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一文字  作者: しゅばるつ
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第肆話【授けられた使命】

「いってえ……。どこだ、ここ……?」


 気が付くと、(じん)は見覚えのない建物の中にいた。

 辺りを見渡すと、どうやら木造の部屋らしく、あらゆる家具が置いてあり生活感がある。

 あの女が住んでいる場所なのだろうか。


 ふと、尽は先程起こった出来事を思い返す。


「腕……ついてるよな……。いったい何だったんだ……」


 一人部屋でそう呟くと、まるでそこにあるのを確かめるかのように腕をさする。確かに腕は存在した。

 斬られたはずの肩口は、接合部に何の違和感もなく、まるで斬られてなどいなかったかの様に綺麗であった。


 夢だったのか?


 一瞬そう考えてしまう尽だったが、あの今まで味わったことのない痛みと恐怖は、まぎれもなく現実であった。

 ふと視線を下に向けると、足元に御守りが落ちていた。


「これがあいつらの欲しがっていた……中、開けてみるか」


 今まで御守りを開けたことは一度もなかった。

 父親に固く禁じられていたし、別段開けようとも思わなかったからだ。

 きつく結ばれた紐をほどき、袋を逆さにする。


 中から出てきたのは【火】と刻まれた球体だった。

 透明の水晶玉のようであるが、仄かに紅く光を放っている。


「あいつの言っていた通りだ……。これが、(ぎょく)……?」


 尽がそう言うと、玉をのせていた左の手のひらが燃えるように熱くなった。


「あっつ!!!なんだ!?」


 あまりの熱さに、つい玉を落としてしまう。

 左手を確認してみると、玉をのせていた場所が軽く火傷してしまった様だった。

 畳の上に落ちた玉を見てみるが、特に変化はない。


「何が起きたんだ……?」


 手を近づけてみると燃えるように熱いが、畳が燃える気配は全くない。


「あいつらはこんなのが欲しかったのか?」



 ヒュンッッ!!!



 尽が一人でうなっていると、目の前に光とともに先程尽を守ってくれた女が現れた。


「これでよし、と。尽、大丈夫だった?腕以外にけがはない?」

「――!さっきの女!あいつらは何者なんだ!?お前は俺の味方なのか?」


 畳みかけるように質問をする尽に対し、女は一つ一つ冷静に返した。


「尽、少し落ち着いて。そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前は夜桜(よざくら)波留(はる)。あなたのお父さんである赤城(あかぎ)(えん)の同僚よ。今日はあなたと話がしたくてここに来たの。予想外の客人がいたみたいだけどね」

「父さんの同僚……!じゃああんたが父さんの言ってた――」

「あんたじゃなくて夜桜さん、ね。そうよ。私が、今日あなたが会う予定だった人物よ」


 尽はあらためて夜桜をまじまじと見つめる。

 すると、何処かで見たことがあるような気がしてきた。


「あんた、前にもどこかで会ったことあるか……?」

「……そんな訳ないじゃない。それより、他に何か起こらなかった?」


 夜桜にそう聞かれると、尽は一人でいる間に起こった出来事を説明し、手のひらを見せた。


「火傷してるわね」

「さっき中の玉とやらを触ってみたんだが、触れると同時にすごい熱を放ったんだ。今も俺が触ろうとすると熱くなる」

「あなたの力に反応してるのよ」

「しかし、俺はこの御守りを3年間ずっとつけていたけど、こんなことは一度もなかった」

「それは、この袋が玉の力を遮断するように出来ているからよ。私の知り合いが開発したの」


 夜桜は落ちていた袋を拾うと、尽に手渡した。


「これが……?」

「そう。いまのあなたじゃこの玉は使いこなせないから、袋の中に入れときなさい。それに、そのほうがきっと安全だわ」

「……まるで俺がこれを使わなきゃいけないような口ぶりだな」

「当たり前じゃない。何のためにあなたが持ってると思ってるの?」


 尽は夜桜の台詞が信じられなかった。

 先の出来事を思い出すだけで頭が痛くなる。

 

