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葵荘  作者: ミロ
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第1話 引越し先の住人達 2

「今は……2時か。確か4時頃に荷物が届くはずだから、ちょっと猶予があるな」


管理人さんと別れてから、畳の上でゴロゴロしてみる。しかし期待とは裏腹に、畳の香りは一切しない。きっとかなり古いんだろうなぁ。腐ってないだけ良しとするか。

ついでたからキッチンの蛇口やトイレ、風呂などの水回りに問題ないかを点検し、ガスや電気も確認。

よし、全部大丈夫だ。


「まだ時間あるし、下の連中に挨拶しに行くかな」


礼儀と常識を重んじる自分に感動。素晴らしい人間力だ。

手荷物から綺麗に包装された茶菓子を取りだし、部屋に鍵をかけて一階へ。

 今日は日曜だし、みんな家にいるだろう。まずは101号室、さっきの管理人さんの住む部屋だ。



 ~101号室の場合~


「あらあら、あなたが亜久津くん? どうも初めまして、坂咲といいますー。ところで話は聞いてるわよ、山陰大学の学生さんらしいわね。こんなオンボロアパートを選ぶくらいお金に困ってるとかあらっ! お茶菓子なんていいのに、引っ越しの挨拶だなんてしっかりした良い子だわねー。みんなで美味しく頂くわ。ちょっとあなた! 亜久津くんが挨拶に来てくれたわよ!」


 おばちゃんパワーすごいな。口を挟む隙がない。


「おお、さっきぶりだね亜久津くん。わざわざ悪いねー。まだ娘は帰ってきてないから、帰ってきたら挨拶に行かせるよ」


「え? いいですよ、あの不良でしょ?」


できれば関わりたくない。


「まぁまぁそう言わずに。ああ見えて本当は良い子だから、遊んであげてよ」


「あなた、亜久津くんが困ってるじゃない。続きはうちの中でお茶でも飲みながらにしましょ。さぁ入って」


「あぁそうだな、母さん、ボクはコーヒーをもらうよ」


まずい! 圧倒的おばちゃんパワーに呑まれようとしている! 迅速に断らないと今日1日軟禁されてしまう!


「すいません。あと2件挨拶が残ってるんで。そのあともやること満載なんで。いやほんと、忙しいんで失礼します」


「あらそうなの? 残念ねぇ」


「はいそうなんですさよなら。失礼しまーす」



~102号室の場合~


「あぁん? 誰じゃお前」


ヤクザかよ……


「今日2階に越してきた亜久津です。これからよろしくお願いします。あと良かったらこれ食べてください」


こういう輩には無難な言葉を淡々と連ねるだけに限る。可能な限り手短に、且つ穏便に立ち去るべし!


「おーそうかそうか、話は聞いとるぞ。律儀に挨拶に来るたぁ、最近の若いのも捨てたもんじゃねぇな。俺は如月ってんだ、1人娘がいるんだが、あのバカは遊びに行っててな。まぁよろしく頼むわ」


ふむ、娘ってことはあのポニーテールか。しかし妻の話題が上がらないとこを見ると、いないんだろうな。その理由を詮索するほど野望じゃないが。


「しっかし兄ちゃん、引っ越し早々俺と会えるたぁ運が良いな。俺は仕事上、月に1回帰ってこれたら良い方なんじゃ」


「そうなんですか? 大変ですね」


「あぁ、だから娘には寂しい思いをさせとる。悪いとは思うが、生きていくためにはしゃあないからな。ちょっと素行不良なとこはあるが、良い……良い……良い? 娘じゃ。暇な時はかまってやってくれや」


絶対良い娘じゃないんだな。だいたい髪の毛が赤い時点でおかしいもんな。そんな普通とは逸脱した奴をかまうわけないだろが。

そんな確固たる決意を胸に、俺は笑顔でこう言った。


「分かりました」



 ~103号室の場合~


「はぁい、どなたぁー?」


「こんにちは、二階に越してきた亜久津です。挨拶に伺いました」


「ふーん、こんなゴミみたいな場所によく住む気になったわね。あー眠たい」


なんつーかこう……ケバい。そして妙に薄着だ。間違いない、水商売の人間だわこれ。


「あの、これよければ食べてください」


「なにこれ? 和菓子だったらぶっ飛ばすよ」


ごめんなさい和菓子なんです。


「それからさー、あたし基本的には日中寝てるから、あんま家に来ないでくれる? 夜の仕事って疲れるのよ」


はいそうですね、水商売って大変ですもんね。


「どうしてもって時は和樹に要件伝えといて。あたしの息子。金髪のリーゼントもどきだから、見たらすぐ分かるわ。それじゃバイバイ」


息子が誰なのかを把握したところで扉は閉ざされた。結局名乗って貰えなかったけど、まぁいいだろう。生活のサイクル的に、あのお姉さんと会うことはまずないだろうし……つーか若かったよな。あの人いくつなんだ? あんなでっかい子どもがいるんだから、どんなに若くても30後半……?

なんて実りのないことを考えながら自室へと戻っていく。何はともあれ、挨拶は済んだ。あとは荷物が届くのを待つだけだな。それまでは部屋で寝転んでよう。


「ただいまーっと」


 そう決めて部屋に入った途端、


「チースお邪魔しまーっす」


「入りまーす」


「ヒャッハー!」


俺は言葉を失った。


「いやーなんもねぇなー」


「そりゃそうでしょ。荷物がまだなんだから」


「うわー広……くなーい! 狭ーい! でもなにもない分うちより広ーい!」


遠慮なく、ズカズカと勝手に上がり込んだのは先ほどの不良ども。黒いタンクトップに迷彩柄のズボンを履いたリーゼントもどき、上下に黒いジャージをまとったポニーテール、白のパーカーにジーパンという無難なスタイルのセミロング。

 見るからに不良の3人組が、主の俺を無視してクソみたいな会話を繰り広げ笑っている……


「なんか食うもんねぇか? リュック漁ろうぜ」


「……おいガキども。なにをしてるんだ?」


「あ? 文句あんのかコラ」


「あるに決まってんだろ後ろ回し蹴りぃ!」


「ぶはぁっ!」


 睨みをきかせてきたリーゼントもどきを容赦なく蹴り倒す。こんな不良にかけてやる慈悲などない。


「お前らには常識ってもんがないのか!」


「ってぇなコラ! ざけんなよオラァ!」


「怒りの右ストレートォ!」


「ごっはぁ!」


 カウンターが完璧に顎に入り、リーゼントもどき撃沈。しばらくは目を覚まさないだろう。


「カカカカズがやられたよ! あっさりと!」


「まずいわね、撤収! 体制を立て直ーす!」


女2人がリーゼントを担いで退室していこうとするが、男1人を運ぶのはなかなか大変なようで、非常に動作が遅い。


「おい、2度と来るなよ。分かってんのか?」


 近くにいたポニーテールの脳天を、グーで小突きまくる。


「ちょ、痛っ、痛い。ミユ早く行ってよ! 頭蓋にゴンゴンきてるからー!」


「しょうがないでしょ! こいつ意外に重いんだもん!」


「返事はどうした? 来るなっつってんだろ?」


「ちょー痛い! げんこつの威力増してきてるって! 確実に頭割りにきてるってー!」

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