2.第一村人発見
「これは……廃墟の都市だな」
「完全に廃墟だね」
謎のクリーチャー、不定なる者を倒してからさらにしばらく装甲車を走らせること40分。俺たちはついに人間がかつて住んでいたであろう廃墟群を発見した。
「とりあえず適当なところで止まるよ」
「おう」
そう言って装甲車を停止させ、全員で降りる。
降りてから周りを見渡すと、やはりどうみても廃墟であった。完全に風化していて100年じゃ効かない劣化ぶりであった。
「電柱が見当たらないわね。あと、廃墟も西洋風っぽい?」
「未来の地球って線はなさそうだね。まぁ、未来の地球だとしても異世界の地球になるけどね」
「とりあえず、手分けして周囲を探索しましょう」
青龍のその言葉に全員で頷くと探索を開始する。
※ ※ ※ ※ ※
「はい、ちゅうもーく。各自探索の結果を発表するように」
「はい、隊長! 何も見つかりませんでした!」
「こちらも何も見つかりませんでしたね」
「なーんもなし、人の痕跡一切なしよ」
しばらく、20分ぐらいだろうか。周囲を探索したが廃墟以外何も見つからなかった。
「うん、こっちも何も見つからなかったな。ていうか、家具すらないとかどういうことだよ」
そう、家屋と思しき廃墟を探索したのだが、中は完全に空っぽで家具の一つもなかったのだ。
「あ、めぼしいものは見つかんなかったけどさ。ここがどうして滅んだのかは推測ができるよ」
そう言って白虎が挙手する。
「何か見つけたんじゃないか」
「いやー、見つけたって言うよりね。ここら辺の廃墟、壁にフジツボが付いてたであろう跡があったんだよね。それから察するに、この都市は海に沈んで滅んだんじゃないかなって」
オーソドックスに核戦争で滅んだかと思ったんだけどねー、と白虎は続ける。
「海に? でしたら、近くに海があるはずですが……」
「うん、だからもうちょっと行けば何かしら水場にでるんじゃないかと踏んでるんだけど」
「とは言っても、ここら辺の廃墟全部探索したわけじゃないからなぁ。この周辺だけだろ。もっと探せば何かないか?」
そう。この廃墟群。実のところめちゃめちゃ広い。元は大都市だったんだろうと推察されるでかさだ。20分程度の探索では全探索などできるはずもなく。
「それも手だね。どうする? 私としては水場を探す方を推奨するけど」
「もうちょっと、ここら辺の廃墟を探索しよう。この辺りには何もなかったけどもう少し行けば何かあるかもだし」
「オッケー。じゃあ、とりま移動しようか。ほら、乗った乗った」
俺がそう提案すると白虎はすぐさま装甲車に搭乗する。俺たちもそれに続き、装甲車に搭乗する。
「じゃ、とりあえず道らしきものがあるから、それに沿って進もうか」
そう言って白虎は車を発進させる。
「道……道ねぇ。まぁ、砂利道でも道は道か」
白虎が道と評したのは石畳ですらない砂利道だった。まぁ、それでも道とわかるような舗装はされてた形跡はあるし、道幅的に馬車が通りそうな幅はあった。
「舗装の加減見る限り、滅ぶ前もあんまり文明は発達してなかったっぽいねー」
「また剣と魔法の世界ってか?」
「さぁ、それはまだなんとも。ここら辺だけまだ道路舗装されてないだけって可能性もあるし」
「それはないんじゃない? この廃墟見るからに大都市って感じだし。やっぱそれぐらいの文明レベルなんだと思う」
「皆さま、おしゃべりはそこまでです。第一村人発見ですよ」
白虎たちと雑談していると、頭上から青龍の声がかかる。
「お、ついに第一村人か!」
「えぇ。ですが、戦闘中のようです。介入しますか?」
