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先天後天総合能力学校(仮題  作者: 世界・異世界・魚介
1/1

ワイアット・カッシーニ


 緑の草原が地平線まで広がる大地。その真ん中を黒くて長い固まりが走っていた

 横たわる大きなボイラー。下にはボイラーを乗せても潰れないほどの強度と、大きさを兼ね備えた複数の車輪と、それらを繋げる鉄の棒


 その真後ろには申し訳ない程度の運転席が、更に後ろには水と石炭を備え付けた炭水車がある。炭水車は水と石炭をボイラーに供給し、機関車は走る


 あとは乗客車両が五つに、貨物車が二つ

 乗客車両は進行方向から見て左側に廊下があり、右側には個室が五つついている。進行方向を向いて座れる人が三人。それとは逆を向いて座れる人が三人の。合わせて六人ほどが座れ。一車両に約三十人が乗れる造りだ


 貨物車は、乗車している計百五十人以上の荷物。それに始発の駅や途中止まる駅で乗せる配達便などを詰め込んでいる


 機関車の後続車両の一つ。三両目の前から二番目の個室に、とある少年が寝息を立てていた

 焦げ茶色の髪がうなじまで伸び、後頭部の真ん中付近で一つに縛っている。黒いロングコートで顔の半分と身体を包み、行儀悪く椅子に両足を乗せて丸まって寝ていた


 足下には大きな大きなトランクが一つ。中には彼の日常生活品と生活に必要なお金を数多く入れた大切なトランク

 これを誰かにとられたら彼はもう盗賊に身を落とすしか無いだろう


 一人寝ている個室の上半分に曇りガラスの張られた扉を開けて二人の老夫婦が入ってきた

 少年のトランクを狙ってきた者ではない。ただ単に人の少ない個室を選んだだけに過ぎなかった


「まあ、こんなに小さな子が一人旅かしら?」

「きっと疲れているんだそっとしておこう」


 老夫婦は黙って少年の向かいに腰かけた。それから二人は急速に遠ざかっていく景色を見ながら、起こさないように時を配りつつ小さな声で話を続ける


 老夫婦が少年の寝ている個室に入ってきて一時間ほどが経過した。一時間も話をしていれば話の種も無くなり、少なからず沈黙が増えていく

 そんな時に少年は椅子から足を降ろし、ロングコートから顔を上げた。コートは臍よりもやや上で止まる


 寝ている時になったのか、襟が不自然に立つ無地のシャツ。彼自身の身体よりも少し大きめの服を来ており身体の線は解りづらくなっている

 不細工ともイケメンとも言えない平均的な顔をした十二、三歳程の少年は、灰色に近い色の目を擦りながら向かいに座る二人をみた


「起こしてしまったかな? 相席失礼するよ」


 男性の言葉に少年は頭を下げる


「あ。いえ、おかまいなく。僕の名前はワイアット。ワイアット・カッシーニです」


 幸の薄そうな顔で笑うワイアットと名乗る少年は、続けて老夫婦の名前を聞く

 会話の種が切れかけていた二人にとってはまたと無い種。直ぐさま二人は名前を答えた


「ジャナサン・ガートさんに、ラシエット・ガートさんですか。よろしくお願いします」


 本当に子供かと疑ってしまう様な丁寧な話し方に違和感を覚えながらも会話を楽しむ

 機関車の終着駅は、首都に最も近い街・カペインナ


 その街は首都に近いが為に観光客も多く。住んでいる人口もかなり多い。学校もあれば図書館だって、軍の支部も大きく

 朝は市場が賑わい、夜には気分よく酔っぱらった大人達が行き交う大通り。国で一番の教会があったり、遊園地


 老夫婦は観光でカペインナにいく予定なので地図を拡げながら話を進める。とにかく着いたらなにがしたいか。どこに行きたいかの話になるのは必然だった


「へえ、知りませんでした。こんなにも色んな場所があるんですね」

「ええ、特にカペインナは文学にも力を入れててね。能力学校が三つもあるのよ」

「ああ、それなら僕も知っています。僕は一応受験生なので」


 ワイアットの言葉に老夫婦は驚いた


「ほお! もしかしたら君は未来の英雄かもな!」

「あはは、残念ですが僕は英雄にはなれません。後天の能力者ですから」


 能力

 それはまさに魔法の様な力


 火や水、土や風といった自然現象だったり

 人の傷を癒す事のできる超常現象だったり


 科学だけでは説明の着かない力の事である


 能力には大きく別けて二つのパターンがある

 それが『先天』と『後天』だ


 『先天』は産まれる前から能力が開花していると言われ、自分だけではなく。環境にまで影響を与える強大な力

 『後天』は産まれた後に能力を開花させた物で。先天とは違い、自身の体力を消費しつつ能力を使用する。環境にも影響を与えられず、どれだけ才能があっても先天には敵わないとされる力


