます。まぁ、そういう輩の場合は私がどうにかいたしますのでご安心ください。前者の場合は口出しませんので、どうにか勝ってください」
「どうにか勝てと言われてもな。鳳凰って多分名前からして火属性だろ? 水属性の魔法なんて古代魔法にないんだが」
一応クリエイトウォーターなんてのはあるが、あれは攻撃魔法ではない。あれで出来ることって言ったら青葉の奴にやったように、顔に引っ掛けてスキを作るぐらいだ。
「別に属性にこだわる必要はありませんよ。確かに水剋火の関係にはありますが別に水属性じゃないければ倒せないわけじゃありませんし。むしろやってはいけないのは木生火ですねえ。つまるところ木の属性である私は力にはなれないと言うことです。ま、元々ガイアの化身である私たちは加勢できませんが。あと同属性もダメですね。木と火、この二つの属性以外ならなんでも構いませんよ」
なるほど木と火はだめってことか。木の属性ってのはイマイチ分からないが、火の属性ならよくわかる。ファイヤーボールとかアトミックレイはダメってことだな。
「あ、勇人様が多用なさる、雷系は木属性なのでお使いにはならない方がよろしいかと」
「いいっ!? それマジかよ!」
え、それちょっとマズいんだが。雷も火も封じられたとなると使える魔法がめっちゃ限定されるんだが。というか、有効に使える魔法がほとんどないというか。
「では、呼びますよ」
「ちょ、ちょ待って──」
青龍を制止しようとするが、すでに青龍は召喚の体勢に入ってしまっていた。まずい、今止めるわけには──、
そこまで考えて、ふと気付いた。何も魔法だけでケリをつけなければいけないわけではないと言うことを。
「『アイテムボックス』。陰陽剣、来い」
(久しぶりの出番かしら? ねぇ、私)
(この前はよくも呼んだだけで一度も使わずにおいたわね。ねぇ、私)
アイテムボックスから二振りの魔剣を取り出すと、陰剣を抜刀し構える。
どうでもいいが、トウコツとかよりもこいつの方が使わないことに対する文句多いよな。平等に使ってやらなきゃという思いはあるが、どうにも魔法だけで大体のカタが付くもんでこいつらはおざなりになっちまうんだよな。
「────、『召喚 四霊』」
青龍が長い詠唱を終えると、魔法陣が一際大きく光り輝く。
瞬間──、
「ガッ!」
魔法陣の中から強烈な衝撃波が発生し、俺は吹き飛ばされる。背中から地面に吹き飛ばされたせいで一瞬息ができなくなり、軽くむせる。
何が来たんだ。俺は確認するためにすぐさま飛び起きる。
そこにいたのは非常に美しい鳥だった。いや、孔雀? 違う、今まで見たことのあるどの鳥とも似ても似つかない、奇異な鳥だ。顔は鶏のそれだが、体躯が鶏とは似ても似つかない、巨大と言うほどではないが、それなりの大きさのある体だ。間違いない、こいつは──、
「鳳凰……か?」
「不敬であるぞニンゲン。頭を垂れよ」
いきなり頭を下げろときたか、こりゃ青龍の言うとおりプライドの高そうなのが来たもんだ。
「悪いがそれはできないな。これからお前は俺と契約してもらうんだから。主人が下僕に頭を下げるわけないだろ?」
「何……?」
俺が軽く挑発すると、鳳凰はスゥッと目を細めてこちらをつぶさに観察してくる。
「ふん、その程度の魔力しか持たないニンゲンがよくぞ吠えたものよ。どうしても我を従えたければ、それだけの力を見せるのだな。弱いものに従う道理などない!」
そう言って、鳳凰はバッと大きく羽を広げてこちらを威嚇してくる。
うーん、こいつは青龍が言ってたみたいに戦って従えないと言うこと聞かないタイプか。これ、青龍としてた話がフラグになってたとかじゃないよな? あらかじめもっと穏当な話してたら穏当に済んだのかも。
まぁ、愚痴を言っても仕方ないので戦うことにする。
とはいえ、いきなり斬りかかるのはリスクが高い。今の俺は一撃だけなら達人の一撃を放てるが、逆にいえばそれしかできないのだ。なんとしてもスキを作って一撃を加える。それしかない。
陰剣の生物特攻があれば、一撃さえ当てればどうにでもなるはずだ。
それまでは──、
「『マジックミサイル』」
まずは牽制で一撃だ。こんなもので倒せるとは到底思っていない。だが、空を飛んでようとどこまでも追尾する魔法の弾だ。さぁ、どう捌く?
「カアっ!」
鳳凰が気合一発、大きな吠え声をあげるとマジックミサイルはその吠え声とともにかき消えた。
ウッソだろお前。吠え声だけで魔法消せるのかよ。これはマジックミサイルの階位が低いからなのか、鳳凰が強いからなのか。できれば前者であって欲しいなぁ。そうであってくれ。
「こんな小手先だけの技で我を倒せると思われているとは。舐められたものだな」
別に舐めてないぞ。あとで一撃当てるための牽制だったんだよ。牽制が通じないとなるともっとデカイにすべきだが──、これならどうだ。
「『マジックキャノン』」
マジックミサイルの強化版、第5位階の古代魔法だ。追尾性能は無くなったが、威力は大幅増しだ。純エネルギー系の魔法だから属性は関係ない。
まぁ、これよりチェインライトニングの方が強かったり、エナジーバーストの方が広範囲だったりで、帯に短したすきに長しみたいな中途半端な魔法で今まで使ってこなかったのだが、こう言う時なら役に立つはずだ。
「む……」
流石に食らってはまずいものと判断したのか、鳳凰は上に飛翔し──、
ってそれはズルいだろ! 剣が届かないじゃねーか!
