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  作者: KOLO×2
2/6

『し』②

 俺はあの日、確かに闇を見たのだ。でも、最初は空中楼閣くうちゅうろうかくに過ぎないのかもしれないと思っていた。小学校低学年の、特に男の子はよく妄想する。その妄想の一種なのかもしれないと思ったのだ。

 

 しかし、おばあちゃんの件から数年たったある日。それは根拠の無い架空の事物から、根拠の無い現実の事物に変わった。 


 俺はとある駅にいた。その時は昼頃で太陽も明るい時間だ。俺の服はびちゃびちゃに濡れていたが、それでも体は暖かった。

 

 駅には殆んど人はいなかった。いや、案外いたのかもしれないが。

 

 俺はホームの端の方で電車を待っていると、何やら寒気を感じた。悪寒だ。すぐにそっちの方を見てみようと思った。しかし、恐くてそっちの方を見ることができなかった。恐怖。

 

 しかし、恐くても万が一、いや十が一の事を考えると俺は見るしかなかった。

 

 俺は勇気を出して悪寒を感じる方を見てみると、案の定そこにはいたのだ。痩せ細った中年と、その後ろに暗闇が。「し」が。

 

 痩せ細った中年も俺と同じくホームの端の方で電車を待っているのだろう。どうやら、中年男性は「し」に気付いていないらしい。暗闇は、いや、「し」は後ろで顔の半分まで口を裂いて笑っている。口が無いのに。

 

 暗闇はノロノロと中年の後ろで何かをしようとしている。

 

 俺はつい「あの……」と声が出てしまった。中年男性はコッチを振り向くと、「何か」と普通の人では考えられないくらいの闇を感じた。その顔は蒼白く、そして暗い。

 

 「いえ……何でもありません……」

 

 「そうですか……スイマセン」

 

 中年男性は俺に謝ってきた。

 

 「いえ、こちらこそスイマセン」

 

 『二番線に電車が参ります。危ないですので、黄色い線からお下がりください』とアナウンスが入った。

 

 ガタンゴトンと電車が走る音が聞こえてきた。

 

 「闇って恐いですよね。まぁ……もう……見えないですが」

 

 突然中年男性は俺に言ってきた。俺にはそれが何を意味するのか分からなかった。いや、もしかしたらそれは幻聴なのかもしれない。もしくは、記憶の改変。とりあえず、そんな事を中年男性は言っていたような気がしたのだ。


 次の瞬間、闇は中年男性を勢いよく押した。推したのだ。

 

 中年男性はぐちゃぐちゃになり、血が飛び散った。 

 

 それを見た俺は唖然とした。暗闇はコッチを見た。俺と目があった。刹那、俺は全速力でその場から逃げ出した。

 

 ホームの真ん中辺りまで走り、回りに何人か人がいるのを確認してから、後ろを振り返った。

 

 しかし、そこには赤い水溜まりと赤い塊しか無かった。

 

 

 

 俺は家に無事に帰った途端にベッドに潜り込んだ。

 

 「こわい……死にたくないよ……」

 

 泣きながらそう言った。

 

 「し」は一体何なのだろうか。人?いや違う。妖怪?いや違う。分かっている事は、よくわからない魑魅魍魎の類いという事だけだ。

 

 殆んど何も分からない。と、いう事が分かっている。つまり、一種のパラドックスだ。

 

 俺はそれから、「し」がまた現れる可能性がある事が恐ろしく、毎日ベッドの中で泣いていた。

 

 恐かった。恐ろしかった。俺は死にたくなかった。いつ現れるのだろうか。次に見た時は俺が……

 

 「し」が恐くて泣いていたわけではないのかもしれないが、俺は毎日ベッドの中で泣いたのだった。

 

  

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