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1.不定なるもの

「ふあぁ……ねむ」


 いつものように夢の世界から異世界に降り立つ俺だが、今回はとみに寝不足だった。理由は言うまでもなく前日にした桜とのトークだ。最近の女子高生は話が尽きることがないのか、不思議なレベルのトークの嵐だった。

 まぁ、それはともかく呼晶を使って青龍たちを召喚する。おっと、霊亀だけは召喚しないでおくんだよな。後で霊亀経由で桜を呼ぶから。

 そして、霊亀を使って桜を呼び寄せたところで、改めて周りを見渡す。


「なーんもない荒野だな」


「ですねぇ」「だねぇ」「よねぇ」


 青龍、白虎、そして桜が同意する。今まで森の中とかが多かったが今回は辺り一面の荒野だ。

 草一本生えてないので荒野というより砂漠と表現する方がいいかもしれないが、荒野だ。


「さて、こうも周りに何もないとどう行動していいか困るな。前みたいに飛び上がって周囲を見るまでもなく本当に何もないし」


「じゃ、とりあえずステッキでも倒して方向決めてそっちの方に行くって感じでいいんじゃないかな? どのみち指針なんてないんだし」


「それで行くか」


 白虎の方針に同意すると、俺はアイテムボックスから手近な棒状のもの──お、そういえばこれがあったな──であるラインハルトの杖を取り出すと地面に立て、手を離す。早速役に立ったぞアンジェ。


「こっちだな」


「こ、国宝をそんな使い方していいの……?」


 桜が不安げな目でこちらを見るが、問題ない。どのみち杖本来の使い道はできないんだしな。


「いいんだよ。少しでも役に立った方がアンジェも喜ぶだろ」


「絶対、文句言うと思うなぁ……」


「ま、ともかくこっちの方向に進むで決定だね。あ、ご主人移動するんなら、どうせならネットショッピングのチートの力に頼ろうよ」


 ネットショッピングのチートの内容に関してはすでにこいつらには伝えてある。だから、それを使おうと言うわけだが、


「あぁ、乗り物を出すのか。でも、俺運転できないぞ? 桜は?」


「高校生に車運転できるわけ無いじゃない」


 それもそうだ。当たり前のこと聞いてしまったな。


「運転なら私ができるよ。だからさ、折角なんでも買えるんだから装甲車買おう、装甲車。一品物じゃないからあるはずだよ」


「装甲車ってお前……」


 そう言いつつも、俺はネットショッピングの画面を開き装甲車を探す。UIはあいつが例えに出してたようにSabannaの画面そのままだった。なんでも揃いそうな画面してるな。


「装甲車って言っても、見た目は普通の乗用車なんだな……」


 俺がネットショッピングで見つけたのは確かに装甲は厚そうだが、見た目はジープみたいな感じで普通に公道を走ってそうな車だった。


「自衛隊とかの装甲車だとまた違うんだけどね。民生用なら装甲が厚い以外は普通に乗用車だよ」


 そんなもんか、と心の中で納得しながら、適当な装甲車を購入。すぐさま目の前が光に包まれ装甲車が現れる。

 うーん、チート。今までのチートもそうだが、これは輪をかけてチートだな。チャージ無限だから何でも買えるし。


「装甲車って……、高いんじゃないの? 勇人ってそんなにお金持ちなの?」


 桜がこちらの懐具合を気にして訪ねてくるが、その心配は無用だ。


「大丈夫だ。チャージ無限で買い物ができるようになってるからな。代わりに地球では一切使うことが出来ないんだが」


「チャージ無限って、何そのチートの権化は……。何でもやりたい放題じゃない……」


「まぁ、金で解決できるような事象はなんでも解決できるな」


「あ、そうだ。チートといえば、あたしが召喚でもらったチートちゃんと教えておくね」


「ん? 確か束縛無効じゃなかったか?」


「それが嘘だってことぐらい気づいてるでしょ? 本当はね、全状態異常無効よ。毒とか麻痺は言うに及ばず、拘束とか投獄なんてただの状態も無効化する正真正銘のチート能力よ!」


「うわ、何そのチート」


「アンタには言われたくないけどね。ま、そういうわけだから毒見とかは任せて頂戴な」


「それ、毒あってもお前が無事なだけで毒あるかは分からないやつじゃねーか……」


「あ……」


 こいつちょっと抜けてるところあるよな。


「よっしゃ、運転は任せろー!」


 俺と桜がチートについて話してると、白虎が鼻息荒く装甲車に登場する。運転してみたかったんだな。


「勇人様、私は上に乗って周りを警戒しておきます。私のアサルトライフルを出してください」


「アサルトライフル? 弓矢じゃなくてか?」


 レトロ武器スキーな青龍だったら絶対弓矢選ぶと思ったんだが。


「流石に車の速度で弓を射るのは現実的ではありませんからね。私とて状況に合った武器選択はしますよ。それに個人的な好悪で使用兵装を制限するのは愚かなことです」


 おっしゃる通りなんだが、青龍に言われるとなんかもにょる。とりあえずアイテムボックスから青龍のアサルトライフルと弾倉をだして青龍に渡す。

 しかし、地球で受け取った時も思ったが青龍はこんな武器を一体どこに保管していたのだろうか? 日本で銃器保管するのとか面倒なことこの上ないと思うんだが。

 青龍はそれらを受け取ると、ライフルの各部チェックをした後装甲車の上に乗り、ライフルを構える.