そのままマジックキャノンは避けられ、鳳凰には上空高く飛ばれる。
「では、次はこちらの番と行こうか」
そういうと、鳳凰は翼を広げ、一際強く光り輝く。
なんだ、物理攻撃か!? 魔法攻撃か!? 判断がつかん。とりあえず避け──、
「あぐっ!!」
今いる地点から後方に飛んだのだが、それでも奴の攻撃範囲から出ることは叶わなかった。
奴の攻撃の正体は強烈な熱線だった。しかも、かなり広範囲にだ。後ろにちょっと避けた程度では避けれるはずもなく。
ま、まずい。火傷で痛くて動けん。回復しないと……。
「メ、『メジャーヒーリング』」
自分に対して回復魔法を行使する。徐々に治っていくのがわかるがすぐには全快しない。まずい、このままだと次の攻撃が──、
「もう一度。これで終わりだニンゲン。そのような未熟な腕で我と契約しようとしたことをあの世で悔いるがいい」
そして、もう一度光り輝く鳳凰。くそっ、こうなったら中断して──、
「『マジックリフレクション』!」
回復もそこそこに、魔法を中断し新たに別の魔法を行使する。火傷であちこち痛いが、無詠唱のおかげで発動自体は難なく行えた。
俺を包む光り輝く壁が、鳳凰の熱線を反射する。
「むっ……。ほほう、少しはやるようだ。だが、我の攻撃を反射させたとてそれで倒すことは出来まい。少し寿命が伸びただけにすぎぬ。それにそう何度も反射させれまい?」
そりゃそうだ。人間が属性魔法使うのとは違う。相手は自分の属性と同じ属性を使ってきてるんだ。それを反射させたってダメージなんてない。
だが、その間少しは時間ができた。まだ完全回復はしきってないが、とりあえず動けるぐらいにはなった。こうなったら、温存とか考えてる場合じゃない。一気に勝負を決める。
「くらえ、『グラビトロン』」
トウコツにも使った重力魔法を使い、鳳凰を地面に叩き落とす。正直魔力は温存しておきたかったのだが、手加減して勝てる相手ではなさそうだ。全力で行かせてもらう。
「むっ! 重力魔法だと!? こんな高度な魔法を人間が!?」
地面に叩き落としたらあとはこっちのものだ。重力魔法に抵抗しようと鳳凰がもがいているが、そんな程度で破れるほどやわなかけ方はしていない。
ゆっくりと近づいて、一閃──
「がっ……」
鳳凰の左羽根を丸ごと切り裂くことに成功した。うん、相変わらず切った感触なんて何もないな。すごい切れ味。
「終わりだ。今ならもう片方も切れるぞ。その前に降参した方がいいんじゃないか?」
「ぐっ。……降参だ、不本意だが貴様の配下となろう」
とりあえず大人しく配下になってくれたよう。でも、今思ったがこんなに完全に羽根斬ってしまって大丈夫なのだろうか? もう飛べなくなってしまうんじゃ──、
そう思ったのだが、その心配はどうやら杞憂のようで、俺が重力魔法の効果を切ると、斬った場所からそのまま羽根がうぞぞと生え出してきて、あっという間に羽根が再生した。
「すごい再生能力だな。それ全力で使われたら俺も勝てなかったかも知れないぞ」
「貴様は何か勘違いしているようだな。私は貴様の強さを見たかっただけだ。勝つのが目的ではない。すでに強さは知れた以上これ以上戦う理由はないと言うだけだ」
「終わりましたか? では、勇人様、この個体に名前をつけてやってください。あぁ、適当でいいですよ適当で。こいつらに立派な名前など不要です」
とすさまじく投げやりに青龍がいう。青龍さんもしかして鳳凰に対して怒ってらっしゃる? まぁ、俺的史上最大のピンチだったのは確かだが、それだったら手助けぐらいしてくれてもいいようなものだが、そういうわけにも行かないか。
ところでこいつ表面上の性別はオスなのかメスなのか? いや、無性ってことはわかってるんだが、一応外見上の性別での名前はつけてやりたいし。まぁ、男でも女でも通じる名前にすればいいか。
「じゃあ、クリムゾンからとって、クリムで。赤いしそれでいいだろ」
なんかペットの名前をつけるような感覚だが、とりあえずなんとか頭から名前を捻り出す。
「了解した。それでは我はこれよりクリムと名乗ることとしよう。主の血を」
「あーうん、いつものだよな。わかってる」
青龍に指先を切ってもらい、クリムに血を垂らすと契約は完了する。これで自由にクリムを呼ぶことが出来るようになるはずだ。
「勇人様。鳳凰は西洋のフェニックスと混同され同一視されることが多々あります。それゆえ、今の鳳凰もフェニックスに準じた、いえほぼ同一の権能を扱うことができます。例えば──、死者の蘇生などを」
死者の蘇生。それを聞いて俺の心臓がどくんと跳ねた。