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3.ソルテアボルト

「これは……」


「うわー、これはひどい……」


「スラム……、いえ、それ以下ですね」


「く、臭い……」


 あの後、マザーとやらの案内でボルトと呼ばれる居住地に案内された。

 居住地は地下にあるようで、長い階段を下った先にあった。階段を降りながら「なるほど、だからボルトね」と白虎がつぶやいていた。

 後で聞いたらボルトってのは地下貯蔵庫とか、地下納骨堂とかの意味があるらしい。地下納骨堂とはまた皮肉が効いてる呼び名だとは思う。

 

 何せ、この今の目の前の惨状である。

 幾人かの住人がいるが、それらはすべて痩せこけ、一様に死んだ目をしながら俯いている。老若男女問わずである。

 先ほど外でビーストと戦っていた4人+1人は戦闘要員だからかちゃんとした肉付きをしているが、それ以外の住人はこの有様である。

 中には腹だけでてあばらが見えてるような子供もいる。これは肥満ではなく筋肉がなさすぎて臓器が腹に溜まっている状態だ。

 よくテレビや写真で見る海外の飢餓状態の子供のようだ。青龍がスラム以下と表現したのもわかる。

 あと桜が言ったように匂いな、匂い。風呂なんて当然入ってないだろうから臭くて敵わん。流石に排泄物を垂れ流すような真似はしてないらしくそっちの香りはしないのが救いか。


「こちらです」


 マザーはそれらの惨状を一目だけ見ると、俺たちの先頭に立って案内する。しばらく歩くと応接室みたいな場所に案内され、ボロボロのソファに腰を下ろす。


「どうぞ」


 促されるまま、俺もソファに座る。桜も座り、青龍と白虎は立ったままである。


「まずは自己紹介を。私は、このソルテアボルトの神、マザー・マリアと申します。みんなはマザーと呼びます。こちらは私の戦士長ヴェラ。戦士ステファンと、戦士ニコラです」


 そう言って自己紹介される。とりあえずマザーさんの名前はマリア。野生的な女性がヴェラさん。んで、ハゲたおっさんがステファンさんで、髭の生えたおっさんがニコラさんか。

 ちなみにさっき回復させてアレンさんとやらは、安静が必要とのことでこの場にはいない。

 何気に自分のこと神とか言っちゃってるけど、これも俺の知ってる神とは定義が違うんだろうな。


「俺は真宮寺勇人。隣にいるのが、前島桜。後ろに立ってる二人は青龍に白虎だ」


 俺がまとめて紹介をすると、名前を呼ばれるたびにそれぞれが会釈して答える。


「シングウジに、マエジマ……? 聞きなれない名前ですね。あのそちらのお二人は貴方がたの戦士なのではないのですか?」


「いや、戦士かなー? どっちも魔法使うからどっちかっていうと魔法戦士だな。というか多分貴方のいう“戦士”とこっちが思う戦士の定義が違うと思う」


「どういうことなのでしょう? 戦士は戦士では?」


「あー、これ言うか迷ってたんだが、話さないと話が進みそうにないな。俺たちはこことは違う異世界からやってきた。この世界に来たのは……とある使命を受けてのことだ」


 自分たちが異世界人であるというのはできるだけ秘匿したい情報だが、この世界の情報が皆無な今の状況でそれを隠したまま情報収集は無理だろうと判断した。


(いいの、それ言って?)


(言うしかないだろ。今のままじゃロクな情報収集ができん)


 桜と小声で互いに言葉を交わす。


「異世界……? 異なる世界ということですか。とするともしやあなた方は天上の世界からいらっしゃった、真神なのですか!?」


「真神とやらが何か知らんが、俺は人間だ。神じゃない」


 後ろの二人はマジモンの神様だけどな、という言葉は飲み込んでおく。


「人間? ですが、先程の奇跡は……」


「あれは奇跡じゃない。魔法っていう不思議パワーだ。マナを燃料とし、オドを着火剤として行使する神を介在としない技術だ」


 であってたよな? 恐る恐る白虎の方を振り返ると、得心したようにうなずいている。どうやらあってたようだ。


「技術……ですか、あれが?」


「今こうやって、あなた方と会話ができているのもその魔法の行使による結果だ。おかしいと思わないか? 俺が異世界から来たって言うのに問題なく言葉が通じてる事実が」


 俺がそう言うと、何かに気づいたのかハッとする表情を浮かべるマザー。うん、そこらへんで納得してくれるのは助かる。

 だが、マザーがその表情を浮かべたのはどうやら納得の為ではなくて、


「シングウジ様。その言葉が通じる奇跡……、いえ、魔法は他人にも行使できるのですか?」


「勇人でいいよ。で、質問の答えだが問題なくできる。効果時間は限られているがな」


「でしたら、お願いがあります。その魔法をかけてほしい相手がいるのです。ハヤト様が来る前にこのボルトに流れ着いた人物がいるのですが、全く言葉が通じず困り果てているのです。先ほども助けていただきさらに助けていただくのは非常に心苦しいのですが、私にできることならなんでもいたします。どうかお願いできないでしょうか?」


