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101番目の婚約者

作者:

我が王国の唯一の皇太子には、現在とある噂が囁かれている。



【皇太子は子種がないのではないか】



我が国は一夫一婦制ではない。子を成すことは王族にとって何よりも重要なことだ。


その為、性に関してもかなり緩い。


王族の子は15才で成人を迎え、それと同時に婚約者を選定する。



後宮には様々なタイプの貴族の娘がやってきた。


公爵令嬢もいれば、子爵令嬢もいたりと階級は問わず、10人の年頃の娘が入宮してきた。


成人の儀が終わり、皇太子の後宮巡りは始まった。



しかし、数年経っても誰1人として子を成すことが出来なかった。


国王は新たな婚約者を後宮に入れることを決めた。


今度は前回の倍の人数で、身分も豪商の娘など貴族の身分に問わず召し上げることにした。


これならば、すぐにでも子が出来るだろうと国王は楽観的に考えていた。



だが、予想を裏切り、それから数年経ってもやはり子は出来ないままだった。



焦り始めた国王は、手当たり次第国の年頃の娘を皇太子に宛がい、形ばかりの婚約者の身分を与え、閨に招き入れた。



そうして、100人もの女性が皇太子の婚約者として閨を共にしたが、やはり誰1人として子を成すことは出来なかった。



皇太子、ジルベルトはそんな日々に辟易していた。


50人目を過ぎた頃には半ば自棄になり、侍女や女騎士にまで手を出したこともあった。


だが、結果として残ったのは、己の絶望と失望の目だけだった。



もういっそ、王位継承権を放棄したいと何度も思ったが、俺にはそれが出来ない事情がある。



それは、この国の王位が、第一子にしか継げないからだ。



国の王座など、誰でもなれるだろう。


多くの者がそう思っているだろう。だが、我が国は違う。



我が国は、王位を継ぐ者にだけ現れる痣がある。


その痣は、第一子にしか現れず、その者は膨大な魔力を持って産まれるのだ。



城の地下には、代々の王だけが入ることを許された神殿がある。


そこはこの国を守るための守護の力を注ぐ為の場所であり、この国が他国に侵略されず、平和であり続けられる為に重要な場所であった。


地下への扉は、王位継承権を持つ者だけが開けられる。


過去に一度だけ、第一子が戦争で亡くなり、第二王子が国を継ごうとしたことがあった。


だが、それは上手くいかなかった。


王位を継ぐ前に流行り病で王族は全て亡くなったのだ。


国は荒れ、他国からの侵略も始まり、当時の騎士団長が前線に立ち、なんとか持ちこたえ城に戻った。

騎士団長の身重の妻が出産したと聞き、駆けつけた彼が見たのは、王位を継ぐ者に現れるという痣を持った我が子の姿だった。



彼は仮初めの王になることを決めた。


亡くなった第一王子は彼の親友だった。王子を守れなかったとずっと後悔していた彼にとって、これは贖罪の意識もあったのかもしれない。


我が子が成人するまでの仮の王だ。他国にこれ以上侵略されないよう、武力で対抗すると決めた。



そうして、今の俺の代まで続いている。


言うなれば、俺はその2代目王族の家系の末裔というわけだ。

だから、どんなことがあってもその約定を違えてはならない。



この国を守るためにも、俺自身の感情など関係ない。何よりも火急で最重要な事案だった。



だが、巷でもどんどん噂になっている。


俺は、子が成せない身体なのではないか、と。

この国が滅亡へと進んでいるのではないか、と。


そんなことあってたまるか!!


こっちがこんなに苦労して政務や討伐をこなして国を守っているのに、それが全て無駄だったっていうのか!?


神様がいるのなら、もう少し俺に優しくしてくれてもいいんじゃないのか?


