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  作者: KOLO×2
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判断

 私の名前は「山岡 五十六」。千八百三十二年生まれだ。いや、『生まれた』と表現すると、あたかも自分から生まれてきたような言い草になってしまうが、当然の事ながらそうではない。『生まされた』。と、表現するのが妥当だろう。つまり、能動態から受動態に言い方を変えたわけだ。

 

 因みに「五十六」と書いて「いそろく」と読む。言葉遊びが好きだ。よく、一人で頭の中で言葉遊びをする。 

 

 一人称が「私」であるが、私は男だ。人を一人称で判断力すると損をするかもしれないぞ。だから、気を付けるべきだ。

 

 私は最近、散歩をする事にハマっている。嵌まっているのに散歩する。何とも言えない矛盾だ。

 

 今日も朝早く家を出て散歩をした。

 

 まさか散歩によって、新しい出会いに出会うとは思わなかった。新しい出会いとは素晴らしいものだ。出会いがあるからこそ、別れもある。私が何を言っているか分からないかもしれない。私が何を言いたいのか、後々分かるだろう。


 今日もいい天気だった。空は青く澄み渡っていた。海を目指して歩きたくなってしまった。しかし残念ながなら、ここから海は遠い。

 

 私が空を見上げながら歩いていると、何かにつまずいた。見るとそれは人だった。そう、蹴ってしまったのだ。倒れている人は意識がなかった。いや、別に私が蹴ってしまったから意識が無くなったとか、そういうわけではない。

 

 私は悪くない。空が澄み渡っているのが悪い。つまり、空がいけないのだ。

 

 倒れている人の身長は大体、百五十五センチメートル位か、またはそれ以上か。髪は男子にしては長く、女子にしては短い。顔はあれだ。俗に言う所の中性というやつだ。

 

 私はこの倒れている子をどうするか迷った。いや、別にお持ち帰りしてうはうはするとか、そんな事は考えていない。もしかしたら男の娘なのかもしれないからだ。

 

 しかしこのままスルーするのはモラル的によくない。私は倒れている人を背負い家に帰り、寝床に寝かしてやった。 

 

 数時間後、その子は目覚めた。

 

 「ここは……どこ?」

 

 それが一言目だった。

 

 「ここは私の家だ。君は外で倒れていたのだ」

 

 と、言うとその子はいや、彼は一瞬驚いた顔をした。

 

 「あ、ありがとうございます。僕……どうなっちゃったんだ」

 

 どうやら、『彼』で当たっていたらしい。よかった。まぁ、彼が驚くのも無理は無い。

 

 「寒い…」

   

 「おっとスマナイ。今、火をつける」

 

 いきなり文句か。可愛い顔をしていなければ、ただじゃスマナイのに……

 

 「この家は『デンキ』が通っていないのですか?」

 

 と、彼は私に聞いてきた。

 

 『デンキ』?

 

 それは一体何の事だろうか。

 

 昔から伝わる書物の事だろうか。いや、確かに伝記は『デンキ』と読むし、伝記は目を通す物だ。しかし、伝記自体を何かに通す物ではない。きっと『でんき』違いだろう。

 

 「『デンキ』とは一体何の事だ?」

 

 私は聞いてみた。すると、彼は困った顔しながら答えた。

 

 「電気を知らないのですか……」

 

 「知らないな……」

 

 「電気とは何か。というのを答えるのはむずかしですね。電気で何をする事ができるのか。それなら、簡単に説明できます」

 

 「では、『デンキ』があれば何ができる?」

 

 「そうですね……元気があれば……じゃなくて、『デンキ』があれば何でもできる!」

 

 どう間違えれば元気と『デンキ』を間違えるのだろうか。私は疑問に思った。

 

 「具体的に言えば、この家全体を暖かくする事ができますし、この家を明るくする事もできます!」

 

 ほう……『デンキ』は案外私の思っている物より凄い物なのかもしれないな。しかし、

 

 「『デンキ』が凄い事はわかった。しかし、君も男なのだからもうちょっと男らしくすればどうなのだ。男ならこの位の寒さ耐えられるだろう?」


 すると彼は「男らしく……」と呟いた。

 

 そして俯いた。どうした?何か気に触る事でも言ったのか?あ……まさか……

 

 「僕は女です」

 

 しまった。男の子に女の子みたいだね。と、言うのはまだセーフだ。むしろ言われたら密かに喜ぶ人もいるかもしれない。しかし、女の子に男の子みたいですね。なんて言ってわいけない。男心はそれなり図太いが、女心はそれ以上に繊細だ。一概には言えないが。


 そういえば私は『一人称』で人を判断してはいけない。と、さっき言ったばかりじゃないか……

 

 反省をしなくては。半生くらいまで反省しよう。嘘だ。ちゃんと一生反省する事にしよう。 


 「わるかった。別に悪気があった訳ではない」

 

 そう。私は正気を失ったわけではない……無理矢理過ぎたか。

 

 「いえ……一人称が『僕』だから仕方がないですよ」

 

 本当にスマナイ……

 

 「それにしても、君はどこから来たんだ?」

 

 私は話を変えてみた。気持ちを切り替えたかったからだ。いや、単に彼女を試したかっただけだ。

 

 「えっと……そもそもここはどこなんですか?」


 おっと。質問を質問で返されてしまった。まぁ、それもそうだろう。ここがどこかわからないのにどこから来たも何も無い。

 

 「そうだな……君はここがどこでどんな場所だと思う?」

 

 私がした質問を質問で返されたのでそれを質問で返してやった。

 

 「そうですね。なんか、タイムスリップしたような感じがします」

 

 タイムスリップ……よく聞く話だ。

 

 「それか異世界転移」

 

 それもよく聞く。伊勢という世界に転移してしまったと思っているようだ。しかし、残念ながらここに伊勢海老はない。

 

 「残念ながら、ここが伊勢の世界とか過去の世界とかそんなことはわからない」

 

 「えっ、そうなんですか」

 

 質問をしてわかった。どうやらこの女の子も勘違いをしているようだ。いや、忘れているのだ。

 

 「しかし一つだけ、私の知っている真実であり事実がある」

 

 最初は誰もがそうだ。俺もそうだった。

 

 「君は忘れている」

 

 「忘れている?何がですか?」

 

 思い出したくない思い出だろう。心に閉まっているのだろう。非現実的でだから気づかない。忘れてしまっている。非現実的。そうだ。これは現実ではない。空想で幻想だ。

 


 私は彼女に教えてあげた。

 

 

 

 「君は、死んだんだよ」

 

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