〜二章 精霊ティア〜
~精霊ティア~
模擬戦を終えた二人は食堂に向かう事にした。
普段ならイリスが作るのだが疲労を考えての事だ。
「昼時を過ぎたから割と人は少ないね。」
「うん。昼の食堂は軽く戦場だもんね····皆大食いの人ばかりだしこの時間帯だとあまり料理も残ってないもんね」
イリスはバイキング形式の料理の残りを見ながら言う
ギルドの食堂 「月桂の食卓」 は朝と夜はメニューによる注文を取っているが昼のランチだけはバイキング形式なのだ。
なんでも通常メニューだけだと食材が無駄になる為昼時に一気に作りまくるらしい。その為メニューに無いものも作られるのでギルドメンバー全員の楽しみの一つになっている。
「お!いらっしゃいマスターにイリスちゃん今から昼飯かい?」
「ええ、ウルゴスさんバイキングはあまり残ってないみたいだから適当に見繕ってもらえないでしょうか?もちろん料金は別で出しますよ。」
二人に声をかけてきたのは 「月桂の食卓」のマスターだ。名をウルゴスと言う。見た目は50代のおっさんだが元冒険者でギルドの主軸を担っていた事もある。ライカが敬語を使う数少ない人物の一人である。
今は現役を引退しかねてからの趣味であった料理に本気で取り組んでいる
「がっはっは!マスターの頼みだちょいと待っててくれ残りの食材で何か見繕ろう。金はいらんぞ?食材をいつも調達してくれとる礼だ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えますね」
ライカは丁寧に返答すると近くのテーブルに座る。
それに合わせてイリスも座って待つことにした。
◇
しばらく待つとウルゴスが料理を持ってきた。
「はいよ!とりあえず前菜を食べながら待っててくれ。アボカドとトマトにモッツァレラチーズ、オリーブとソルトで味付けしたカプレーゼだ。」
「カプレーゼって····ウルゴスさんの見た目的には想像出来ないね」
「おうよ!イリスちゃんそれがギャップ萌えと言うヤツだろ?」
「あ、あははっ·····」
イリスの失礼な発言も気にしないウルゴスだが正直に言えばギャップ萌えはない····と言うか筋肉マッチョのおじさんに言われても暑苦しいだけな気がする。
普通ギャップ萌えとはリーシャのような天真爛漫ないかにも料理など出来そうにない人が実は大得意とか言うような場面で使うのでは?
いや、カプレーゼは美味いよ?素材を生かすとはこう言うことなのだろう。ウルゴスは料理の腕は一流だからね。
と思いつつライカはカプレーゼを食べていた。
ウルゴスは再び厨房に戻っていったのでイリスもカプレーゼを口にしていた。
◇
少し経った位だろう。人がまばらになった食堂に新しい客が来店した。
独特の存在感を持ち、まるで神話の中に出てくるような少女だ。
髪は薄緑に光り、後ろ髪は床につくほど長い。
本来耳がある部分には天使のような翼が生えており一目で人外だとわかる。
眠そうで少しジト目のような瞳の色は濃いアメジストを連想させる。
エルティアギルドの契約精霊・ティアだ。
表情を変える事なくライカ達を見るとトコトコと歩いて来た
「ティア?珍しいね食事はあまりしないイメージなんだけど。」
精霊は基本的に食事を必要としない。
大気中に満ちるマナを吸収してエネルギーを獲得しているので食べる必要がないのだ。
「··········ハマった。」
食事にハマったと言う意味だろうティアは口数が驚くほど少ない。
見た目がとても可愛いのだがどうにも人付き合いが苦手らしい
口数が少ないのもあるが更に大きな理由がある。
「ティアちゃん、今からお昼なら私達と一緒に食べない?今ウルゴスさんが作ってくれてるんだけど?」
「·······待つの······めんどう。」
「あ、あははっ····。」
はい会話終了イリス本日2回目の苦笑いである。
ティアが人付き合いが苦手な最大の理由はこのマイペースさである。
別に俺やイリスを嫌っている訳ではない····と思う
ただティアは誰に対してもこんな感じなのだ。
ティアはそのままバイキングの方に向かい大皿に残っている料理をしこたま入れていく食べきれるのかあれ?
「ライカ~私ティアちゃんに何かしたかな?いつも素っ気ないし会話続かないし割とショックなんだけど?」
イリスが涙目で訴えてくる。
ここにイリスが来て随分経つがティアの態度には未だに慣れないらしい。
「大丈夫だよ。ティアは口数が少ないだけだからいつもあんな感じじゃないかそれにほら?」
イリスをなだめながらティアの方を見ると大皿にギリギリまで料理を盛ったティアがテーブルに戻ってきた。
「ん。」
一緒に食べる気はあるという事だティアは大皿に盛られまくった料理をテーブルに置くとイリスの隣に座るとそのまま料理を食べ始めた
イリスもティアが戻って来たのでホッとした顔で黙々と料理を食べるティアを見ていた。
「もぐもぐ···········食べる?」
眺めているイリスが欲しがっているように見えたのだろうティアが
大皿に盛られた中から唐揚げを差し出してくる。
「えっと·····じゃあもらうね。」
そう言うとティアの差し出してきた唐揚げを小皿に分けてもらい食べ始めた。味は言うまでもないウルゴス特製の唐揚げだ時間をおいても外はカリカリ中はジューシーなのだ。
二人で食べる姿を見ながらライカは和んでいた。
◇
ウルゴスから作られた料理が運ばれてきた。
メニューは在り合わせと言うには中々の品揃えだったその品とは
ポテトのバター香草焼き
キノコのグラタン
魚のキッシュ
デザートにフルーツの盛り合わせと来た。
「さあ!しっかり食べてくれ冒険者は身体が大事だからな!」
ガハハと笑いながらウルゴスは厨房に戻っていった
メニューは4種類だが量がヤバい軽く見ても6人前はある
「あ、あはは···これはすごいね。」
はいイリス本日3度目の苦笑いです。
確かに量がヤバい頑張っても3人前が限界だ
とりあえず食べ始めるがやはり食べきるのは難しいだろう
せっかく作ってもらったのに残すのは申し訳ない
「····食べて····いい?」
以外な助け船はティアだ。よく見ると山盛りだった大皿は空になっておりティアは俺たちの料理を見ていた。
と言うよりその小さな体のどこに入った?あの量。
ただありがたい申し出だ
「ああ、構わないよ。好きなだけ食べてくれ」
俺の許可にティアが嬉しそうに少し微笑むと食事に手をつけ始めた
ティアの参戦によりウルゴスの料理は無事全て平らげたのだ。
◇
食事が終わり3人でお茶を飲みながらまったりしていた。
ティアはお茶を飲み終わると席を立ち食堂から出ていこうとしていた。
俺は忘れないようにティアにステータス更新の話をした。
「あと···行く······ライカの·····部屋」
どうやら今日更新してくれるようだ。たまたま食堂で会えたのは運がよかった明日になれば探すのも一苦労だからだ。
ティアはそのまま食堂からでて行ったので俺とイリスはそれを見送った。
「とりあえずどうしよっか?後でティアちゃんが来てくれるなら部屋に戻る?」
「多分夕方まで来ないよ。ティアの事だから今からどこかで昼寝じゃないかな。」
夕方までは暇だからこっちものんびりするとしよう