小夜子さんは、小学生です。
小夜子さんは、普通の一般家庭に産まれました。
父と母と兄が二人。
お母さんはどうしても女の子が欲しかったらしく、小夜子さんが産まれた時、それはそれは大層喜んだそうです。
小夜子さんのお父さんは、自由な人でした。
小夜子さんには、お父さんとの思い出がほとんどありません。
いつも、家にいない人でした。
お仕事で全国を飛び回る人でした。
たまに休みがあっても、小夜子さん達を置いて、どこかへ出かけてしまう人でした。
でも、小夜子さんは寂しいと思ったことはありません。
寂しいと思うのは、持っているものを失くした時だと、小夜子さんは知っています。
『最初からいない』お父さんは、小夜子さんにとってはどうでもいい人間でした。
持っていないものはなくなっても、最初からないので気づくことすらありません。
小夜子さんのお母さんは、とても厳格な人でした。
小夜子さんに、清廉潔白であることを求めました。
小夜子さんに、完璧であることを求めました。
小夜子さんがテストで96点を取った日。
小夜子さんはとても喜びました。
クラスで一番でした。
みんなに褒められて、小夜子さんはますます嬉しくなりました。
先生は小夜子さんに言います。
「家に帰って家族に見せてごらん。きっと喜んでくれるよ」
小夜子さんは、急いで家に帰りました。
お母さんがお仕事から帰って来るのを待って、小夜子さんは得意気に答案用紙を見せました。
「すごいでしょ、クラスで一番だったんだよ」
お母さんの反応は、淡々としたものでした。
「理解できた96点より、取れなかった4点の原因を考えなさい」
小夜子さんはその夜考えました。
そうだ、きっと100点を取れば、お母さんは笑ってくれるんだ。
満点を取れなかった自分がいけないのだと、小夜子さんは思いました。
それから懸命に勉強しました。
先生の話を良く聞き、宿題もきちんとこなし、分からないことは分かるまで質問しました。
努力の甲斐あって100点を取った小夜子さん。
先生は褒めてくれました。
クラスのみんなも褒めてくれました。
これできっと、お母さんも褒めてくれる。
小夜子さんは急いで家に帰って、わくわくしながらお母さんの帰りを待ちます。
帰ってきたお母さんに自慢気に答案用紙を見せた小夜子さん。
お母さんの反応は、やはり淡々としたものでした。
「今回の100点を、どうやったら次回も取れるのかを考えなさい」
小夜子さんはそれから完璧を目指します。
どうやったら100点を取り続けられるのか考えます。
必死で必死で、勉強しました。
お母さんが認めてくれる自分になる為に。
ある日、先生が言います。
「今回も小夜子さんがクラスで一番です」
そう言ってみんなに見せた答案用紙は、98点でした。
小夜子さんは顔を真っ赤にして俯きます。
それは、嬉しさからくるものではありませんでした。
だって、恥ずかしいのです。
100点でない答案用紙なんて、ただの欠陥品なのです。
そうする内に、98点の答案用紙さえ、誰にも見せることが出来なくなってしまいました。
――ねえ、神様。どうしたら小夜子は頭が良くなれますか?