「戦闘中か……」
戦闘中と聞いて少し悩む俺。この世界だと横槍ってやっぱアカン行為なんだろうか。そこらへんが分からないうちは下手に介入するのも考えものだ。
「どうも、劣勢のようですね。あ、一人倒れました」
「ちょっと、何悩んでんのよ! 白虎ちゃん、アクセル全開! 急いで!」
「あいよー」
俺が悩んでいると、青龍の言葉を受けて桜が白虎に指令を下す。あの、白虎は俺の使い魔なんですけど……。でもまぁ、ここで悩んでいても仕方ないと言えば仕方ないのだが。
白虎がアクセルをベタ踏みすると、一気にトップスピードに達する。
30秒も走れば、いよいよ肉眼でもそれが確認できる。四名ほどの人間が一体のクリーチャーと思しき物体を戦っている状況だ。
構成は女性2人に男性2人。野生的な感じの女性に、戦いとは無縁そうな線の細い美女。ハゲたおっさんと、髭のあるおっさんの計4名だ。
そして、その対峙しているクリーチャーと言うのが──、
「水の化け物……?」
後部座席の桜がそう呟く。そう、目に飛び込んできたのは全身が水で構成された四足歩行の獣だった。
前回の不定なるものと違って醜悪な見た目はしていないが、これはこれでまたみたことのないモンスターだ。見た目的にはトラっぽいか?
「流体のようですね。あれではあの者達ではまともにダメージを与えれないでしょう」
青龍の言葉に、対峙している人達の武装を見ると、野生的な女性がショートソードのようなものをもち、線の細い美女は完全な無手。そして残りのおっさん二人は銃で武装していた。って、この世界銃があるのかよ。
しかし、確かにあの武装では流体のクリーチャーにまともなダメージは入らないだろう。
「あれじゃ轢けないな。白虎、適当なところで止まってくれ。すぐに飛び出すから青龍共々後詰を頼む。桜は俺と一緒に」
「オッケー」「わかったわ」
言うが早いか、白虎はサイドブレーキを引きハンドルを回して急停車する。アニメとかでよく見る急停車方法だな。
しかし、現実でやられるとGでめちゃめちゃ揺られる。二度とやるなと釘を刺しておかないと。
「ghajwowklo!?」
流体クリーチャーと戦っていた四人がこちらに気付いたのか振り返って叫び出す。
うん、言葉通じないよね。そりゃそうだ。とりあえず翻訳している暇なんてないので、すぐさま飛び出して魔法の行使に入る。
「『チェインライトニング』!」
俺のお気にの雷魔法を行使する。3条の雷は狙いをあやまたず、流体のクリーチャーに穿たれる。
「GAA!!」
流体のクリーチャーが一瞬怯んだ。が、それだけで特にダメージを与えられている様子はない。あれ? 水だから雷と思ったんだが、あまり効かない感じか?
「すべての力の源よ! 光り輝く神の力よ! 我が手に集いて槍となれ! ホーリーランス!」
横では、桜もホーリーランスを詠唱し、流体クリーチャーに攻撃をしていた。
「GURUOOO!」
すると、チェインライトニングの時とは明らかに違った反応を示すクリーチャー。純エネルギー系なら効くのか。雷が効かないならこっちはどうだ。
「『アトミックレイ』!」
「GUOOOOOOO!!」
超高熱の熱線砲だ。これなら水も蒸発して死ぬだろ。
その俺の考えが当たったのか、流体のクリーチャーは大量の蒸気を上げながら消滅していった。
その後には核とかドロップアイテムとかが落ちることも無く、クリーチャーがいたという痕跡は完全に消え失せていた。
ていうか、ドロップアイテムなしかよ。核もないってどうやって動いてたんだ?
