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  作者: KOLO×2
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『し』①

 先週、俺の家族が全員事故でなくなった。俺の知らない所で。俺の居ない時に事故に遭ったらしい。俺は一人になってしまった。全く、この世の中はいや、神様は俺の事がどれだけ嫌いなのだろうか。本当、おかしい。そのおかげで俺の長年の悩みが解決してしまうなんて。いや、おかしくないのかもしれない。

 

 俺は今、駅にいる。辺りはもう暗かった。

 

 駅のホームには帰宅する人がポツポツと何人かいるだけだった。辺りは静寂に包まれている。静寂。閑静。ものしずか。しかし俺の心は静かではなかった。相反する欲求の間で悩んでいた。つまり、心の中に葛藤を生じていたのだ。

 

 すぐ横には闇が満ちていた。その闇だけは辺りの闇とは少しどこか違っていた。辺りより暗く、そして濃い不気味な闇だった。闇はうねうねしながらある形を作り初めていた。

 

 ハァーと、ため息をつくように息を吐くと、とそれは明かりに照らされ白い煙となり、そして闇の中に消えていった。

 

 今まで何も受け入れる事ができなかった。いや、できなかったのではなくしなかった。でも、一つだけあることを受け入れる事にした。いや、まだ迷っているのかもしれない。俺は何か勘違いをしていたのだ。

 

 俺が初めてあれを見たのは今から何年前の事だろうか。確か…小学校低学年の時だったと思う。

 

▲▲▲ 

 

 夜、おばあちゃんと二人で寝ていた時だった。俺は元々おばあちゃんっ子で、よくおばあちゃんと遊んだりおばあちゃんとおやつを食べたりした。何でもおばあちゃんと一緒だったのだ。あの時は凄く幸せだった。おばあちゃんだけいればそれだけでいいと思っていた位だ。

 

 俺はおばあちゃんと一緒の布団の中で、明日はおばあちゃんとどんな遊びをしようか、などと考えてた時だった。足元の方から足音がしたのだ。その足音は、普通の足音と違った。一歩一歩が遅かった。足音の主は緩慢かんまんに動いているのだろう。そして、暗く低い音だった。俺は怖くなり布団の中に潜った。その足音はゆっくりと近づいてきて、寝ている布団の上に俺のすぐ近くにきた。

 

 おばあちゃんの方からゴソゴソと音がした。おばあちゃんは何をしているのだろうか。いや、おばあちゃんが何かをしているのではなく、何かよくわからないものがおばあちゃんに何かしているようだ。

 

 俺はゆっくりとおそるおそる布団から顔を出し、足元の方を覗いてみた。そこには、暗い何かがあった。人の形をしているのかもしれない。しかし、首はなく頭も胴が伸びたような感じで、とにかく暗かった。目も口も鼻も無い。あるのかもしれないが。


 そのよくわからない暗い何かがおばあちゃんに何かをしていた。

 

 それを恐れ、俺は布団を慌てて被った。すると、その闇は俺に気付いたらしい。

 

 「見える、のか」

 

 と、人間では出せないくらいの低い声で俺に聞いてきた。俺はあまりの恐怖に狸寝入りをした。しかし、

 

 「見えて、いるん、だろ」

 

 暗い何かは耳元でそう言った。また無視をすると、何をされるかがわからない。だから、小さな声で

 

 「誰ですか」

 

 と、聞いてみた。すると、それは突然布団をめくってきた。恐くて大声で泣きそうになった。すると、

 

 「しー」

 

 と言った。口は無い。なのに笑っている。その笑顔は一体何の笑顔なのかわからなかった。

 

 「俺は、し、だ」

 

 「し」はそう言った。そして、

 

 「君は、俺が、見えて、いるんだろ」

 

 と、またもや聞いてきた。俺はおそるおそる「はい」と頷いた。

 

 すると、フフッ……と笑い

 

 「じゃあ、また、今度」

 

 と言って「し」は出ていった。

 

 俺はやっと恐怖から開放された。あまりに恐ろしい出来事だったので、俺は泣きながら隣で寝ているおばあちゃんに抱きついた。

 

 

 おばあちゃんは冷たかった。

 

 

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