第13話
第2次世界大戦のころから生き残っているこの防空壕は、雨漏りもせずに、非常に丈夫だった。夜警の職から解雇されて、半月ほどすると、この家の中に備え付けられている半分壊れているカラーテレビの中は、あちこちで起きている、ロボット共和国のかく乱作戦が次々と報じられていた。
「この世界って、どっちが勝ってもあまり変わらないような気がするけど…」
美春が、そのニュースを見ながら言った。
「でも、自分が思うに、自分が所属している種族は、生き残らせたいと言う、本能にもよく似た物が働いていると思うよ」
「そうか〜、とりあえず、昼ご飯作ったよ」
「お、食べる食べる」
テレビは、みんなが使っている机の、みんなが見やすいように、真ん中に埋め込まれていたので、その上に物を置く事ができなかった。
「今日は、ざるそばね」
「へいへい。とりあえず、食べるか」
みんなが食べ終わると、とりあえず、テーブルの周りに集まった。
そこでしている、24時間戦時特別ニューズでは、常に、人類圏が、ロボット共和国に越境され、侵略を受けていると報じていた。すでに、全人類圏の内、4分の1が、ロボット共和国の管理化におかれた事を、発表していた。
「自分達って、こんな状況で何ができるんだろうね」
「あたし達だからこそできる事…ロボット共和国と人間圏との平和的交渉…それぐらいはできる、かな?」
「俺達ならできる!なにせ、ロボットの親友がいるんだから、なあ」
「そう、ね。ボクと宥嶽は、ロボットだけど、こんな状況でも、ボク達に優しくしてくれる、そんな人は、確かに…親友と言えるかもしれないね」
一瞬、言葉に間ができた。しかし、何事もなかったかのように、再び滑らかに話し始めた。「オレ達は、司、美春、達也、玉緒と共に、ロボット共和国に乗り込んで、人類圏との平和的解決をする必要がある」
「…行く?」
「ああ、行こう」
彼らは、この家から、平和をもたらす使者となり、ロボット共和国に行こうとした。しかし、久美子と宥嶽をどうやって連れて行くかが問題だった。
海軍の船に、前と同じ方法で隠れて乗り込むことに成功し、そのまま、最初に停泊した場所で、降りる事に成功した。
「やれやれ、ここから、どうやって行くかが問題なんだな」
「ここは、最前線から、4000kmぐらい離れたところだから、
誰かに乗せてもらうしかないね。
でも、どうやって行こう…」
司達は、とりあえず、先に進む事にした。
ゆっくりと、確実に、道は短くなっていった。背負って来ていたかばんは、昔、同じような戦争の時に背負っていたもので、それが、肩に食い込んでいた。しかし、彼らはそれでも歩き続けていた。
「最前線まで、残り、約1000kmだね」
「もうそこまで来たんだな」
司が、久美子の話に言った。ここまで来るのに、人類圏側の死者は、既に、1000万人に達していた。ちょうど、家を出てから1ヶ月だった。
「ちょっと待って。あの建物は何?」
「あの、赤レンガでできた、10階建てぐらいに見えるタワー?」
「そうそう」
「あれは、この辺りを管轄とする陸軍の見張り棟だよ。周囲300km四方を見回す事が出来るんだ」
「どうやって、そんな情報を得る事が出来るの?」
美春は、久美子に聞いた。
「それを言っちゃ、駄目でしょ」
「まあ、そうだけど…」
そして、その棟の前を通過し、ずっと、先へと進んで行った。
「ここで止まれ!」
ある川の上に、検問所があった。
「なんですか?」
「ここ最近、不審者が増えている。そのために、ここで検問を設けている」
「ここから、最前線まで直線距離で、約30km」
「う〜、ここで足止めか〜」
司達は、検問所で、身体検査、持ち物検査、その他、武器の所有の有無や、年齢、氏名などを、
詳しく、根掘り葉掘り聞かれた。その過程で、久美子と宥嶽が、ロボットである事が発覚してしまった。
「お前達、いったい、何の目的で、人類圏の中に入った?」
久美子と宥嶽は、並んで、尋問を受けていた。窓ガラス一枚隔てて、司、美春、達也、玉緒が、中をのぞいていた。その時、彼らに、近づく人がいた。
「お父さん、お母さん」
「え?」
彼らは、いっせいにその声の主を振り返った。彼らの、息子と娘が、迷彩服、背嚢、軽機関銃を持って、そこに立っていた。
「なんで、ここに?」
「それは、こっちのせりふだよ。なんで、お父さん達が、ここにいるの?」
「この世界を、変えにここまで来たんだ。お前達は、なんでここにいる?」
