第7話
「さて、入り込んだのはいいけど、どうやって、ロボットに信号を送り込もう」
司が言った。
「直接、コードをつなぐしか方法はないよな…」
そう言って、達也は、背中のリュックから、長いLANケーブルを取りだした。
「それ、何メートル?」
「確か、10m」
「一番長いもの?」
「いや、店には、50mまで置いてあったけど、そこまで長くなると、持ち運びにくくなるからね。それに、懐具合が…」
「とりあえず、進もう。
ここでずっとたむろっていても、何も始まらない」
司達は、どうにか見分けがつくアスファルト塗装された道をゆっくりと進みだした。
一方で、どうにも戦局が見えなくなっている人類は、内部分裂が進みだした。ロボットと和睦をすべきと言う派閥と、徹底抗戦をすべきと言う派閥が、いい争いを始め、そこに、ロボット部隊が急襲。あっという間に、その場にいた全員が惨殺された。こうして、人類は、ロボット帝国の中に入る事を余儀なくされた。しかし、部分的に、まだ闘っている場所もあり、その場所に人類は集まっていた。そうした場所の中で最も大きいのが、司がいた高校であった。
高校職員と軍部の合同会議にて。
「現時点で、379箇所でレジスタンス活動をしていると言う報告があります。しかし、そのうちの41箇所のみしか、向こう一ヶ月以上活動し得ないと言う状況です。どうしますか?校長」
彼女は、こちらを見て言った。
「どうするも、戦うしかないだろう。ロボット3原則と言う域の中から出て、新たな原則を創るようにしなければならない」
報告した人は、黙り込んだ。
司達は、どうにか山を一つ越えたところで夕暮れを迎えた。
「今日は、この周りで野営するしかないな」
司達は、草むらに隠れ、身を寄せ合うようにして、眠った。久美子は、ずっと起きていた。
翌日、司達が起きた。
「あれ?久美子早いな」
すでに、久美子は立ち上がり、何か作業をしていた。
「たった今、衛星通信網に侵入成功したの。そこから類推すると、この近くに、ロボットがいる。それも、結構階級が高い」
「じゃあ、それに…」
久美子はうなずいた。
「ボクとつなげばいい。でも、それには相手に直接つなぐしかないから…」
「命をかけるのは、ここにいる全員が覚悟の上だ。だからこそ、こんな物を持ってきた」
司達は、それぞれ持って来た荷物の中から、武器を取り出した。司は剣、美春はダイヤモンドカッター、達也は金属バット、玉緒は電気ショックの鞭だった。
「どうやってそんなもの手に入れたんだ?」
司は美春に、達也は玉緒に聞いた。二人は同時に答えた。
「通販で買った」
司と達也は顔を見合わせて笑うしかなかった。久美子は、少しうれしそうだった。
「じゃあ、行くよ。今、そのロボットを呼んだ所」
確かに、耳を澄ませば、駆動音が聞こえてくる。こちらに慎重に近づいているようだった。
「みんなは、隠れていて」
「あいよ」
ロボットが来た時には、怪我をした振りをしている久美子だけになっていた。彼は、近づいてきた。
「お前は何者だ」
なぜか、流暢な日本語だった。
「私は、初期世代です」
その言葉が合図となり、4人が、同時に多方向から、彼を抑えた。
「君達、自分をどうするつもりだね?」
丁寧な言葉とは裏腹に、殺意のこもった口調と目で見ていた。
「久美子は、ロボットだが、他の4人は違う。俺達は、人間だ。彼女と知り合ったのは、偶然性の一致と言うものだ」
彼は、自壊を試みていた。しかし、その行為は、全て久美子に阻止されていた。
「じゃあ、行くよ。これで、ボクの意識自体が消散してしまうかもしれない。これで、お別れかもしれない」
「久美子…」
達也が、優しく抱きしめた。
「大丈夫だ、俺達は、久美子の事を忘れないから」
そして、そのまま、LANケーブルを久美子の首筋のジャックに差し込んだ。その瞬間、久美子の体から、意識がなくなった。しかし、それと同時に、彼の体も崩れ落ちた。
1日の間に、全世界中のレジスタンスの活動箇所が、半減していた人間側は、その事を理解できなかった。
「どうしたんだ?なんで、ロボットが活動を止める?」
校長は、良く分からないような顔をしていた。
「誰かが、ウイスルでも送ったのでしょう」
「一体、誰が?」
「私には分かりかねます」
しかし、本心は気づいていた。
司達は、久美子の体を囲って、待っていた。彼女が帰ってくる時を、しかし、彼女の意識は、戻ってこなかった。
司達は、同じ経路をたどり、しかし今度は海軍の協力の下、学校に戻ってくる事が出来た。出て行ってから、ちょうど1ヶ月経っていた。
学校に戻ると、校長が待っていた。
「おかえり、みんな。久美子は?」
「………」
「そう、分かったわ、久美子の体、持ってる?」
「え、ええ。背負っています」
玉緒は、背負っていた久美子の体を校長に預けた。
「ありがとう、明日、彼女を見つけた所に来てもらえるかしら」
「構いませんよ」
「じゃあ、その時に」
校長の学校に入っていく背中は、間違いなく、お母さんであった。




