1話
ある、近くて遠い夏の日、窓から黒い何かが突然飛び込んできた。
私の家に不法侵入をしてきたその何かは、部屋の天井をゆっくりとぐるぐるとまわりながら、部屋に置いてあった樹の葉で作られた机にゆっくり止まった。突然のことに、私は身構える暇もなく、ただ静かにその光景を見ていた。
飛び込んできたものの正体はカラスだった。
カラスは机の上でキョロキョロと首を動かして何かを探していた。そして私を見つけると、何とも言えない表情で、クチバシで掴んでいた何かを地面へ放り投げそのまま飛び立って行った。
私は少しの間ぼんやりと放り投げられたそれを眺めると、放り投げられたものに近づいた。それは木の葉に包まれていた。
私は包んでいた木の葉を破り、中に入っていたものを取り出した。
私は中身を確認する前から、中身が何なのか大体分かっていたし、誰から送られてきたものか分かっていた。
ここを飛び出していった私の友達からのものだ。
私は必死に彼女のことを思い出そうとした。だがあの日々の事を思い出そうとすればするほど、嫌なものが霧のように頭に纏わりついて離さない。
「私が無事だったなら手紙を送るね」
そうだ。確か彼女はそういって旅立って行った。懇願する私を置き去りにして。
私は手紙を開き、そして彼女の書いた文章を読んだ。
やはりそれは私の知らない世界のことが書いてあり、私はただそれに嫉妬した。
この街を出る勇気が出なかった自分に、そしてここを出ていった羨望の気持ちをこめて。