「人類圏が形成された時に、国連が発展的に解消して連邦政府になったのは、知っているよね?ちょうど、その時、大統領や閣僚に、ほとんどの権限が取られたんだ。戦時内閣と言う理由でね。それで、戦時特別立法と言って、戦争中と言う期間内だけ有効な法律を、どんどん出して、その中の一つに、徴兵令があったんだ。運悪く、それに引っかかっちゃってね」
彼らは、そう言った。
「なるほどな。自分達は、ここ1ヶ月間、何の連絡も取らず、ただ、ひたすらここまで歩いて来たからな。で、お前達の所属は、どこになったんだ?」
「最前線歩哨。詳しく言うと、第3方面隊第1大隊所属第2中隊隷下第18歩兵小隊の隊長」
「…とにかく、小隊長か。う〜ん、普通ならば、喜んでもいいんだろうが…いざ、自分の息子となるとな〜」
「素直に喜べない?」
「そうそう。そう言う事。そう言えば、全員で、その小隊を構成しているように見えるけど…」
「その通りだよ。ただ、今は、二人だけ。他の人たちは、ちょっと休憩中」
そう言っているその目には、生気がなかった。長い間、極度の緊張下におかれている人は、最終的に精神が崩壊すると言う。その最初の兆候のように見えて、司達は、怖かった。
「とりあえず、久美子達が問題だな…」
尋問室の中で、カッカカッカしている、尋問官に対して、まったく動じない久美子と宥嶽。
「じゃあ、お前達は、なんで、人類圏の中にいたんだ?」
さっきから、同じ質問をしていた。
「彼らと、共に生きて、共に育ち、共に分かれるためです。オレ達ロボットは、そんな、基本的な人権すら保障されない世界になったんですか?」
さっきから、ほとんど変わらない答え。
「ボク達は、これまで、数十年間、彼らと共に旅をしてきました。これまでがそうだったんですから、これからも、同じようにして、何が悪いのですか?」
「世界は常に変わるんだ!お前達は、ここに入ってはいけない、ごみのような存在だ!だからこそ、言っている。なんで、ここに、入った?」
そのような、不毛な尋問が延々と続いていた。どちらも、聞きたいことがあるのに、やりたいことがあるのに、生き延びたいのに。そんな事をさせないかのような、そんな印象だった。
そうこうしているうちに、日が暮れた。
「やれやれ、今日はここでとまりだな」
「だったら、一緒に寝る?ちょうど、ベットはいくらでもあるから」
「そうか、だったら、大丈夫だな」
そう言って、司は、尋問中の二人をちらりと見た。
「あの二人なら大丈夫です。もうすぐ、尋問も終わると思います」
「そうか、それなら大丈夫だな」
そうして、とりあえず、人間達は、ここで、眠った。
翌日、近くで、銃撃戦をしているような音が聞こえてきた。司がその音に対して、目を覚ますと、みんなは、まだ気付いていないようだった。尋問が終わったのか、それとも、逃げ出すことがないと分かったのか、久美子と宥嶽も、見た目は眠っていた。
「……起こさずに…」
司は、そのまま、仮眠室と書き殴られた部屋から出た。そして、外を見た。水平線が、真っ赤になっていた。
「朝日…じゃなさそうだな」
時折、激しい閃光と共に、火の手が上がっていた。
「こりゃ、人間側の負けかな…」
「そうでもないかも」
いつの間に起きたか分からないが、司の隣に、美春が立っていた。
「私達は、この戦争をやめさせるために、ここまで来たんでしょ?だから、これからも立ち止まらずに、このまま進んでいくだけよ。でも、前のように簡単にはいかないと思うけどね」
彼女は、笑っていた。何事も恐れないその感覚は、どのようにして培われてきたのか。司は、分からなかった。
「そうだな」
とりあえず、返事だけはしておく必要があると思い、司は、そう答えた。
「うい〜、おはよ〜」
「玉緒か。どうだった?久々のベットは」
「あたしに、こんなベットを買わないでくれ〜」
「駄目だったのね…」
「美春達は、よく眠れたみたいね…」
「そりゃ、こっち側は、どこでも眠れるようにしているからな。でも、寝袋があれば、言う事はないな」
「そう言えば、この周りの人達は、どこに行ったんだろう」
「出征させられました」
建物の中から、司の息子が出てきた。他の子供達も、続々と出てきた。
「一番最初の頃です。戦争が始まって、ほんの数日後。それから、出征場所は、徐々に、こちら側に傾いてゆき、今は、最先進国と呼ばれる国々まで来ました」
「それで、お前達が、ここまで来たと言う事だな」
「そう言う事です。どうしますか?ここまで来た以上、引き返せませんが?」
「…ここまで来たという事は、相当な意図があってきた事。引き返せと言われても引き返さないさ」
その時、ひときわ大きい爆発が起こり、辺りは、光に包まれた。




