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「まさかレヴァン様に元婚約者がいて、さらには逃げられているなんて」
昨日の食事の後レヴァンから告げられた話は驚くべきものだった。ちなみに情けない話なのだが…と恥ずかしそうに言う姿はとっても可愛かったことはアイビーだけの秘密である。
そして今までの仕打ちについて謝られた。
アイビーにはまったく分からなかったが、自分を王都へ帰そうと企んでいたらしい。鍛錬の様子ばかり見せられたのもその一環だったようだが、目の保養にしかならなかった。
今は鍛錬しているところにアイビーが行くと、少し恥ずかしげにして逃げてしまうのだ。悲しい。でも可愛い。
「それにしてもレヴァン様は恰好良さと可愛さを兼ね備えているとは、なんとも恐ろしいこと。…もうすぐ結婚式ですが、順調にレヴァン様を愛せていますし問題ないですわね」
そんなことをアイビーが考えていたからかもしれない。あんな手紙が届いたのは。
手紙の主の指示通り、カフェに向かい人を探す。…いた。青紫色の髪に紫の瞳、あの女性で間違いないだろう。
「こんにちは。貴女がライラ・ベルフラワーさんですね?」
声をかけると女性がこちらを見る。儚げで庇護欲をそそる感じですわね。しかし髪には艶はなく、着ている洋服もくたびれている。いや悲壮感を出して同情を誘う作戦かもしれない。
アイビーが冷静に分析をしているとライラが話し出す。
「本日は、お呼びだてして申し訳ありません。ですが、どうしてもお話したいことがあったのです」
「それでお話というのは何ですの?」
「簡潔に言いますと、レヴァン様と別れて頂きたいのです。私はレヴァン様の元婚約者であることは手紙で書いた通りです。」
そうこの女性こそが、男と駆け落ちしたレヴァンの元婚約者のライラ・ベルフラワーであったのだ。
手紙には駆け落ちがレヴァンの勘違いであったことと、現婚約者であるアイビーと話したい旨が書かれておりアイビーはひとまずこの元婚約者と会うことにしたのであったが、それも間違いだったようだ。
「なぜ私が別れなければなりませんの?とういうか勘違いならレヴァン様に言えばよろしいのでは?」
「何度も手紙を送りましたが返信も来ず、話も聞いてもらえないのです。」
「それで私からレヴァン様に言ってほしいと?虫が良すぎますわね。」アイビーの言葉に一気にライラが気色ばむ。
「私とレヴァンは愛し合っていました。勘違いが解けたなら今も私のことを愛してくれるはずです。レヴァンを愛しているならレヴァンの幸せを考えてあげてください!」
「レヴァン様の幸せですか…」
ライラの言葉に、アイビーは少し考えてみるのだった。
1秒後。
「確実に私の方がレヴァン様を幸せにできますわね。私は貴族・領地の知識でレヴァン様を助けることが出来るだけでなく。身分、容姿とも文句のつけようがありませんもの」
アイビーがそういうとライラは負けじと言い返してくる。
「確かに私はアイビー様に比べたら劣っていますけど、そんなことは関係なく愛する人と一緒にいることが一番の幸せのはずです。」
「しかしベルフラワー様は勘違いといえ、一度レヴァン様を傷つけて失敗していますもの信用できませんわ。それにこうも思うのです。ベルフラワー様がレヴァン様を幸せにするなら私がその倍レヴァン様を幸せにすればいいって」
「…なっ」
ようやくライラはアイビーが普通の令嬢と違うことに気が付いたようだ。普通の令嬢なら元婚約者の出現に狼狽え、傷つきレヴァンとの関係もギクシャクするだろう。そこに付け入るつもりだったのだが、この令嬢は気にもしていない。
「お話がそれだけでしたら、私帰らせて頂きますわね。ごきげんよう」
アイビーはそういうと優雅に席を立って帰っていった。
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