俺はすっかり女性不振に陥り、閨でどんな美人を抱いたとしても、楽しむことなんて出来なくなっていた。


性欲は問題なくあるので、身体はちゃんと反応するし、経験だけは豊富だから、相手を喜ばせる術も知っている。


だが、心が動かない。

何をしても義務感しか感じなくなってしまった。


人を愛しいと思う心をどこかに置いてきてしまったのかもしれない。



俺は途方に暮れていた。


気付けば俺は25歳の誕生日を迎えていた。


成人から10年の月日が経ち、100人というバカみたいな数の婚約者とは未だに懐妊の兆候すらない。


現在後宮には、その全ての女性がいるわけではない。

一夜限りの婚約者もいれば、最初から後宮にいた者がまだ残っていたりもする。希望する者がいれば、降嫁もした。


でなければ、可哀想だ。産まれるかもわからない、こんな女だらけの場所に閉じ込めたいわけではないのだから。。



今日は誰と閨を共にしようか、俺はぼんやりと考えながら夜の庭園の中をふらりと歩いていた。


薔薇園の近くにまでくると、すすり泣く声が何処かから聞こえてくる。


誰だ?

こんな時間に女が出歩いているはずがないんだが…


俺は腰に差していた剣に手をかけ、周囲を警戒しながら、声のする方へ近付いた。


薔薇園のすぐそばにある噴水の前に、その声の主はいた。こちらからはよく見えないが、蹲っている様子が窺える。


「何者だ」


警戒を顕に鋭い声を掛ける。すると、小さな影はビクッと震えた後、固まり動かなくなった。



「何者かと聞いている」


「…あっ、わ、私…」


不安を滲ませた声が返ってきた。もしかしたら泣いていたのかもしれない。


俺は少しだけ警戒を解き、再び彼女に声を掛けた。


「脅かして悪かった。だが、年頃の娘がこのような時間にこんな場所にいるのは感心しないな」


「……ぃ」

「…?」

「……知らない…っ」


「知らない、とは?」


この娘は何が言いたいのだろう。訳がわからず聞き返した。


「私、こんな場所知らない……っ!!ここ、どこなの!?私を元の場所に返して!!!」


彼女は興奮しながら、俺に食って掛かってきた。

俺の袖を掴み、強気な発言をしてみせたかと思えば、その手は震えて、顔は俯いたまま。どうやら泣いていると思ったのは間違いではないらしい。


その強さと脆さのアンバランスな危うさに興味が惹かれ、俺は目の前の華奢な彼女を抱き締めた。


抱き締めて驚いた。彼女はとても身体が冷たかった。今は秋とはいえ、そろそろ寒くなる季節だ。それなのに、目の前にいる彼女は、腕を出し、更には足も晒け出した、今まで見たこともない服装を纏った少女だった。


