海底都市アトランティス【ショートショート】
「海を見てみたい」
そう何度思ったことだろう。
だがそれが叶うことはない私達人類は壁に囲まれた
かごの中の鳥なのだから
そんなことを考えていると、家に商人がやってきた。
「これはこれはお嬢様今日もお美しいでございますねー」
「そうね。それで今日はどんな商品を持ってきたの?」
この商人はいつもお世辞を言うおかしな奴なので適当に流して置くのが吉だ。
「はいはい本日も面白い商品を取り揃えておりますねー
まずはこちらの腕の生えた水晶でございますねー
そしてお次は運気が下がる魔導書でございますねー」
このおかしな商人はいつもヘンテコな商品を持ってくる。
おかしな奴が持ってくるものは、おかしなものということだろうか?
私が商品説明を話半分に聞いていると、信じられないものが目に入った。
なんと商人がなんの変哲もないペンを持っていたのだ。
私は困惑しながらも目に入ったペンについて訪ねた。
「んーそうですねー
お嬢様は波というものをご存知ですかねー?」
またかと私は思った。
この商人の話はいつも予想もしないところから始まる。
「えぇ、知ってるわ。
何でも海の水面で起こる高低運動のことだとか。」
波については大昔に書かれた書物で見たことがあった。
大好きな海についての書物だったので、何度も読み返したはずだ。
「では波の音は聞いたことがありますかねー?」
私は首を横に振った。そんなこと聞くまでもない。
だって遠い昔私達の街が青い壁に囲まれてから、海へ行く方法など存在しないのだから。
「それでその波の音がどうしたの?」
私はこのおかしな商人がついに脳みそがとろけてしまったのかと思いながら聞いた。
「えぇ実はですねー。今回は波の音が聞こえる商品を持ってきておりますねー」
もし本当なら興奮を抑えきれないところだが、そのようなものはどこにも見当たらない。
「いったいどこにそんなものがあるの?」
「そこでございますねー」
「まさかそのペン!?」
「えぇそうでございますねー
そのペンで文字を書くと波の音が聞こえてきますねー。
大昔のものなので詳細はわからないのですがねー
どうやらどこかにある海から空間歪曲させて音を持ってきているみたいですねー」
商人には悪いが仕組みなどどうでも良かった。
私はすぐ様そのペンを購入した。
それから私は来る日も来る日も波の音が聞こえる文字を書いていた。
しかしそれは長くは続かなかった。
「これは何が起こってるの? うっ 熱っ」
ヒュゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドボォーン
どうやらあの波の音を出すペンが暴走して、壁の外側に飛ばされたようだ。
「いっ息ができない」
私は薄れゆく意識の中看板が浮いているのを見つけた。
そこにはこう書かれていた。
【アトランティスへようこそ】