「klgaiuajaoao!」
「jahguahn!!」
あぁ、うん。言葉分からないままだな。なんかこっちに対してすごい驚いた顔向けてるけど言葉分からないからなんとも。
とりあえず──、
「『トランスレイト』」
毎度おなじみ翻訳魔法。今回は桜にもかけておく。
「klekgi、どこのボルトから来たんだ。ビーストを一瞬で倒すとかどこの神だ?」
オッケー訳された。4人のうち野生的な女性の言葉がまず入ってきた。あの流体クリーチャーはビーストとかいうのか。そして、ボルトってなんだ? 電圧?
ていうか、いきなり神扱いされたでござる。後ろの二人は正真正銘の神だけど。
「あー、とりあえず加勢したけど大丈夫だったか? 横取りとかするつもりはなかったんだが、結果そうなってしまってすまない」
とりあえず横殴りを謝っておく。横殴りは基本的にマナー違反だからな。まぁ、苦戦してたっぽいし文句は言われないと思うけど一応な。
「なんで謝るんだ? 加勢してくれて助かったぜ。ビーストに出会ったら基本逃げるしかないからな。誰かが囮になって逃げるかって段だったからな。本当に助かった」
野生的な女性はそう言って嬉しそうに笑う。うんまぁ、お礼を言われるとやっぱり嬉しいもんだな。
「勇人様、こちらの方はまだ息があります」
女性と話していると青龍が後ろからそう声をかける。
うん、俺も気になってたんだけど戦闘中だから意識から排除してたんだよな。戦場で一人だけ倒れてるのって、青龍が遠くから見たときに倒れた一人だよな。
「そうだ! アレン!」
野生的な女性も思い出したかのように叫び、倒れてる人に駆け寄る。このかたはアレンさんというのか。名前と見た目からして男性か。
「マザー! 頼む!」
野生的な女性がもう一人の線の細い美女に声をかけると、線の細い美女がアレンさんの元にかがみ込む。
マザーって多分敬称で名前じゃないよな? そういえばまだ名前聞いてない。
「アレン。じっとしててください。『奇跡:癒やし』」
線の細い美女がアレンさんに手をかざすと、その先が仄かに光だす。
おぉ、この人回復魔法の使い手か。奇跡とか言ってたから、多分俺が使う魔法とは違う体系の技法なんだろうけど。
しかし、なんだか女性の様子がおかしい。手をかざしながらプルプル震えてるし、顔にはびっしりと脂汗をかいている。
なんだか非常に辛そうであるが、対してアレンさんの方はあんまり回復してなさげである。
いや、傷は塞がっていってるし、顔色も回復しているのだが、その速度があまりにも遅い。
これ、俺がやった方が早くね?
「待った」
ちょっとあまりに見ていられなくて、線の細い女性を静止する。俺が彼女の手を掴むと、彼女の集中が途切れたのか、手の先の光が消える。
「な、何をするのです! せっかくの集中が──」
「『メジャーヒーリング』」
俺が回復魔法を唱えると、すぐさまアレンさんの傷は塞がり顔色も一気に良くなる。時間にして3秒ぐらいか? やっぱ俺がやった方が早かったな。
「な!!?」
線の細い女性だけでなく、周りの人間が全員びっくりしたように俺を見る。
「蘇生の奇跡をお持ちでしたか……。ありがとうございます。私では応急処置程度しか出来ませんので」
「いや、蘇生なんて出来ないぞ。俺は回復魔法を使っただけだ」
蘇生か。アドミンに蘇生のチート辺りを頼むべきだろうか。いずれ必要になりそな気がしてならないのだが。
「回復の奇跡ですか? しかしこの速度と回復量はどう見ても……」
なんか、話が噛み合ってないな。魔法だって言ってんだろ。ひょっとしてこの世界は魔法じゃなくて全部奇跡って表現するのか?
「とりあえず、落ち着けるところで改めて色々話がしたいんだが、いいだろうか?」
「あ、はい! 私たちのボルトに案内いたします。歓迎致します、他のボルトの神よ」
また、神扱いされた。これ否定した方がいいんだろうか。