6.解決案
「さて、こっからどうしたもんか」
あの炊き出しの後、ボルトの中で個室を与えられた俺たちは、青龍と白虎、桜を交えて作戦会議をしていた。千春には色々と話せないこともあるので、席は外してもらった。
つまるところ、いつものメンバー+1である。
「まず、勇人様がどうしたいか。それが一番重要ですよ。いつものことですが」
「勇人がしたいことをするのが世界を救う鍵になるんだっけ? それは楽で良い……、のかな、今の状況的に」
「楽とはいかないよなぁ。俺としてはここの人たちを助けたい。一時的な炊き出しなんじゃかじゃなく恒久的に助けれる方法をだ。最初は植物の種でも配ろうかと思ったけど、確か水からクリーチャーが生まれるんだろ? 雨が汚染されてそうで植物は育たなさそうでなぁ」
「そこがネックだよねぇ。プランターとか買って作るってなるとどうしても家庭菜園レベルになちゃうし。本格的に農業するならやっぱり外の大地じゃないと」
白虎が俺の意見に同意する。プランターは俺も考えたがやっぱり取れる量が圧倒的に少ないからな。このボルトだけでも賄える量は到底取れない。
「まぁ、このボルトの住人を助けるってだけなら手が無いわけでもないんだけどね……」
「お、どうすれば良いんだ?」
白虎のセリフに期待するが、白虎の口から返ってきたのはあまりよろしくない答えだった。
「いや、霊亀と契約したでしょ? あいつの背中に住まわせるんだよ。あいつの本体は北海道ぐらいの広さがあるって言ってたでしょ? 彼女らを掬い上げる程度ならわけないのさ。自然も豊富だし、住む分には地上に住むのと遜色なく生活できるよ」
「いや、それじゃなんの解決にもならないじゃないか」
新しい楽園を提供します、は魅力的に見えるがこの地を放棄させることに変わりはない。それにそうすると救えるのはソルテアボルトの住人だけになる。
「うん、だよね。だから使うとしても最後の手段になるね。この世界の住人全員ってのは流石に無理だろうから、選別を開始することになる。それはご主人の望むところじゃないだろ?」
「まあな」
確かに最終手段としてはそれもアリかも知れないが、それはできることをやりきってそれでもダメな時だ。最初からそれに頼るのはダメな気がする。
「やはりネックは水、ひいては海が汚染されていることですね。雨が汚染されてなければ勇人様が仰ったように植物の種を分け与えれば、この地の安寧は確保されたと言えますが……」
「水の汚染の原因がわかればなー。水からクリーチャーが出来るってどういう汚染のされ方なんだか。なんか原因物質でもあればそれを取り除けば解決だろうけど」
正直手詰まりの感がある。この世界に同じく転移してきた千春になんとかしてもらおうとも、千春の能力はコピー能力。ぶっちゃけ、役に立ちそうにない。
「うーん、もう早速最終手段に頼りたくなってきた」
「気持ちはわかるけどもうちょっと考えようよ。世界を救わなきゃ、任務は達成されないんだから」
「まぁ、取りあえずはこのボルトの用心棒をしながら、彼らかの報酬である情報を待つということで良いのではないでしょいうか? いきなり水の汚染をどうこうするとか考えてもラチがあきませんし」
「ねぇ、空中に浮遊してる浮島に行けたらなんか手がかりとかないかな?」
俺ら主従で考えに煮詰まっていると、桜が不意にそんな提案をしてきた。
「あー、そういえばそんなのがあるって言ってたな。そこで大洪水の難を逃れた人らの子孫が今のボルトの住人なんだっけ?」
「そうそう。まぁ何もないかも知れないけど、今みたいにただ考えを付き合わせてるだけよりは建設的でしょ」
「その通りだが、いくつか問題がある。まず一つ。その浮島がどこにあるのか知らない」
「あー」
俺がそういうと桜がバツが悪そうに目を背ける。そこまで考えてなかったなこいつ。
「次に、見つけたとしてそこまでいく手段がない。生憎俺は空飛べないんでな」
「そういえば、王城の塀越える時も、勇人だけ飛行の魔法じゃなくてジャンプだったっけ。じゃあ飛べる魔法覚えるとか?」
「それならすでに何度も試した。俺は何やっても飛べないんだ。呪いか何かかのようにな」
「呪い……」
そこまで言うと桜も押し黙る。うん、俺としても浮島に向かうのは良い提案だとは思う。だが、そこにたどり着く手段がなけりゃ絵に描いた餅だ。
「いや、空飛ぶだけならなんとかなるよ」
