第16話
キリオテテスに侵入した一行を見届けた、上空の監視衛星を操っている事務局、人類圏総合指令センター長兼校長の、渡辺眞里子は、その情報を、全ての大陸支部に伝送した。そして、各軍の被害状況の確認を問い合わせた。
「アジア大陸、既に、3分の2以上を侵略され、20億人以上がやられました」
「アフリカ大陸は、今のところ主だった被害はありませんが、これからが問題だと思います。すでに、中近東からエジプト方面へと、着実に、侵略を進めています。現在の所、アフリカ出身の兵は、1億人弱被害にあいました」
「アメリカ大陸は、さまざまな種類の爆弾が雨のように降ってきており、10億人がやられたという情報があります」
「ヨーロッパ大陸は、地中海東部の方向から、徐々に侵略が始まっています。今の所、2000万人程度が死亡したという情報があります」
「オセアニア大陸については、現在、電波異常の影響で、通信途絶中です。何かあれば、連絡を」
校長が、オセアニア大陸について伝えた。そして、全ての大陸支部に対してこう伝えた。
「先日伝えました、司君達、この高校の卒業生達のキリオテテス侵入について、まったくそれ以後の情報はありません。この戦争に勝つためには、さまざまな障壁を乗り越え、人類圏として一体化して戦う必要があると思われます。それを考慮すると、この時点で、世界政府として、人類圏国を作るべきだと、私は、ここに、公表します」
「人類圏国…国連の枠組みをさらに広げるようなものか?」
「そう考えてもらっても構いません。ただ、私は、それが必要だと思います。それぞれの、支部で話し合い、国連臨時総会場である、この高校に、伝えてください」
そして、校長は、画面と音声を同時に切った。
「ふー」
疲れたように、一気に息を吐き出した。
「あの子達は、大丈夫だろうか…」
気が付くと、つぶやいていた。
司達は、あの通路を抜け、建物の中に入っていた。重力場の中は、けっこう、過ごしやすかった。さまざまな種類のロボット達が動いており、あちこちで、戦闘に出動するためのロボットが動いていた。
「ここで待て」
そして、ロボット達は、そのまま、どこかへ彼らをおいて行った。
「どうしようか」
「この場所を動いたら、なにをされるか分からない。だからこそ、こんな、道のど真ん中において行ったんだと思う。どこからでも、不審な動きをした途端に、狙撃できるように」
確かに、この周りには、比較的高い建物が集中していた。そして、この道路の交差点を中心として、町は、構成されているように感じた。しかし、この都市の大半は、ロボットの組み立ての為の工場群にみられた。
「総力戦だな…」
司がつぶやいた。そして、周囲を見回した。先ほどから完全に形が変わらない基本的デザイン。直方体の棒が、あちこちに長さを変えて育っているような感覚を受ける町並み。どこもかしこも白一色で、何も楽しみがなさそうな世界。色が付いているのは、空と影とロボット達だけだった。
「よくこんな場所で生きてられるね。俺は無理だな」
「人間には耐えられないと思うね。こんな世界は」
「そして、我らは再び戦う」
話している時、突然後ろ側から、そんな歌が聞こえてきた。
「そして、我らは再び戦う。何も無くなりし時、手を差し伸べるものに対して、何も消え去りし時、友情を語るものに対して、何もかも見失いし時、暖かさを授けてくれるものに対して、気を付けよ!世界は既に動いている。神々は、見守ってはくれぬ。運命こそ、我らの自由なるもの。気を付けよ!世界は常に動いている。神々は、我らを見放す。全ての物は、我らが手にすべし物」
そして、歌は終わり、そちらを振り返った。そこには、人がいた。
「ようこそ。キリオテテスへ。我が、この世界、ロボット共和国首相の神野口治田だ」
「これはどうも」
司は、神野口を睨みつけた。そして、言った。
「さあ、我が首相官邸へ。招待しましょう」
彼らは、招かれるがままに、とにかく行くしかなかった。
「ここが、首相官邸?」
そこも、白い直方体だった。窓の一つも外から判断できなかった。
「そうです。上原さん。さあ、中へどうぞ」
周りは、銃を持ったロボット達で囲まれていて、逃げ出す事はできなかった。司達は、中に入るしかなかった。