「冗談じゃない!これを使うってことは、さっきの奴らみたいな連中にまた襲われるってことだろ?だったら大人しく渡しちまったほうがマシだ!」


 尽がそう叫ぶと、夜桜に強く頬を叩かれた。

 彼女の顔は今までになく真剣だった。


「あなた、お父さんの気持ちを無駄にする気!?」

「――ッ!それは……」


 父親のことを出されると尽は口ごもってしまった。

 先程の会話でも父親の名は出てきた。いったい彼は、そして自分は何者なのだろうか。

 尽が喋り出せずにいると、彼女のほうから口を開いた。


「……あなた、さっきの戦闘で一度だけ彼らの攻撃を防いだんじゃない?」


 尽は驚いて目を見開いた。


「なんでそれを……!?お前、あの時から見ていたのか?」

「直接見てはないわ。あれはね、焔があなたを守るために御守りにかけておいた、一度きりだけの防衛術なの」

「父さんが……!」


 衝撃だった。

 あの時、首が裂かれなかったのは奇跡だと思っていた。

 だがそれは違った。あれは、まぎれもない父親の愛だったのだ。


 心配性だった父さんのことだ。死ぬ瞬間でさえ、自分のことよりも置き去りにされる俺のことを心配くれたんだな。


 そう思うと、ふと涙が出そうになった。

 自分の中で、いや、この玉の中でまだ父親が生きている。

 尽の考えが変わるのに時間はかからなかった。


「……どうやったらこれを使えるようになるんだ?」

「あなたならすぐ出来るようになるわ。でもいまはこれを持っておきなさい。」


 夜桜は軽く微笑むと、前に玉を取り出していた箱から、新たな玉を取り出す。


「なんだこれは?」

「私からのプレゼントよ。【火】の玉は扱うのが難しいから、まずはこっちを使いなさい」


 尽はそれを受け取ると、じっとそれを見つめた。

 見れば見るほど不思議な造形をしている。


「このレベルの玉が使えるようにならないと、【火】の玉を扱うのは難しいわ。まあ、私が一から特訓してあげるから安心しなさい」

「……いまさらだけど、この、玉ってのはなんだ?」

「あら、焔から何も聞いてないの?そうね、玉って言うのは……一言でいえば、軍事兵器よ」

「兵器!?」

「そう。あなたも見たでしょう。この玉は身体を変化させて戦うことも出来るし、暗いところで明かりを放つことだって出来る」


 鬼灯のことを思い出した。

 確かにあいつは、明かりを付けて尽を見つけ出し、自らの手を変形させて襲い掛かってきた。


「人殺しの道具、ってことか」

「……極端に言ってしまえばね。でもそれだけじゃないわ。この力は人を守ったり、癒してあげることだって出来る」


 今度は夜桜が来てからのことを思い出した。

 盾で尽を守り、完全に切り離された腕を元通りにしてくれた。


「道具って言うのは、何だって使い手次第なのよ。私は玉を悪用する人間が許せない」


 夜桜の眼が険しくなった。

 尽は一瞬目をそらして、少し考えた。


「でも、あいつらはあれだけ強かったのに、なんで俺のを欲しがっていたんだ?」

「それほど、あなたの【火】の玉は強力なのよ。彼らはおそらく、それを使って何かを企んでるわ。だからこそあなたは強くならなきゃいけないの」

「それなら何処かで、俺のものと同じ玉を手に入れられたらどうするんだ?」


 真っ当な質問だった。

 いくら尽が強くなったところで、結局彼らが手にしてしまうなら全く意味がない。


「玉っていうのは、基本的に同じものは二つ存在しないわ。全てが一点物なの」

「だったら、同じものを作ってしまえばいいじゃないか」

「そう簡単な話じゃないわ。同じものを作ろうとしても、せいぜい贋作止まりなの。特に【火】の玉のようなレベルの高いものはね」


 じっと足元にある【火】の玉を見つめる。

 これがそんなに特別なものだったなんて、尽には信じられなかった。

 ただの御守り、それだけのはずだったのに……。


「ほら、分かったらさっさと【火】の玉をしまっちゃいなさい。それと、今日はこれ以上外に出るのは危険だから、ここに泊まっていっていいわよ」


 そう言われて、尽が【火】の玉をなんとかして御守りの中に戻していると、夜桜は畳の上に布団を二組敷き始めた。


「あ、お風呂とかご飯は大丈夫?」

「それは出る前に済ませてきた」

「そ、なら大丈夫ね。じゃあ寝ましょうか」


 先程までの話からは考えられないほど呑気な口調であった。


「ちょ、ちょっと待て、もし奴らがここに来たらどうするんだ?」

「それは絶対にないから大丈夫よ。じゃあおやすみ~」


 そう言うと夜桜は、尽などほったらかしにして寝てしまった。


「おい!ほんとに大丈夫なのか!?ったく、なんなんだよ……」


 全く反応のない彼女に尽は悪態をつきながらも、布団の上に身体を放り出した。

 御守りを掴み、胸の上で高く持ち上げる。


「父さん、俺はどうしたらいいんだ……?」


 心の中にいる父親に語りかけるが、当然返事など返ってこない。

 今日は色々なことがありすぎた。なるべく多くのことを思い出そうとするが、身体は思いのほか疲れていたようで、意識は一瞬のうちに彼方へと消えていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 目が覚めると、見慣れない天井と、味噌汁の良い香りが広がっていた。

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