「マザー!」


 そのマザーの言葉に、今まで黙っていたヴェラさんが制止の言葉をかける。


「あんたがそこまでする必要がどこにある! ただの流れ者だろアイツは!」


「ヴェラさん。そのような言い方をしてはいけません。彼も言葉が通じなくて困っているでしょう。来た時は元気だったのに、今ではすっかり塞ぎ込んでしまいました。私があれやこれやとしてあげてますが、やはり言葉の壁は厚いのです。言葉が通じるようになれば彼も元のように元気を取り戻すでしょう」


「あぁー、もう!」


 ヴェラさんは、苛つきながらもしょうがないと言った感じで頭をかいていた手を振り下ろす。

 なんというか、マザーの献身がすごいなと思う。こんな極限状態で、どこの者か分からない異邦人を保護してそれを気にかけてあげると言う。

 俺だったらできないな。いや、世界の主人公になる人物相手だったらそれぐらいするか? いや、それは魔法が使えるからこその余裕か。


「分かった。礼に関してはこの世界の情報をくれ。それが対価でいい。さっき言ったように俺は異世界人だからな。この世界の人にとって当たり前のことに関しても全く知らない状態だ。奇跡とはなんなのか、この世界はどうして滅んだのか、あのビーストって化け物は何者なのか。色々と教えてもらうとしよう」


 俺としてもこの提案は渡りに船だ。さっきのビースト戦の助力の対価で教えてもらうと言うことも考えていたが、向こうから何でもするという言葉を引き出せたのだから十分だろう。


「そのようなことでいいのですか……? いえ、感謝いたします。ヴェラさん、彼を呼んできてください」


「わかりました、マザー」


 そう言って、ヴェラさんが退室する。それと同時におっさん二人からの視線が鋭くなる。

 ヴェラさんは戦士長って言ってたし、多分実力的にはこのおっさん二人よりも強いんだろうな。で、その最大戦力がいなくなったから二人で持って俺のことを警戒している、と。

 そういえば、さっきもヴェラさんは喋りはしなかったが、多少の警戒は向けられていた。とはいえ、実際に助力をしたわけだから、そこまで厳重な警戒ではなかったが。

 だが、このおっさん二人は警戒バリバリである。自分たちの実力がたりてないから過剰に警戒するのか、俺という戦力に対して敵意にも似た感情を向けてきている。

 しかし、俺に敵意を向けていると言うのに青龍はどこ吹く風である。いつもなら、槍を相手の喉元に突きつけるぐらいはすると思うのだが、青龍的にはそこまでする相手でもないのか。


「ステファン、ニコラ。抑えなさい」


「「はっ……」」


 おっさん二人の敵意に気づいたのか、マザーが二人を制止する。


「申し訳ありません、ハヤト様。二人が不躾なことを」


「なんのことだ? 謝られるようなことは何もないな」


「感謝します……」


 俺が知らない風を装うと頭を下げてくるマザー。その様子におっさん二人が動揺する。

 自分らの失態で長に頭下げさせることになったんだしな。ま、そっちの自業自得ってことで。


「連れてきました」


 そんなやりとりをしていると、ヴェラさんが一人の男を連れて戻ってきた。

 男は高校生ぐらい、というか俺と同じぐらいの年齢だろうか。中肉中背であまり特徴のない顔、いやちょっとヤンキー入ってるような感じの顔か。

 服装はモロに学生服で、結構薄汚れているのが彼の今までの苦労を思わせる。


「今度はなんだよ……。ほんとなんで言葉通じないんだ、こういう場合翻訳のチートは標準装備すべきでしょ……」


 で、来るなり日本語を喋り出す男。うん、また日本人か。日本人転生させるの好きすぎじゃね? 日本は特異点か何かか?


「翻訳のチートはあまりお勧めしないって、俺は言われたけどなー。初めまして、俺は真宮寺勇人。君と同じ日本人だ」


 俺が自己紹介そうすると、弾かれたように激しく反応する男。


「に、日本語!? 貴方も日本人ですか! 俺以外にも転移した奴がいたのか!」


「まぁ、とりあえず俺が翻訳魔法をかけてやる、じっとしてろ『トランスレイト』」


 そう言っていつもの翻訳魔法を行使する。ほんとこれ便利だよなー、他人にもかけられるし。効果時間が短いのがネックだが。


「ハヤト様、それで大丈夫なのですか?」


 マザーが心配そうに俺に声をかける。まぁ、ちょっと手が光った程度だし、マザーの奇跡の行使の様子を見る限り一瞬過ぎて本当にできたのか疑いたくもなるだろう。


「わ、分かる! 言葉が分かるぞ! やった! やっと訳の分からない地獄から解放される! 助かりました、勇人さん。あ、俺は鈴木千春って言います。千春って呼んでください」


 そう言って、千春くんは俺の手を握ってブンブンと上下に動かす。


「ほ、本当に言葉がわかるように……。チハルというのですか。改めて自己紹介を、私はマザー・マリア。マザーとお呼びください」


「おう! よろしく、マザーさん!」


 敬称にさん付けするあたり、マザーを名前と思ってる様子の千春君。とりあえず、嬉しそうに他の面々と名前を交換しあう千春君を横目に俺はマザーに話しかける。


「さて、これで貴方からの依頼は達成ということで、色々と情報提供をお願いしたいのだが」


「わかりました。浅学な私の知識必要ならお話しいたしましょう」


 そう言って、マザーからこの世界の情報がもたらされる。


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