「そうなの。ごめんなさいね家の人が無神経な事言って」

「いえいえ、構いませんよ」


 微笑み返答したワイアットはふと窓の外を見た


「あれ?」


 視界に数秒映ったのは停まるはずだった駅

 通り過ぎた駅を含め終点まで四駅のはず。よく見れば、心なしか機関車の速度も速い。悩んだのは一瞬


 直に思考を切り替えた。何かが起きている

 なにが起きているのか想像もしたくもない。しかし、自分にはなにができるのか直に思いついた


 でも、行動には移さなかった


 ワイアットが目を瞑った直後、が三回車内に響き渡る

 予想の着いていたワイアットはどこ吹く風な反応だが、向かい側に座るガート夫妻は耳を抑えて縮こまる


「あ、あなた今のって」

「ああ、間違いない。発砲音だ」

「全く世の中物騒ですね」


 しばしの静寂のあと、ざわつき始めた車両。例に漏れずワイアット達の居る個室も騒がしくなった。それを掻き消すかのようにもう五発の轟音が響く

 先ほどよりも近くで聞こえた。耳を澄ませば、この車両以外からも微かな発砲音が聞こえる


 ここでワイアットは勘違いに気がつく。彼の予想では最初の三発は威嚇射撃

 列車強盗がこの機関車に乗りましたよ。と言う。強盗側の合図、または目撃者の排除。どちらかかと思った


 しかし、更に五発というのには違和感がある。発砲音のする所に五人とまではいかず、三人以上でいくとは考えづらい。そこに、音が近づくと言うオプションが着いて。正確に現状を理解できた


 今、機関車内でなにが起きているのか

 その答えは勿論、列車強盗以外の何物でもない


 ただし、この機関車を襲っている者達は車内に居る者を全員殺すつもりという事だ


 血液検査や科学捜査の発展が著しくないこの国では、生存者から取れる犯人の人相が一番の手がかり

 列車の乗客を皆殺しにする事件など、早々聞く話ではないが。それでもワイアットは自分の勝手な決めつけを悔いた


 左手でコートを自分から引っ剝がし、閉じ切った扉に右耳を当てて張り付く


「ワイアット君。危ないで—」


 夫人は言葉に詰まった

 壁に張り付く少年の腰には左右の腰に二つ、後ろ越しに大きめのが一つ。合計五つのポーチが備え付けられ。右太腿に黒い鉄の塊がつり下げられていたからだ


 身体に合わせてかその全長は二十センチほど。決して大きくないその塊が、拳銃だと直ぐに理解できた

 茶色い革製のホルダーから飛び出ているグリップを握るワイアットは、夫人の声を完全に無視して廊下を歩く足音だけに集中する


 足音は誰か一人だけが歩く音。動かずに誰かが見張っている可能性を考えると動き出しづらい。歩く音以外には、チャラチャラと薄っぺらい金属が床に落ちる音が数回聞こえる

 その数秒後に、耳を澄まさずとも聞こえる音量で隣の部屋の戸が勢いよく開かれ、一回だけ発砲音が聞こえた


 一車両で客室は五つの部屋。三つ目の部屋が終われば必然と次ぎにくるのはこの部屋だ


「どうやら僕は相当ツいて無い星の元に産まれたようですよ。父さん」


 ゆっくりとホルスターから銃を抜く少年はどこか諦めた様な声を出した

 左手でコートを頭から被ると、装弾数六発の回転式拳銃を重工が床を向くようにして片手で持ち、片手で扉に手をかける


「おい! この部屋の荷物も持ってけ!」


 そんな野太い声が聞こえた。敵はやはり一人ではない

 確信するワイアットは扉を開けて外に飛び出した


 ロングコートでほとんど身体の隠れた少年は、低い姿勢のまま廊下に飛び出し。背丈の高い男に拳銃を向ける

 飛び出てきた者に反応して背の高い男もまた銃口を進行方向に向けた


 二発の轟音が同時に鳴り響く


 悲鳴を上げたのは背丈の高い男だった。彼は銃を持っていた右手前腕から血を流して踞る

 ワイアットは続けて、もう一度発砲し、今度は男の左手から鮮血が散った

 仲間の叫びにワイアットの見ていた前方から男が三人飛び出してきた


 やはりワイアットは迷わず三発発砲。手前の男から、右肩、右肩、左肩を撃ち抜いた。それぞれ撃った方と同じ側の太腿にホルスターがつり下げられていたのだ


 シリンダーを手前に引き、左側に押し出すと。シリンダーの中央に着いたエジェクターを押し込み五つの空薬莢と一つの弾丸を排莢する

 そこから左のポーチに手を突っ込むと六つの弾丸が着いたクリップを用いて込め直す


 最後に右から左へと素早く拳銃を振り、シリンダーを手早く元の位置に戻した

 一連の動作はどれだけ練習したのか一秒そこらで終わる


 コートをフードのように被ったまま顔の見えづらい少年は、男達に近づいて一人一人の頭を拳銃のグリップでそれはもう勢いよく叩いていく

 まるでなれた作業をするように四人の男達を気絶させるとワイアットは元いた部屋に戻ってきた


 扉の前に立ち、影のかかった顔で怯える老夫婦を見つつ口を開く


「お二人は死体に抵抗が無ければ二つ隣の部屋で隠れていてください

 僕はこれから他の車両の状況を確認してきますので、もし他の強盗がここに来たりした時、死体に紛れ込んでいればバレづらいでしょう」


 言い切ったワイアットが踵を返して部屋を出て行こうとした時。夫人の悲鳴が聞こえ、つい足を止めて夫人を見てしまった

 夫人の目線はワイアットには向いておらず、彼のやや上を見ている


「ッ!」


 気がついたワイアットが動こうとした時にはもう遅く。最戸拳銃を構える前に、轟音が鳴り響く

 廊下に立っていた見知らぬ男が放った弾丸は、ワイアットの右側頭部に吸い込まれ、まだ若い少年をフローリングの床に仰向けに倒した





 キーワードの通り拳銃初心者ですのでご了承ください

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