「ほら、ご主人も桜も乗った乗った」


 すでに装甲車に搭乗し、シートベルトも閉めた白虎がこちらに手招きをする。ていうか、いつの間にか桜のこと呼び捨てなのな。

 ま、俺も乗るとするかな。



    ※ ※ ※ ※ ※


「マジでなんもねーなー」


「なんもないねー」


 装甲車に揺られること20分。俺たちはいまだに荒野の只中を装甲車で疾走していた。


「これ、最初の行先が間違ってたとかないよな?」


「だとしても、今から戻ったところで迷子になるだけだよ。とりあえず突き当たるまではこのまま進もう」


 白虎とそんな会話をしていると、不意に天井から声がかかる。


「勇人様! 前方に!」


「お、第一村人発見か?」


「いえ、違います! あれは──」


 青龍のその声に前方に目をこらす。何も見えんな。こういう時は、


「『フィジカルエンチャント』」


 強化魔法を使って視力を強化。どれどれこれで──


「な、なんだありゃ!?」


「な、何!? 何が見えたの!?」


 俺の声に後部座席の桜が反応する。そうか、まだ見えないもんな。

 視力強化してみたそれは、なるほど一応は人型であった。一応と付けたのはその姿があまりに異形だったからだ。

 二本足に二本の腕、人型は一応しているが、その腕やら足やらからは無数の触手がうぞぞと生えて意思を持っているかのように蠢いている。

 顔面らしきものもあるのだが、眼球は剥き出して口からは鋭い牙と長い舌が出ている。どっからどうみてもクリーチャーです。本当にありがとうございました。

 なんて言ってる場合じゃなく!


「言葉では説明しづらい。とりあえず触手が生えまくったクリーチャーみたいなやつだ。青龍!」


「お任せを!」


 俺がそう一言声をかけると、青龍は天井から射撃を開始する。


 タタタタタタ!


 青龍が射撃を開始するとは今度は肉眼ではっきりとクリーチャーの姿が視認できた。青龍の銃撃を喰らい、少し怯んだかと思うと今度はこちら目掛けて突進してくる。


「な、何よあれ! 気持ち悪っ!」


「白虎!」


「あいよっ!」


 特に何も言わず、名前を呼んだだけで俺の言いたいことを把握したのか、ハンドルを切り、クリーチャーの突進コースを回避する。


「白虎、転進です!」


「オッケー!」


 クリーチャーを通り過ぎるとともに、青龍が叫ぶ。そして白虎がその言葉とともに、ハンドルを急旋回。180度車体を回転させると、今度はこちらからクリーチャーに突っ込む。


 タタタタタタ!


 青龍の射撃か再開され、クリーチャーにダメージを与える。


「うーん、効いてる気がしませんね」


 青龍はそう呟くと、射撃を中断する。そして今度は魔法を放つ。


「『グラビトロン』。よし、そのまま轢いてください」


 クリーチャーに重力魔法をかけ足止めしたところで、とんでもない提案をする青龍。しかし──、


「あいよー」


 白虎がその言葉に嬉しそうに反応し、一気にアクセルを吹かす。


「お、おい、本気か!?」


「舌噛むよ!」


 装甲車はトップスピードを出し、そのまま重力で潰れたクリーチャーに突進し──、


 グチャ


 タイヤとその重量でもってクリーチャーを轢き潰した。


「ふぅ、とりあえず危機は去った」


「爽快な顔しながら言うんじゃねぇよ」


「うう、なんか轢く時の車体の揺れが相手の凹凸が感じれて気持ち悪い」


 桜が後部座席で感想を述べるが、俺も同じ感想だ。


「いや、だってさぁ。人を轢くなんて普通に運転してたら出来ない経験じゃないか。面白いことを経験させて貰って私としてはホクホクだよ」


「一生したくないけどな、そんな経験」


 俺がそう返すと、白虎は何かにハッと気づいたかのような表情になり、バツの悪そうな顔を浮かべる。


「ごめん、さっきのなし。得難い経験を喜ぶなんてまるで朱雀みたいな物言いだった。あいつと一緒の土俵とか死んでもごめんだ」


 また出てきたな朱雀。青龍も俺が汚れるとか言ったりしてたけど、一体どういうやつなんだ朱雀ってやつは。白虎からも嫌われてるのか。ここまで嫌われてると逆にどんなやつか気になるぞ。


「どうも、あのクリーチャー相手では銃弾は効きが悪いようですね」


 白虎とそんな会話をしていると、天井から器用に後部座席に青龍が降りてきた。


「みたいだな。あんまり効いてない感じだった」


「魔術的防御があったって感じじゃなかったから、単純にしぶといだけっぽいねー」


「なのでこれはしまっておいてください。牽制にもならないのでただのデッドウェイトです」


 青龍にそう言われ、アサルトライフルを渡されたのでアイテムボックスにしまう。


「さて、とりあえず第一村人ならぬ、第一クリーチャーは発見したわけだけど、どうするご主人?」


「あぁいうのがいるなら人間もどっかにいるはずだろ。このまま最初に決めた方向へ走るってことで」


「オッケー」


「では、私は再び車体の上で警戒をしておきます」


「あ、ちょっと待った。一応さっきのクリーチャーの死体を回収しておく。人里で何かに換金できるかも知れんしな」


「うえぇ。よくあんな気味悪いの回収しようって気になるわね」


「やっぱ、まだ人の血とか苦手か?」


「いや、そっちは慣れたけど。こんなエイリアンみたいなのは慣れてないわよ」


 なんか、さらっと人の血にはなれたとか言ってるけどこの子色々と大丈夫だろうか? 日常生活とか送れる? まぁ、俺が言うことではないかも知れないが。

 とりあえあず、車から降りてアイテムボックスに先程の死体を回収しておく。回収して表示されたのは「不定なるものの死体」だった。


「なんだよ、不定なるものって……」


 アイテムボックスの名前は別に正式名称が表示されるわけではないのだが、どうも嫌な感じのする名前ではあった。


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