だが、それを否定したのは白虎だった。こいついつも何かしら提案してくれるよな。ほんと仲間にしてよかったと思う瞬間だ。
「ご主人は、自力では空は飛べないみたいだけど、何かに乗って空を飛ぶのは出来るみたいだからね。何か空を飛べる存在に乗せて貰えば良いのさ」
「じゃ、新しい四霊とかを召喚しろってことか?」
俺はそう言うが、白虎はチッチッチと指を振って否定する。
「いやいや、そうじゃないよ。すぐそこにいるだろ? 空を飛べる龍が」
龍? そんなのいたかと思い、青龍の方を見──、
そうか、こいつ龍だっけ。ずっと人型だからすっかり龍だってこと忘れてたわ。
「せい──」
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。いくら勇人様の頼みだからと言ってできないことがございます」
俺が頼もうとしたら先手を打って断りに来た。
「なんでだ?」
「勇人様を乗せるのはまぁ良いでしょう。ですが、その他の人を乗せるのはごめん被ります。たとえ未来の奥方様であったとしてもです」
お、奥方だなんてそんな。と横で桜が身悶えしているが無視する。俺なら良くて他は一切ダメなのか。なんとかならんもんか。
「なんとかならんか?」
「ダメです。それに、別にそれは私のわがままだけで言ってるわけではないのです。私はひたすらに細長い体躯を持つ“龍”なのです。人が搭乗するには恐ろしく不向きです。なので、一人ぐらいならなんとかなりますが、それ以上を載せるとなると搭乗員の安全を保証できません。一人だけ乗せるとなったらそれは勇人様以外にあり得ないので、他の方を乗せることはできません」
ただのわがままかと思ったら、割と真っ当な理由だった。確かに、青龍っていわゆる東洋の龍であってドラゴンじゃないから、乗るには不向きな体躯してるよな。じゃあ、どうしたら良いんだろうか。
「はぁ、じゃあ四霊の誰かを呼ぶしかないか。鳳凰が1番当たりかな、麒麟と応竜はハズレ。良いかげんちゃんと触媒を揃えてきちんと狙ったのを呼びたいところだけどね」
「それなのですが、白虎。貴方、以前はどうやって霊亀を呼んだのですか? 四霊の召喚となると、私たちでは難しいはずですが……」
「うん、難しいね。だから私自身を触媒にしてランダム召喚に賭けたんだよ」
「自身を触媒……、そんな方法が」
おい、青龍。お前召喚術の大家だったんじゃないのか。それが知識量で白虎に負けてるってどう言うことだよ。
「ていうか、この際だから鳳凰引くまでガチャ継続したら良いんじゃないか? 麒麟とか応竜だっけ? そいつ引いても契約して次に生かすってことで」
「いえ、それは難しいですね。本来の召喚術というのは世界法則に穴を開けてそこから目的のものを召喚する技法です。あまり多用すると世界法則が不調に陥る可能性があります。ましてや今回は四霊のような強大な存在の召喚です。一度に召喚するのは一回だけにしておくのが無難でしょう」
青龍が白虎の代わりに解説をする。うん、そうそう。そうやってちゃんと解説してくれれば、俺も白虎に色々頼らなくても済むんだ。あれ、でもそうすると──、
「あれ、それじゃ俺も教えてもらった召喚術は多用しない方がいいのか? いや、ほとんど通常召喚しか使ってない上に、使う頻度も超少ないけど」
「いえ、それは大丈夫です。あれは私が編み出した、名付けるならば召喚魔術とも言うべき別の魔法技法です。白虎が使おうとしているのが本来の意味での召喚術なのです」
「え、何それ聞いてない。召喚魔術って何さ」
白虎が横から青龍に尋ねる。
なるほど、白虎が使う召喚術と俺が教えてもらった召喚術ってなんか違うなーとは思ってたんだ。魔法陣も使わないし。別の技術って言うんだったら納得だわ。
「まぁ、ともかく召喚は基本一発限りってのはわかった。それじゃ一旦地球に戻ってまた召喚するか」
「ねぇねぇ、召喚魔術ってなにさ」
白虎がしつこく青龍に聞いてくる。そんなに気になるのか。
「では、一度地球に戻りましょうか。今回は私が召喚いたします。なるほど、自身を触媒に、ですか。同じ空飛ぶものとしての属性で召喚は上手くいきそうですね」
「ねぇ、召喚魔術って何さ。教えてよ」
「あとで教えてあげますよ。勇人様地球へ一度帰還しましょう」
さらにしつこく聞いてくる白虎をいなす青龍を見ながら、俺は地球へのポータルを開く。
さて、今度もうまく行くと良いんだが。