「それで、なぜ、あなた方は、このロボット共和国首都である、キリオテテスに入ると言う、暴挙をなされたのですか?」
「きつい事を言いますね。自分達は、あなた方と和睦をするために来たんですよ。人類圏国の使節としてね」
「なるほど。おっしゃる事は分かります。なにせ、既に人類は駆逐されているのですからね」
彼が指を鳴らすと、そこに、スクリーンがするすると降りてきて、それに、世界地図が表示された。そこには、青と赤、2色のコントラストで表示された地域分けがされていた。
「これは?」
「青が、我が軍。赤が、君達の軍だ。今、世界の領土の半数が、わが国のものだ。残りも、すぐに我々の手の中に入るだろう。世界は、もうすぐ、我の物になる」
「…どうでしょうか。ロボット共和国と人類圏国の戦争は、そちら側次第によっては、この世界は、何もかもなくなるほどの核戦争になるでしょう。人間どころか、ロボットが、動く事すらできない事になる可能性もあります。そんな世界にいたところで、神野口さんは、楽しいですか?それとも、たった一人で、誰も周りにいない状態こそが、望むものなのですか?」
「…」
久美子に諭されるように話されて、何かを考えているようだった。
「あなたは、ロボットの何が分かるのですか?」
「私自身がロボットです。だから、逆に、人間の考えることの方が、よく分かりません」
「……いいだろう。だが、条件がある」
「どのような?」
「ロボット共和国側の領土については、人間が住めないと思われるものを相談の結果決定し、そこを全て領土とする。それと、その領土の管轄権は、完全に我らの手の中にあり、全ては、我らの法律、条令、その他いろいろの指定されたものについて従ってもらう。人間圏については、ロボットについて、優勢であるための法律を施行してもらう」
「最後は受け入れられませんね。だが、人類とロボットの平等を言う事なら可能ですね。それを守らせるために、双方から一定の人数を出し合い、評議会を結成し、そこに全ての権限を集中させると言うものも、可能です」
「決まりだな。ロボット共和国首相、神野口治田。それに、人類圏国特別大使代表、上原司。それぞれが交換文書を交換し、世界を一つの政府によって、変えるべきだろう」
この時、神野口の心の奥底には、何かを考えているかどうか分からなかったが、それを叶えられる事はなかった。交換文書調印式には、さまざまなところから、人々が集まった。戦争は、こうして終わった。
「やれやれ、ようやくの母国だ」
「司!あれ!」
海軍の船で送られた、司達は、何ヶ月ぶりに帰ってきたか分からなかった。この戦争によって、世界中の人口は、戦争前の1%になった。その一方、ロボットの数も、戦争前の3%になっていた。美春は、船から降りる時の、人々で、地面がまったく見えなくなっている、その場所に降りた。
「どうしよう…こんな事になってるなんて…」
人々は、口々にこの戦争を終わらせた人たちを祝福した。
「万歳!万歳!」
声は、一つの言葉を天にまで届く勢いで言っていた。
ロボット共和国と人類圏の和睦が成立してから1年後。正式に、条約が締結され、戦争は正式に終結した。そして、一時的に、世界政府が樹立された。ロボット共和国と人類圏国の間に立ち、さまざまな仲裁をする機関として、世界政府の全権を握る機関としての、評議会が結成された。そして、そのメンバーの中には…
1年前、あの戦争を終わらせた、上原司、桜井美春、宮崎達也、東間玉緒、若草久美子、箱根宥嶽、上原小太郎、上原高戸、宮崎領一、宮崎戸酉、宮崎毬亜、計11名の総称として、呼ばれ始めた尊称であった、11人の英雄達と言う呼び方は、すでに、全ての人々の中に浸透していた。そして、彼らが、人間圏側の代表として、評議会の中に入った。
「中央評議会を開催するこの時にあたり、世界は、混沌の中にある。それを救い出す事がこの評議会の目的である。戦争によって、さまざまな地域、人、ロボットが、傷つけあってきた。その事をかんがみ、この世界は、人類=ロボット国として、再統一をする必要があると思う。だが、今はその時期ではない。時期が来れば、自ずから、今のように連邦制を敷かずとも、どうにかなるだろう。現在、ロボット側の領土は、全地表面の6割。残りは、人類圏側の領土になっている。この評議会は、第1回開催時に、首都の決定、領土の確定、ロボットと人間の境目に付いて協議する事になっている。今回は、首都について…………………………」
