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その夜、アイビーはカフェでの出来事を思い出していた。
「どう考えても私のほうがレヴァン様を幸せにできますわね。ライラ様の分までレヴァン様を幸せにしないと」
そう結論を出して眠りにつこうとするが、何かひっかかり眠れない。
「…眠れませんわね。こういう時は聖書を読み返すに限りますわ」
聖書と言っても、アイビーが人を愛することについて調べたことが書いてあるただの手帳である。
「…あら、これは」
手帳の一節を呼んでアイビーは深く考え込むのであった。
屋敷の一室に女性が二人と男性が一人。
そうレヴァンとアイビーとライラである。アイビー以外の二人は状況が呑み込めていない様子だがアイビーが話し出す。
「レヴァン様、ベルフラワー様、急なことで驚きましたわよね。私、先日ベルフラワー様とお会いして少し考えることがあったのです」
アイビーの言葉にライラは喜ぶ。
「アイビー様ありがとうございます!私のことを認めて下さるんですね!」
「違いますわ。」アイビーがぴしゃりと言う。
レヴァンは困惑した様子で言う
「この女が君に何か言ったのなら気にするな。もう関係ない他人だ」
「…ベルフラワー様が言うには駆け落ちは勘違いなそうなのです。それでレヴァン様はベルフラワーを愛しているはずだから私に別れてほしいと」
アイビーの言葉に一気にレヴァンの顔つきが恐くなる。
「私別れる気なんて全くありませんでしたし、レヴァン様にベルフラワー様のことを言うつもりもありませんでしたの。…でも気づきましたの。それは私の感情だって。」
「…どういう意味だ?」
「愛することの基本中の基本、相手の意思を尊重するということが足りてませんでした。一番大事なレヴァン様の意思を確認していなかったと反省しましたの。
私、レヴァン様を愛しています。だから選ばせてさしあげますわ。私とベルフラワー様のどちらがいいか」
そう震えながら言うアイビーの姿にレヴァン毒気が抜けたように笑うと続けた。
「そんなのアイビーに決まっている。俺はいつの間にか、可愛らしくて少し変で俺を一生懸命愛してくれる君のことを愛してしまったらしい」
そう言ってアイビーを抱きしめるとライラに向かって
「さしずめ男に捨てられたところで、俺が辺境伯になったと近づいてきたのだろうが今度近づいてきたらただでは済まさないから覚悟しておけ。さっさと出ていけ」
レヴァンに一喝されたライラは逃げるように屋敷を出ていった。
二人だけになった部屋でアイビーが泣きそうになりながら話し出す。
「…私、レヴァン様を愛せてないかもしれません。本当はレヴァン様にベルフラワー様のこと言いたくなかったのです。愛してるならすぐ言わなきゃいけなかったのに」
「…心臓が止まるかと思った。ちゃんとアイビーは俺の意思を確認してくれた。もし俺が逆の立場だったら絶対アイビーに話してないだろうな」
「…レヴァン様が私のことを愛してないからでは?」
「さっきも言ったが愛している。愛するという形にはいろんな形があって、誰かと同じにする必要はないから気にするな」
「そうなのですね。でしたら、やっぱりベルフラワー様のこと内緒にすればよかったですわ。もし選ばれなかったらと思うととっても怖かったんですもの」
「…可愛い」
こうして新旧婚約者対決は無事に幕を下ろしたのだった。
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