第4話
月日は経ち、いつの間にか、せみが鳴きだしていた。あの時から、私が見るたびに、久美子はぼんやりとしている事が多くなっていた。"死"について、考えていても、私達には、何も言わなかった。
「おはよう。司」
「ああ、おはよう」
司は、寝不足のように、あくびをしながら、美春に答えていた。
「なんだ?司。寝不足か?」
「ああ、達也か。実は、ちょっと、考え事をしていたら、いつの間にか、朝になっててな…」
再び、あくび。
「考え事?」
美春が言った。
「お前さ、今週の週末暇って、言っていただろ。だから、ちょっと、一緒に出かけて見ないかなって、そう思ってな」
司は、赤くなりながら言った。美春は、一瞬何を言っているのか分からないような顔をしてから、
「え〜!」
と、驚いていた。
「美春は、ちょっと反応遅いわね」
久美子と一緒に、玉緒が席に座った。美春は、すぐに久美子の下へ言って、さっきの事を言った。
「ちょっと、聞いてよ。司がね、デートしようって」
「ふーん。いいんじゃない?」
あまり気乗りしないような感じで、玉緒が返事をする。
「それだけ〜?」
美春の返事を聞いて、達也がすかさず提案する。
「そうだ!二人に便乗して、俺達も、行こう」
あまり、気乗りしていない玉緒も、とりあえず発言する。
「え〜、まあ、いいけどさ」
「じゃあ、決まりだな。いつ行くんだ」
達也は、司の方をじっと見ながら言った。
「予定としては、今週だけど…」
「土曜日?」
達也が確認する。
「ああ、そうだ」
「じゃ、土曜日に、3丁目の時計台の下で集合な」
「勝手に進めるなよ。ま、その予定だったがな」
「じゃあ、その日に、Wデートだな。さて、どこに行こうか」
その時、今まで何も言わなかった久美子が話に入ってきた。
「ねえ、それに、ボクも行っていいかな?」
「ああ、別に構わないよ。なあ、みんな」
司が、残り3人を見回して言った。全員が頷いていた。
そして、その週の土曜日、高校の近くにある3丁目のあまり高くない時計台の下にて、約束の時間となった。向こう側から、美春が走ってくる。
「ごめん〜、待った?」
「いや、今来た所だから大丈夫。もうすぐ、玉緒と達也も来るはずだから。あ、そうそう、久美子は、もう来ているからね」
美春からみて、時計台の死角に、久美子が時計によりかかっていた。
それから、2分もしないうちに、玉緒と達也が来た。
「うん、大体時間どおりだな」
「達也はいつもそれだからな。もうちょっと、時間を守ろうよ」
「あ〜、はいはい、分かったよ。とにかくだ、どこいくんだ?」
「とりあえず、これ、見てみ」
司は、全員に、とあるチケットを配った。
「なに?このチケット」
「この近くの映画館のチケットで、その映画館に入ると、同列会社が開発している遊園地に入る事ができるんだ」
「いつの間に、こんなもの入手したの?」
「……聞かないで」
「で、何の映画してるの?」
美春が、司に寄り添いながら言った。
「…実は」
みんなに、その映画の題名を話した。
「あたし、それみた事ないよ。「ゲームの中の世界」って、どんな話しなの?」
玉緒は、達也と司を交互に見ながら言った。
「さあな。チケットを入手したはいいけど、どんな中身かなんて、知らないからな」
司が、全員に対して言った。
「それって、通称無責任って言うんだよね」
「自分の辞書に、無責任なんて言う言葉はなーい!」
堂々と言ってのけた。
「とりあえず、行こ。時間、あまり使いたくないし」
美春の一言で、その映画館に行く事になった。
「いや〜、あんな映画だったとはね〜」
映画を見終えて、5人が映画館から外へ出る。
「でも、現実味があったけど、あの伝説、本当にあったりして」
「遥か昔、こことは別次元において、世界が二つに割れた。そのうち、片割れはこちらの世界とつながった。そして、その世界、死を知らず。ただ、自らの意志により、死を選びし者は、向こうの世界にて、一生を過ごす。っていう、あの伝説が、本当にあるとは思えないな」
「まあ、空想上の産物だろうけども、面白かったような感じがする」
「中途半端な意見だな。ま、いいけど」
「じゃあ、次どこ行く?」
玉緒が、達也を見ながらいう。すぐ後ろに、久美子がいた。
「………」
「どうした?久美子」
「…なんでもない」
「じゃあ、遊園地の方に行こうか」
「このチケット使って?別売りにしないぐらいだから、しけてるんじゃない?」
玉緒が、司の意見に対してストレートに切り込んでいく。
「じゃあ、どこ行くんだ?」
「…うみ、とか?」
「この近く、確かに海はあるけど…」
「よっしゃ、じゃあ、海に決まりだな。でもさ、この時期、海水浴なんてできねーぞ。どうするつもりだ?」
「ううん、ただ、海を見たかっただけなの。ただ、それだけ…」
「夕日を見ながら、恋を語らうカップル…それだけで、絵になりそうな光景よね〜」
玉緒がうっとりとした表情で言う。司が、それを受けて言う。
「じゃあ、海だな。この通りを下って行くと、すぐ、海辺だ」
司達は、歩き出した。
「夏だ!海だ!」
「どうでもいいよ、達也。それよりも、どう?こんな飲み物」
玉緒が持っていたのは、粘液性のジュースだった。
「なに?このどろりとしたジュースは」
「いいから、いいから。飲んでみて」
全員に行き渡った事を確認すると、一気に飲み干した。桃の味がした。
「なんか、へんな味がする…」
「うん、なんて言うんだろ、この感覚…」
「だめ、俺にはあわない」
だが、久美子だけは、なにも言わずに、飲み干し、座りながら、そのまま海を見ていた。それに気がついた美春は、久美子のそばに行った。
「どうしたの?」
「え、あ、ううん。なんでもない…」
悲しい顔をして、ずっと、海の向こうを見ていた。
「なんでもないわけない。話してごらん。楽になるから」
久美子は座りながら、美春に言った。
「実は、仲間が死ぬ事について考えていたんだ。ボクも、仲間を失った。でも、ボクの気持ちが、他の人と同じとは限らない。だから、考えていたの。でも、どんなに考えたとしても、結論が出なくて…」
「映画館から出た時、なにも言わなかったのは、そのせいね」
久美子はうなづいた。美春は、微笑みながら言った。
「それで当然よ。結論が出ないで」
「え?」
「他人のことを考えるのも重要だけど、時には、自分と向き合う時間も必要。その過程で、結論が出ない事もある、矛盾に出会う時もある。でも、それを乗り越えていく事が、人間なの、命なの。だから、そんな事を考え続けても意味がない。考えたい時に、考えればいい。私はそう思っているよ」
ちょっと離れたところで、司達がいた。まだ、ジュースの事の話をしていた。美春と久美子は立ち上がりながら、彼らの元へ向かった。
帰り道、達也と玉緒は、まだジュースの話をしていた。すぐ後ろで、司と美春と久美子が並んで歩いていた。久美子が言った。
「今日はありがとうね。なんか、胸のもやもやがスッキリした」
「そう、それはよかった」
美春と久美子が言った。司は、二人に聞いた。
「一体、何の話だ?」
二人は、ちょっと目を合わせて言った。
「秘密!」
そして、二人は、走った。明日と言う、新しい道に向かって。何者にも邪魔をされない、新しい道へと。