「部屋に行くぞ」


「ひゎあ!??」


俺が彼女を抱き抱えると、なんとも可愛らしい反応をしてみせる。


「へ、部屋って…っ!!」


彼女の声から動揺が伝わる。だから、俺は努めて冷静に彼女に返した。


「身体が冷えている。このままでは風邪をひくぞ。いいから黙って抱かれてろ」


「だっ、抱かれてろ…って言われても…っ」


月光に照らされ仄かに見える彼女の表情は、暗いながらも照れているのが伝わってくる。

初々しいな。こんな風に反応されると、いたずらしたくなってくるじゃないか。


「そんな恥ずかしがるな。襲ってくれと言ってるようなものだぞ。」


「そ、そんなこと望んでないですから!!」


「ははっ!!そうか、だったら大人しくしてろ」



この俺にこんな口を聞くやつは、今まで1人としていなかった。


新鮮な彼女の反応が面白くて、俺はもっと彼女の色々な顔を見てみたいと思うようになった。


初めは介抱するだけのつもりだったんだが…



部屋に付き、彼女をベッドに寝かせ、暖めてやると言って布団に潜り込み彼女を抱いた。



最初、彼女は抵抗したが、次第に俺の愛撫に蕩けるような表情になり、俺のことを求めてきた。



途中で処女だということは気付いたが、その時にはもう止められないほど俺は彼女に欲情していた。



こんなにも女に溺れたのは初めてで。

優しくしたいと思っていたのに、気付けば彼女が気を失うまで抱き潰してしまった。


こんなことは初めてだ。



明日起きたら、彼女の名前を聞こう。

そして、彼女を正式に後宮に招きたい。


彼女のことをもっと知りたいんだ。



俺はこの時の判断を後で何度も後悔した。



*****************************

翌朝目覚めると、俺の部屋から彼女はいなくなっていた。


俺はすぐさま側近のリエンを呼びつけ、彼女を探すよう命じた。


彼女は、この国では珍しい、黒髪黒目の少女だったのだ。

名前がわからずとも、すぐに見つかると思っていた。



だが、彼女はどんなに探しても見つからなかった。



それから約1年後、俺は唐突に悟った。

俺の第一子がこの世に誕生したことを。



父親である国王にも確認したから間違いない。

特殊な産まれである王族故に、同じ王族同士通じているものがあるらしい。

俺が産まれたときも、魔力を感じ取ったのだと言う。

ならば、この感覚は間違いなく、俺の子の波長だ。


そして、俺と閨を共にしておきながら、その存在を知り得なかったのは、彼女だけしかいない。



俺は自身の内に眠る魔力の源を辿り、必死に血族の居場所を探った。


そうして大体の位置を把握すると、彼女に悟られないよう、周囲を調べあげ、彼女の住んでいる場所を特定した。


その過程でわかったことがある。

1つは彼女の名前。

そして、もう1つは、彼女が異世界からの迷い子だということ。



それを知ったとき、俺は全てのことに納得した。

いくら探しても見つかるはずがなかったのだ。俺の運命の相手は異世界にいたのだから、と。。。




「サクラ」


「んー?なぁに………っ…。

……あ…あなたは…っ」



背後から声を掛けた俺に彼女は振り返り驚愕の表情を浮かべる。


「ずっと探していた。

貴女を愛しているんだ。

私と結婚してほしい。」


俺は、彼女の前に跪き、彼女の手をとりその甲にキスをした後、顔をあげた。


「初対面で貴女を傷付けてしまったこと、今でも後悔している。でも、私には貴女が必要なんだ。一生をかけて愛すると誓うから、どうか私のものになってほしい。」


見つめ続けていると、彼女の顔はどんどん赤くなり、嫌われてはいなかったのだと、安堵した。


「…っちょっ!!こんなところでやめてください!

お忍びなのかもしれませんけど、王族ともあろうお方がこんなところで庶民に頭下げちゃダメですよ!!」


周りに聞こえないように小声で話しかけてきた。あんなことをした俺に、怒るどころか気遣いまでしてくれる。


やはり、彼女がいい。



俺は彼女に連れられ彼女の住む部屋に移動すると、誠心誠意彼女に愛を囁き、ついでとばかりに国の事情についてかいつまんで話した。



ある程度は街の住人から聞いてはいたのだろう。彼女は多少驚きの反応を見せつつも、思っていたよりすんなり事情を飲み込んでくれた。


話している最中も、表情豊かに動く彼女の顔を見つめていると、キスをして抱いてしまいたい衝動になり、抑えるのに必死だった。

時々漏れ出しているのか、彼女が物凄く真っ赤な顔になったり、目を逸らしたりする度に、俺は自身の高ぶった熱をおさめるのに幾度も全神経を注いだのだった。



なんとか彼女の説得に成功し、俺は晴れて、彼女、サクラとわが息子を城へ連れ帰ることに成功した。



一夫一婦制の国で生まれ育ったというサクラの為に、後宮は解散した。


なので、当然ながらサクラは唯一の妃だ。


「王妃なんて、聞いてないんですけどー!!!!」



サクラは城の片隅でひっそりと住むのだと思っていたらしい。そんなわけないのに。



混乱の真っ只中にいるサクラをベッドに連れ込み、1年ぶりに抱いた。もう我慢の限界だったのだ。

翌朝サクラが足腰立たないくらいまで抱き潰してしまったが、反省はしていない。


あの日の朝のことは軽くトラウマになっている。俺は彼女を抱き締めて寝るのが日課になり、第二子もそう遠くない未来ですねと、王宮内で言われるほど、俺は彼女を溺愛したのだった。

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