こうして、第1回会合では、首都や領土についてが決定された。
首都については、爆撃を受けた、ニューヨークが制定された。ここには、国連本部ビルがあったからである。一時的に、その建物を借り、第2回目以降の会合を定期的に開いた。
そして、ちゃんとした建物が建設され終わってから、ちょうど、第15回目の会合の時に、正式に、協議会は、世界政府ビルの中に作られた部屋に入る事が出来た。
その後、3年経ってから、世界政府発足から18年後の時、評議会は、その役割を閉じ、新たに、人類=ロボット国として、一つの国として再発足した。その政府は、あの、評議会の面々と同じだった。
「こうして、新しい世界へ踏み出す事が出来たのも、ここに集まってくださり、これを見てくださり、何もかも、全て、人類とロボットの協調の賜物だと考えております。これを以て、世界政府はその過渡的役割を閉じ、人類=ロボット国として、正式に、一つの国として世界を牽引して行く事になるでしょう。この偉大なる時に、我らは生きることが出来ました。これからの事は、今、子供である、次世代へ引き継ぐ事になるでしょう。我々は、政権から去ります。しかし、この偉業は、人々の心から去らないでしょう」
そして、世界政府の人々は、人類=ロボット国の方へ、さまざまな権限を移譲した。評議会は、解散した。
「やれやれ、これで本当に終わりなんだな」
さらに、何年も経った時、どうにか一軒家を買うことに成功した司と達也が、懐かしむように言った。
「なに?懐かしいの?」
お隣同士になった彼らは、地下室を作り、そこをそれぞれの家の下にまで広げた。地下室には、掘りごたつを作り、みんな、そこでいろいろ話をしていた。
「いやいや、懐かしいの懐かしいんだけどね…」
その部屋には、久美子と宥嶽がいなかった。
「久美子達は、元気にしているかなって…そう思ってね」
「彼女達は、大丈夫。今でも、人類=ロボット国閣僚として、生活をしているみたいよ」
すでに、子供達は、独り立ちしており、この地下室には、司、美春、達也、玉緒しかいなかった。時々、子供達も来るのだが、それでも、めったに来なかった。
「どうも、こんにちは」
久美子が帰ってきた。
「あれ?久美子。政府の方は、どうした?」
「ん?大丈夫。あっちの方は、今休暇中なの。それを利用してここに来たんだ。宥嶽は、研究所の方に向かうって。自分が生まれ育ったところをもう一度確認したいからって」
「なるほどな。まあ、入れよ」
そして、再び、5人になった。
「久しぶりだな。この5人が揃うのって。高校にいた時、自分が間違って開けた久美子のあの機械。あれが、全ての始まりだったのかな?」
「小さい一歩も、時には、未来を変える力を持つの。どんなものが、未来を帰る事になるかは、後々にならないと分からないけどね」
「校長、今も元気だと。あの人も変わらないね」
「とりあえず、私が、司に告白したのも、達也達が付き合っているって知ったのも、全部高校時代なんだね」
「そう言えばそうだな。あの時は、小さな恋だと思っていたけど、今考えたら、アレこそが、真実の恋だったんだな」
「うまい事言うね〜。達也。さすが、あたしがほれ込んだ男だよ!」
「…まだ酒も飲んでないぞ?もう酔ってるのか?」
「あたしは、酔い易いんだ!」
そして、夜は更けていった。
ビールを片手にまだ起きているのは、司と美春と久美子だけだった。達也と玉緒は、その場に突っ伏して、眠っていた。
「やれやれ、この二人はよく寝るね」
「それは、しょうがないな。寝る子は育つ。ただそれだけさ」
突然、久美子と美春が、両側から司にもたれかかってきた。
「大好きだよ。司」
「私も」
「ちょっと、二人とも酔ってるのか?」
そして、同時に言った。
「うん。ちょっとね」
そして、笑った。世界が、いくら変わっても、どんな事が起きても、この事は変わらない。そう思った。




