第1話 引越し先の住人達 3
「くっ、女の子に暴力ふるうなんて最低! 覚えときなさいよ!」
「そうだー! 覚えてろー!」
威勢よく啖呵を切った2人だったが、廊下に出たところで力尽きたのか、足を絡ませて崩れ落ちた。そんな2人を見て俺はゆっくりとセミロングに近づいていき、
「おいお前。覚えてろって言ったのか? 悪いことをしたのはお前らなのに、全部俺のせいにするのか?」
容赦なく頭を踏みつける。
「お、女の子の頭踏むとか信じられないんだけど。どういう神経してんの? ちょ、ちょっと待って、ホントに痛い……あの、すいません調子に乗ってました」
ふむ、ようやく謝罪の言葉を口にしたか。仕方ない解放してやろう。
「ったく、お前ら説教してやる。正座しろ」
「えー、ヤダー」
「こんなコンクリートの廊下で正座とか、いじめだよね」
「せ、い、ざ!」
『はい』
俊敏に姿勢を正した2人を見下ろしながら、俺はため息とともに言葉を吐き出していく。
ちなみにリーゼントもどきはまだ気絶している。
「お前らあれだろ? 高校生なんだろ? 良い年こいてなんで善悪の区別がつかないんだ?」
「フッフッフッ、高校生がみんな賢いと思うなよ!」
なんなんだこいつらは……。
「いいか、なにも二階で遊ぶなとは言わない。だが俺に迷惑をかけるな。俺の部屋に来るな。今まで通り201号室で遊んでろ。そうすれば、俺だってお前らを殴らないで済む」
「なに言ってんのー。同じアパートに住む者同士、コミュニケーションは大事じゃーん」
「そうそう、じゃあコミュニケーションの一環として自己紹介してあげる。あたし坂咲美優、101号室に住んでるの」
「おい、誰が立っていいっつったよ」
「はいはーい! うちは如月香音! 102号室がねぐらだぜぃ! 3人ともピチピチの高校2年生なんだぜぃ!」
「だから誰が立っていいっつったんだよ」
人の言うことを全く聞かない、心底腹立たしい連中だ。ちなみにリーゼントもどきはまだ気絶している。
しかし名乗られたからには、こちらも名乗らなければなるまい。なんせ俺は良識ある一般人であり、ジェントルマンだから。
「やれやれ、俺は亜久津玲也だ。大学2回生やってる」
「ほえー、じゃあうちらより2コか3コ年上なんだねー。はいよろしくー!」
満面の笑みで強引に握手してくる如月に殺意を覚える。馴れ馴れしくて鬱陶しいなこいつ、親の顔が見てみた……あぁ納得だわ。
「よろしくじゃない。これ以上俺にかまうな。つーか視界にすら入るな、目と心が汚れる。バカが染る」
手を強引に振りほどき容赦なく拒絶する。
「……なんでこんな偉そうなわけ? こいつ何様?」
「ねー、葵荘じゃうちらの方が先輩なのにねー」
小声だが聞こえるようにヒソヒソ喋ってるのが腹立つんだよな。俺に近づくなというだけの要求がなぜ飲めない。どこまでバカなんだよ。
「う……ん……」
今後の生活に一抹の不安を感じていると、転がってるリーゼントもどきが目を覚ましたようだ。もぞもぞ動いてる。
「いてて……気ぃ失ってたのか。うわ血ぃ出てんよ。ざけやがってあの野郎、次会ったらブチ殺してやる」
「ほぉ、今がその『次』なわけだが、誰をどうするって?」
顎を押さえながら廊下に座ったリーゼントもどきの前に立ち、薄く笑って話しかけてやると、電池が切れたおもちゃのようにピタリと動きを止めた。そして分かりやすいくらいに顔が白くなっていく。
「誰を、どうするって?」
「…………な、なにがすか?」
「あの野郎をブチ殺すんでしょ? ほら、早くあの野郎を殺しなさいよ」
「ミユてめぇ! ダチを窮地に追いやるつもりか! 薄情もんがぁ!」
リーゼントもどき焦り過ぎだろ……まぁどう考えても俺に勝てるわけないもんな。黒歴史量産機だった俺は、番長ごっことか……やってたん……だから……ダメだ! 思い出したら死にたくなってきた! 俺の過去がヤバイ!
「うわー、口だけですよこの男。イキってるだけのダサ男ですよー」
「髪型もダサいしね」
「髪型関係ねぇだろ! 好き放題言いやがって! 上等だよ、こんな奴屁でもねぇ! ぶっ殺してやらぁ!」
「――――あ?」
「いやなんでもないっす。ただほら蚊がね? 季節外れの蚊が飛んでるんすよ。だから殺しといた方がいいかなーって」
「このダメリーゼント!」
「ダサい! さいっこうにダサいよこの人ー!」
我が睨み一発で畏縮したリーゼントもどき、女性陣から非難殺到。元気が有り余ってるようで実に不快だ。
「とにかく、もう俺んちに来るな、話しかけてくんな、分かったな?」
「えー、仲良くしようよー」
「お前らみたいな悪ガキとつるむ気はない」
短くそう吐き捨てて、俺は足早に自室へと帰った。
あんなのと同じアパートなんて、なんて恐ろしいんだ……今後もあまりにもうるさいようだったら、真剣に何か対策を練らねばなるまい。親に苦情を出したいところだが、ヤクザにお水じゃ分が悪いし……管理人さんくらいには言ってもいいかもな。
バカを相手にして疲れたので、ペットボトルのお茶を口に含んで一息入れる。まだ何もない部屋を見渡し、改めて引っ越してきたんだということを実感した。
「ふぅ、今何時……」
ポケットから携帯を取り出したところ、タイミング良く着信音が流れ出した。引っ越し業者からだ。
「はいもしもし」
『お世話になります引っ越しセンターです。今家の前に着いたんですが、お荷物を運び入れていいですか?』
「お願いします。あ、でもちょっと部屋が変わったんで、降りていきますね」
『はい分かりました』
というわけで業者の人達を新しい部屋に案内し、手際よく荷物を運んでもらった。その間、1番心配だった悪ガキどもは姿を消しており、流れるように作業は終了。元々荷物が少ないこともあって、20分ほどしかかからなかった。
「どうも、今回はご利用頂きありがとうございました! 次の機会があればまたよろしくお願いします」
「こちらこそどうもです。お疲れ様でした」
業者の人とにこやかに別れを告げ、段ボールの山が積まれた部屋へと向き直る。
さぁここからは俺の仕事だ。完璧なレイアウトにしてやる!